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Double-Action ZX-Hayate form(後編)」(2008/08/15 (金) 22:27:18) の最新版変更点

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**Double-Action ZX-Hayate form ◆WXWUmT8KJE  村雨はハヤテを一瞬で回収し、零を壁に叩きつけ、勢いよく壁を砕いて崩れゆく民家を抜け出す。  村雨の電子頭脳がクルーザーを呼び出し、夜の闇にクルーザーのライトが光る。  ブオン!と排気音が唸り、風を切り裂いて天にクルーザーが踊る。  村雨は左手で零を持ち、左腕でハヤテを抱え、右手でハンドルグリップを握る。  そのまま地面へとクルーザーを落とし、前輪が大地を噛み締め、左足を軸に後輪を滑らせる。  火花が散り、ブレーキゆっくりとかけながらクルーザーを停止させる。  ようやく止まった車体の上から、村雨は瓦礫を昇る少女を睨みつける。 「し……死ぬかと思った……」 『良、油断するな! あやつの姿は女子供だが、気配が尋常ではない!』 「分かっている」  零に答える村雨を数秒見つめていたかと思うと、少女はニヤリと笑う。  笑ってばかりの女だと思いながら、相手の出方を伺う。  理由はハヤテが要るからだ。下手に仕掛けては、彼の身がもたない。 「ここに向かってきて正解だったな。まさか、村雨良と出会えるとは」 「キサマ……なぜ俺を知っている?」 「ククク……現人鬼と名乗る、私と同じ化け物<フリークス>よりお前の情報を血から読み取った」 『読み取った? キサマ、何者だ!』 「私の名を尋ねるか、強化外骨格「零」よ。いいだろう、私の名はアーカード。葉隠散の血を吸いし、吸血鬼だ」  その一言に、村雨は眼を剥く。さらに、村雨でも判断つかない激情が、身体を駆け巡った。 「どうだ? 私と同じような化け物<フリークス>よ。人の記憶は取り戻したか? それとも、いまだ自分のルーツが分からず、迷い子のように彷徨うだけか? 散は私に星義を見せて散っていったぞ? 己のルーツを知らないとすれば、お前に私は討てない」 「あなたが……散さんを殺した……」 「そうだ、糞餓鬼。それがどうした? 散の記憶にお前などない。それでも散の仇を討つ為に、お前が私に立ち向かってくれるのか? そこの記憶喪失の化け物<フリークス>よりは楽しめるだろうから構わんぞ」  ハヤテはギリッと悔しげに歯を噛み締める。  村雨の大事な人、葉隠散は目の前の化け物に殺されたのだ。  理不尽に、マリアのように。  許せないという想いが、ハヤテを駆け巡る。  アーカードはそのハヤテを見て、満足そうに頷き、失望したような表情で村雨を見る。 「哀れだな、化け物<フリークス>。その糞餓鬼のように怒ることも、悲しむこともしないか。 人としての生を失ったお前に、空っぽのままのお前に、何の価値がある? 犬の餌になって死んでしまえ」 「確かに俺は空っぽだ……」  村雨はクルーザーから降り、ハヤテと零を置いて前に進む。  その背中に、ハヤテと零の視線を感じながら。 「記憶も……悲しみも……ない。あるのは散からもらった、痛みだけだ。パピヨン……奴に対する感情も、怒りではなかった。 あれはただの逆恨みだ。だが、散が死んで一つ思い出したものがある」 「ほう、それは何だ?」  村雨は風に薄汚れたマントをなびかせ、右手の平を天に向け頭の高さまで肘を曲げたまま上げ、右腕を左方向に突き出す。  左拳を右手首ほどの位置で固定し、両脚を肩幅まで開く。  そのままアーカードを見据える村雨の瞳に、静かに、深く、熱く燃え上がる感情が宿る。  パピヨンの時に感じた感情とは違う。許せない。己が身のためでなく、誰かのためにそう思う。  これが…… 「これが……真の怒りか……」  村雨の身体から上がる粒子が、その身を変化させていく。  カミキリムシを模した赤い仮面にエメラルドの複眼。シャッター状の銀のマスクを携えた仮面。  赤い強化スーツに白いボディーアーマーを持つ戦士が、緑のマフラーをなびかせて吸血鬼の王の眼前へと姿を見せる。 「その怒りで、この吸血鬼に何を見せる? 化け物<フリークス>」 「ハヤテ、零と一緒に逃げろ。あいつは……俺が殺す!」  零とハヤテに告げて、ZXは地面を蹴る。  吸血鬼とパーフェクトサイボーグ。  人外同士の激突に、空気が震えた。 「あれが……村雨さん?」 『そうだ。どういう経歴かは知らぬが、良の身体は機械が大部分を占める。 元の人としての部品は、最早脳だけだ』 「それで化け物だと、あの吸血鬼はいったのですね」 『……恐ろしいか? 良が』  零の問いにハヤテは目を瞑り、今までの村雨を思い出す。  といっても、あったばかりでどういう人なのか、詳しく知っているわけではない。  それでも、ハヤテに声をかけ、勝手に気絶した自分を零と共に助けてくれた。  自分がマリアを失って悲しんだように、散を失って村雨は悲しんでいた。  そして、その散を殺した吸血鬼、アーカードに立ち向かっている。  マリアをだしに、自分を殺し合いへと誘ったガモンに、ハヤテが立ち向かったように。  外見だけなら村雨は化け物なのだろう。それは余りにも禍々しく、余りにも人とかけ離れた外見を持っていた。  それでも、化け物だと怖がることは、ハヤテには出来ない。 「見くびらないでくださいよ。これでも、ロボや喋る虎と戦ってきたんですから。 今更、正義のサイボーグなんて、古いですよ。サイボーグ009じゃあるまいし」  チッチッチと零に対してハヤテは人差し指を振る。  零の呆れたため息を耳にしながら続きを告げる。 「それに、借金取りに比べたら村雨さんなんて怖くありませんよ。 零さんは借金取りの恐ろしさを知っていますか? 骨までしゃぶる恐ろしい連中ですよ」  もっとも、これは強がりだ。承太郎が死に、ガモンのような化け物がいる。  変身した村雨の拳を、平然と受け止める少女の姿をした吸血鬼がいる。  怖くないはずが無い。それでも、震える脚に活を入れて、ハヤテは二本足でしっかりと地面を踏む。 「零さん、ここにいてください」 『どうする気なのだ!? ハヤテ!!』 「戦います。どこまでやれるか分からないけど、これ以上……」  ハヤテの脳裏に、悲しみを浮かべる主、ナギの顔が浮かぶ。  雪の中、マリアとの出会いが再生され、二度と会えないことを噛み締める。  そんな思いを、あの吸血鬼は多くの人に与え続けるのだ。 「これ以上、お嬢様や村雨さんのように悲しむ人を増やすわけにはいかない! 僕は……」  ヒナギクのちょっと怒った顔が思い浮かぶ。  こんなことを言えば、彼女は怒りそうだ。それでも、ハヤテは宣言する。 「僕は、男ですから!!」  454カスールを構え、ハヤテは地面を蹴る。  疾風のごとく――  ZXの拳が風を切り裂いて、アーカードに迫る。  轟音振りまく拳を、アーカードは己が細い腕を振るって右拳をぶつける。  拳と拳の衝突。まるで十トントラック同士が衝突したような衝撃と轟音が空気を震わせる。  凄まじい衝撃を身体に感じつつも、二人の化け物<フリークス>はそのまま拳の連打を続ける。  ZXの右拳がアーカードの肩の骨を砕き、アーカードの右拳がZXの胸部のアーマーにヒビを入れめり込む。  続けてZXの左の二連打がアーカードの太ももと脇腹に命中し、アーカードが血反吐を笑いながら吐く。  アーカードは愉悦に浸った妖艶な笑みを浮かべたまま、ZXの頬に左ストレートを思いっきりぶち込んだ。  ZXの銀のクラッシャーから血反吐が吹き出て、二人の右拳が再度衝突する勢いで数十メートルほどの間合いが開く。  ニィっと笑うアーカードの傷が塞がっていく。ZXも傷から粒子が立ち上り、傷が塞がっていくが、圧倒的に遅い。 「どうした? 再生だけなら下級の吸血鬼でも出来ることだぞ? お前の芸を見せてみろ!」  ZXは無言。答える手間も惜しい。  ZXの両肩より霧が出て、ベルトが淡く光る。アーカードが興味深く見つめる中、霧が晴れた先に三人のZXがいた。 「ほう、目くらましか」  襲い掛かってくるZXを前にしても、アーカードは動じない。  むしろ、つまらなさそうに腕を組む。 「村雨良、付き合ってやろう。キサマの児戯にな」  三人のZXの拳がアーカードをすり抜け、右に移動した瞬間、アーカードの横を後ろから現れたZXの拳が通り過ぎる。  後ろからの攻撃を避けられて驚くZXの腹に、アーカードの踵がめり込み、砲弾のような勢いでZXの身体が雑居ビルへと激突する。  崩れていく瓦礫に埋もれるZXを見下しながらアーカードは進む。 「どうした? まだ眠りにつくには早いぞ」 「う……おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」  ZXの腕のシャッター部よりチェーンが飛び出て、アーカードを拘束する。  地面を蹴り、高速でアーカードへと迫るZXは右腕を大きく振りかぶる。  ZXは怒りを吐き出すように、始めて己が技を叫ぶ。 「ゼクロス……パァァァンチ!!」  そのまま音の壁を破る拳はアーカードの頭をいとも簡単に砕いた。  しかし、アーカードより発せられるプレッシャーが消えることは無い。  戸惑うZXに、首の無いアーカードが頭を鷲掴みにする。  刹那、ZXの身体が木偶人形のように振り回され、地面へと叩きつけられる。  二、三度ボールのように跳ねたZXは痛みに身体を震わせ、立ち上がる。  蝙蝠がアーカードの首に集まり、顔を構成してく。  再び黒い長髪をなびかせ、幼い少女の顔を持つアーカードは拍手しながらZXを称える。 「なかなかタフだ。それに速く、技の切れもいい。技の繋ぎ方もそう悪くは無い。 散の記憶よりお前の技を知っていなければ、さすがの私も一時的に行動不能になっていたかも知れぬな」 「黙れ。キサマが散の記憶を語るな」 「なぜ語らせる? それが不満なら、お前が黙らせろ。吠えるだけの駄犬でもあるまいし」  アーカードの挑発に応えるように、ZXの瞳に炎が宿る。静かに燃える、青い炎が。 「そうだな……今すぐ黙らせてやる」  ZXのマイクロチェーンが再びアーカードを襲う。  あっさりと避けたアーカードだが、マイクロチェーンは電柱に巻きついて、巻き取る勢いを得たZXが速さを上げて突進してくる。  それも散の記憶で見たものだと、アーカードが落胆の様子を見せる。  それでも、ZXは進むしかない。  瞬間、一陣の風が吹いた。 「アーカード!!」  ハヤテの声と共に、銃弾がアーカードを掠める。  ほうっと、呟き振り返るアーカードは嬉しそうに告げる。 「ついにキサマも参戦したか。糞餓……」  しかし、アーカードの視線の先にはハヤテはいない。  あるのは、マイクロチェーンを移動する454カスールを握る『左腕』のみ。 「武装錬金!!」  ハヤテが叫ぶ。同時に巨大な拳がアーカードの全身を叩き潰し、跳ね飛ばす。  今度はアーカードが雑居ビルへと叩きつけられた。  ハヤテの上半身がマイクロチェーンをつたりながら、身体の各パーツをくっつけてZXの傍に立つ。  ZXの腕がマイクロチェーン上で分解され、一瞬で再構成される。 「村雨さん、僕も戦います。この『スタンド』と『核鉄』で!」 「……なぜ逃げない? そのために零とクルーザーを置いてきたんだが……」 「僕はあなたのように、あいつに大切な人を殺されたわけじゃないです。 でも別の奴に、大事な人を殺されました。……もう二度とそんな思いはごめんです」  ハヤテは寒い冬の公園でナギと出会った日を思い出す。 「僕は借金に塗れて、お嬢様を誘拐しようとした、どうしようもなく荒んで汚れた人間でした。 その僕を、お嬢様はあろうことか、執事として雇ってくれました」  ヒナギクの気の強そうな、それで見ていて気持ちのいい笑顔を思い出す。 「ヒナギクさんは、完璧超人だけど、どこか可愛いところもあります」  高所恐怖症だったり、お化けに脅える彼女の姿が浮かび、ついハヤテは微笑む。  彼女たちだけではない。死んだマリアもハヤテにとっての恩人だ。  もう逢えはしない。そのことに、どれだけの人が悲しむのだろう。  怒りと共に、その悲しみを振りまこうとする存在を睨みつけながら、ハヤテは宣言する。 「あいつは、僕の人生をピカピカにした、大事な人たちを奪う。 その人たちを守るために、僕の命はあるんです!」 「……俺にはまだ、お前の言葉が理解できない」  ZXの感情の篭らない声がハヤテの鼓膜に響く。ハヤテはZXの言葉に落胆する。  自分の言葉は記憶喪失の村雨には届かないのか?と。そのハヤテに構わず、ゆっくりとZXはハヤテの傍に並んだ。 「だが、理解したいと思う」 「村雨さん……」 「ハヤテ、一つ忠告しておく。俺のマイクロチェーンは高圧電流を流す」 「ええっ! 下手したら、僕さっき死んでいた……?」 「そうだ。だが、今回は使わない。安心してマイクロチェーンを利用しろ」 「……いや、黙っていてくれた方が安心して使えたんですが」 「そうか」  ZXの返し方に呆れているハヤテの眼前で、瓦礫が飛び散る。  中央からゆらりと幽鬼のごとく現れたアーカードに背筋を凍らせながらも、怯まない。  綺麗な黒髪が宙を舞い、アーカードは顔に狂喜を浮かばせる。 「人と化け物が徒党を組むか、面白い! さあ、そのスタンドを繰り出せ! 核鉄を発動させろ! 赤く光れ! 化け物として、砕けても砕けても前進を続けろ! 人と化け物よ、私の心臓(ハート)を打ち抜いて見せろ! それが私を殺せる手段だ!」 「あなたにいわれなくても、僕たちはもともと……」 「そのつもりだ」  瞬間、二人は跳び、アーカードへと向かう。  人と化け物。限りある命と、悠久の時を刻まざるを得ない肉体。  いくつもの命が交差をし、肩を並べて不死王へと迫る。  滅びぬものなど、ないのだと証明するために。  右拳に右篭手の武装錬金、ピーキーガリバーをハヤテはアーカードの細い身体を押しつぶさんと振り下ろす。  あっさりと避けたアーカードがハヤテの眼前へと迫る。  ハヤテは身を捻り、空中で繰り出されたアーカードの右回し蹴りを辛うじて躱す。  アーカードは身体をコマのように回転させながら、レミントンM31の銃口をハヤテに向け、散弾を吐き出させる。  ばらける鉛の弾がハヤテの身体を抉らんと迫るが、ハヤテは動じない。  あらかじめ決めていたように、ZXがハヤテを庇うために前に出て、散弾を全て受け止める。  ポロポロと落ちる弾をそのままに、今度はZXがハヤテと交代するように前に出る。  街灯の頭を蹴って一段と高く飛ぶアーカードへと追従するように、ZXも街灯を蹴って宙に舞う。  二人の拳のラッシュのやり取りが行われ、アーカードは胸と肩に一発づつ、ZXは顔に二発もらう。  僅かに間合いが開き、ZXはマイクロチェーンを射出する。先端についた刃がアーカードの腹を貫き、地面に突き刺さった。  地面にはハヤテがいることをZXは確認している。 「狙いはいいが、私をやるにはバレバレすぎるぞ」  アーカードは呟くと、マイクロチェーンを掴み、力任せに振って、ZXを地面に叩きつけた。  そのまま後ろに振り向き、マイクロチェーンの上をつたう分離したハヤテの右腕の、ピーキーガリバーを蹴り上げる。 「うわッ!」 「どうした? 人間。キサマの核鉄はこの程度の芸しか出来ないのか?」 「ヌォォォォォォォ!!」  ZXが何度目か分からない跳躍をし、一直線へとアーカードに向かう。  その様子を見て、零が焦る。 『正面からは危険だ! 良!!』 「もう遅い。猪突しか能の無い無能な化け物など、このまま砕けてしまえ」  ニィっと、拳を固めてアーカードがZXへの迎撃の準備を整える。  アーカードの拳が、先ほどとは逆にZXの頭を潰すために振るわれる。  風が唸り、アーカードの右腕が常人では捉えられない速度で振るわれた。 『良……?』 「なに?」  その拳は空を切る。ZXはマイクロチェーンの上を、身体を分割させながらアーカードへと迫っていた。  オー! ロンサム・ミーはロープ状の物の上なら自分だけでなく、他人をも分解させることが出来るスタンド。  ZXは先ほど、己の腕が一瞬分解したことで、そのことを悟った。  ハヤテは、今この瞬間のためだけに、あの時ZXの腕を一瞬だけ分解させた。 「やっときました! チャンスです、村雨さん!!」 「ああ。…………捕まえた」  ガッチリとZXはアーカードの身体を両の腕で捕らえる。  右手でアーカードの頭を掴み、左手で腰の部分を握りこむ。  ZXの脳裏に、仮面ライダー1号に投げ飛ばされた記憶が蘇る。  両脚で地面を踏みしめ、全身に力を込めて上半身を回転させる。  起こる竜巻。その暴風に飲み込まれ、アーカードは天へと踊る。  ―― ライダーきりもみシュート  ただ一度くらっただけの技を、ZXは見よう見まねで再現して見せた。 「村雨さん!」  ハヤテの声にZXは無言で頷く。  跳躍し、身体を赤く光らせる。左手を右腰ほどの高さに、右手を頭ほどの高さに、それぞれ右方向へと真っ直ぐ突き伸ばす。  空中で右脚をアーカードへと向け、シンクロより発生するエネルギーで推進する。  爆裂するエネルギーが、稲妻のごとく闇を切り裂いた。  ZXの身体が赤く光ったと同時に、ハヤテは地面を踏みしめる。  狙いは、天に舞うアーカード。  手加減はしない。思いっきり、左足をスライドさせ、つむじ風がハヤテの周りに起こる。  脅威的な脚力で地面を蹴り、アーカードへと神速の速さで迫る。  まるで、疾風のごとく。  天と地より、稲妻と疾風が交差する。  その中央にいるアーカードを貫いて、二人が交差した点が、夜空に爆発の花を咲かせた。 (あ……マズイ)  スタンドを駆使し、ガモンから連戦を繰り広げた上、全力の必殺技を使ったハヤテに地面に着地する体力は残されていない。  迫る地面を見て、ハヤテは痛みを覚悟する。 (あれ、落ちたら痛いだろうなー。出来たら勘弁だけど……もう指一本も……)  目を瞑り、衝撃が走るのを待つ。しかし、ハヤテの身体は地面へと叩きつけられなかった。  誰かに抱きとめられる、ゴツイ感触を感じたハヤテは眼を開ける。  そこには、ハヤテを抱き止めた村雨がいた。変身は解いているらしい。 「村雨さん、助けてくれたんですか? ありがとうございます」  村雨は無言。アーカードを倒した満足感に包まれたハヤテは、お姫様抱っこという恥ずかしい状態なのに気づいていない。  もしこなたがいれば、ハヤテが女装していないことを悔しがっただろう。  それほど、お姫様抱っこが似合う男なのだ。綾崎ハヤテは。 「散……」  呟く村雨の横顔は、切なそうだった。何と声をかけていいか、ハヤテは分からない。  その二人に、零が叫ぶ。 『まだ倒しておらぬぞ! 二人とも!!』  驚き、二人がアーカードがいた場所へと顔を向ける。  そこには、下半身と右肩が吹き飛んだ少女が笑っていた。 「惜しかったぞ。私を倒すには糞餓鬼の体力が持たなかったようだな」 「キサマ……何度でも殺してやる!」 「そうだ、その意気だ。村雨良」  アーカードの言葉と共に、黒い巨狗が瓦礫より現れる。  村雨が後方に跳び、地面が噛み砕かれた。  村雨の身体から粒子が上がるが、零が止める。 『落ち着くのだ! 今は退け、良!』 「もう少しで散の仇が討てる! それを邪魔するのか!?」 『だが、ハヤテの身体が限界だ! これ以上はハヤテを殺す結果になるぞ!』 「く……」  悔しげに呻く村雨に、ハヤテは申し訳ない気持ちになる。 「僕に構わないでくださ……」 「黙っていろ」  村雨はZXへと姿を変え、迫る黒い巨狗へと膝に付属している爆弾を投げる。  爆発が巨狗の頭を吹き飛ばし、粉塵が舞う。  その隙に、ZXはクルーザーへと飛び乗った。 「アーカード。忘れるな。キサマは俺が殺す」 「その時は、人の記憶を思い出して置け。人間・村雨良よ」  化け物でなく、人間といいなおしたことに疑問を持つことも無く、ZXはクルーザーのアクセルを全開にする。  瓦礫を乗り越え、宙を飛び跳ねながらクルーザーは南へと消えていった。 □ 『ここまで来れば、一息つけるであろう』  零の声を合図に、クルーザーが止まる。  ハヤテが安堵のため息を突いている横で、悔しげに村雨がクルーザーの車体を叩いた。 「クソ……あいつを……」 「すいません。僕の力が……」 『そんなことは……』 「そんなことは無い。だから、次は倒す」  短く告げる村雨を見て、零は感心する。  記憶以外に興味が無い様子だったが、ハヤテとの接触は彼をいい方向へと向けてくれたようだ。 「……分かりました」 『少し休むがいい。疲れた身体では、今回の二の舞になる。策を立てるぞ、良』 「ああ」  村雨がクルーザーを止めて、零を降ろす。すると、零が何かに気づいたように、声を出す。 「どうした?」 『良、そのまま南に我々を向けたままでいてくれ。すまぬが、今どの地区にいるか教えてくれ!』 「地図とコンパスを確認して……ホテルがあっちにあるから……D-8エリアみたいですよ」 『つまり、南端か……。良、あそこをみて、違和感を感じぬか?』 「なに?」 『その身で感じぬのなら、変身して視力を高めろ。見えるものがあるはずだ』  村雨は零の指示に従い、ZXへと姿を変える。  真実を映す緑の瞳が零の指示する場所へと目を向けた。 「なるほど……お前が言いたいことが分かった」 「どういうことですか?」 『遥か先の地平線に、雷雲があるのだ! しかも、ホログラムでカモフラージュをして、普通の風景を映してな! 良、あのホログラム、お前の虚像投影装置と似たような方法であの景色を映している。 何か心当たりは無いか?』  零の言葉に、変身を解いた村雨は正面を見据えたまま頷く。 「なるほど。バダンか」 「BADAN!? 村雨さん、BADANを知っているのですか?」 「ああ、俺にこの身体を与え、そして記憶を与えてくれる連中だ」  その言葉を皮切りに、村雨はバダンとの関係をハヤテたちに告げる。  バダンによって、身体を改造されたことを。  記憶がないため、バダンが記憶をくれると約束したことを。  そのために多くの人を殺してきたことを。  そして、バダンは世界中の軍隊を潰せるほど巨大であることを。  この殺し合いの主催者として暗躍してもおかしくないことを。  余りにも、淡々と。  村雨は全てを語り終えた。  全てを聞き終えた、零はカバンでありながらも、身体を震わせる。 『それで全部か?』 「ああ」 『この…………大馬鹿者ッッッ!!!』  零の怒声に、ハヤテが思わず耳をふさぐ。  それにも構わず、零は怒りを村雨にぶつけた。 『状況から察するにお前の記憶を奪ったのは、バダン以外ないであろう! 記憶を奪った連中が、記憶を戻すと思うか!? お前が記憶に執着するのを見て、ただ利用しているだけだッ!! なぜ、それが分からなかったのだ! 良よ!!』 「俺はバダン以外知らない。記憶を戻してくれるのも、バダンぐらいしか俺は……」 「知らないなら、今から知ればいいじゃないですか」  突然のハヤテの割り込みに、村雨の眉がかすかに動く。  怒りに燃えるハヤテが静かに佇んでいた。 「村雨さんの記憶をエサに利用する連中なんて、放っておけばいいじゃないですか! 村雨さん、僕たちと一緒に脱出を目指しましょう! 記憶を取り戻す方法は、連中を捕まえて吐かせましょう!!」  手を差し伸べるハヤテを、村雨は不思議そうに見つめる。  どうしてこの二人は、自分の身を案じてバダンに怒りを感じるのか、村雨には分からなかった。  村雨は、今度はハヤテの手を取らず、呟く。 「アーカードと約束のDIOを倒すまでは協力する。そのあと、脱出を目指すかは別問題だ」 「駄目ですよ。村雨さんは僕と零さんの仲間なんですから。脱退許可は下りません。指をつめても駄目です」 『と、言うことだ。良』  悪徳業者のような黒い笑みを浮かべるハヤテと、調子を合わせる零に、村雨は思わずため息を吐く。  頭より覗く月は、最初村雨が見たときよりも綺麗に思えた。  ハヤテの説得により、バダンへと疑いを持つ村雨を見て零は安堵する。  ハヤテとの出会いとアーカードとの対決は村雨にいい方向へと影響を与えた。  同時に、主催者への情報が手に入る。  雷雲をカモフラージュする技術とハヤテのガモンと名乗る男との接触から得た情報により、十中八九バダンが黒幕であることが分かった。  世界中の軍隊に勝る戦力を持つ敵。  巨大といっていい。それでも、立ち向かうのが、正義を貫くのが強化外骨格「零」の務め。 (おそらく……バダンの本拠地はあの雷雲の中にある)  四方を囲んであるだろう、雷雲。零はその中にバダンの本拠地があると判断する。  なぜなら雷雲の中には、稲妻が発生しているらしく、時々放電をしている。おそらく迎撃装置の意味合いもあるのだろう。  そうまでして隠したいもの。零にはバダンの本拠地以外、考えられなかった。  しかし、それが分かっても内部の侵入は難しいだろう。首輪のこともある。  だが、速度のある乗り物ならどうだろうか? たとえば、村雨の乗るクルーザーなどは? (あの稲妻がバダンの迎撃装置とするなら、撃たれる前に走り抜けれる乗り物が必要となるはず。 それでも、まずは首輪を解除させ、あそこの近くに行かねば話にならない。 あの雷雲を詳しく解析し、必要な速度を割り出せば脱出は現実のものとなる。 村雨の支給品、クルーザーは何度か、時速600キロメートル後半を記録していた。 探索のためにスピードを落とし良の操作技術が高いとはいえ、一地区四方を縦横無尽に駆け回っても、消費した時間は十分にも満たない。 おそらく、この地域を全て回るのにもそう時間は必要あるまい。 クルーザーは脱出にも必要なアイテムだ。失うわけにはいかない。それに、アーカードやDIOに奪われるのは最悪だ。 あやつらがクルーザーを手に入れれば、いかなる場所にでも短時間で移動でき、多くの人間を殺すことが可能だ) 『良、クルーザーを決して手放すな』 「急にどうした?」 『その説明を今からする』  零は自分が確認したことを、仲間となった二人に語る。  彼らが確認したことが真実か、否か。  それが主催者バダンに一矢報いるか。  それでも、負けるわけにはいかない。彼らは前に進むための闘争は、まだ続いている。 □  頭に輝く月を見て、アーカードは笑う。  右腕と下半身は村雨とハヤテのタッグに吹き飛ばされて、さしもの不死王も回復の時を必要としていた。  アーカードが乗り回した車は先ほどの激闘で、いつの間にか炎を上げて燃えている。  燃える車を背に、綺麗に流れる黒髪が月光を反射し、凄惨な戦いの後を残す顔を照らす。 「いい夜だ。回復にはもってこいなほどに。それにしても、この私が二度も死に掛けるとは」  ククク……と低く笑い、狂った望みに思いを馳せる。  自分の望み通りの強者たちが跋扈している地。  もし、最後の技のとき、ハヤテの身体が疲労で勢いを衰えなければ、アーカードとてどうなるかは分からなかった。  そして、死んだと聞かされていたジョセフ=ジョースターが生きていた。  楽しみはまだまだ残っている。それが、酷く楽しい。  強者との戦闘の時間はとても愛しく、手放したくないほど切望する。  身体の回復を待って、闘争の準備を整えるのも悪くないと思えるほど。  月の光が照らす中、アーカードは狂喜の中で笑い続ける。  アーカードをマスターと慕う、死んでしまったドラキュリーナが、始めてきた時は月を眺めていたことは彼は知らない。  そしてアーカードは天に浮かぶ月を綺麗だと思っていた。  殺し合いを盛り上げるほどに。 【D-8/南 1日目 夜】 【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】 [状態]下腹部、左肩、右頬に中程度のダメージ、核鉄とスタンドの同時使用により疲労極大、核鉄により自己治癒中     仲間を得て精神的に安定。 [装備]核鉄(ピーキーガリバー)@武装錬金 454カスール カスタムオート(6/7)@HELLSING オー・ロンサム・ミーのDISC [道具]支給品一式-水少量 13mm爆裂鉄鋼弾(35発)、ニードルナイフ(15本)@北斗の拳 女装服 音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾、ベレッタM92(弾丸数8/15) [思考・状況] 基本:マリアの死を無駄にしないためにも、力の無い人を助ける。命を捨てる事も辞さない。 1:村雨と共にアーカードを倒す。 2:BADANを許せない。 3:力を得る。 4:ナギにあわせる顔が無い。 [備考] ※総合体育館の一部に、半径2mの穴が空いてます。 ※ガモンを主催者の一味でないか?と考えています。 【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]:全身に無数の打撲。疲労(大) [装備]:クルーザー(全体に焦げ有り)、十字手裏剣(0/2)、衝撃集中爆弾 (0/2) 、マイクロチェーン(2/2) [道具]:地図、時計、コンパス 、強化外骨格「零」(カバン状態)@覚悟のススメ [思考] 基本:殺し合いに乗る? かなり揺らいでいる模様。 1:アーカードを倒し散の仇を討つ。 2:アーカードを倒した後、零との約束(DIOを倒す)を果たす。 3:劉鳳、ジョセフと次に会ったら決着を着ける。 4:散の愚弟覚悟、波紋に興味あり。 5:パピヨンに恨み? 6:ハヤテに興味あり? [備考] ※傷は全て現在進行形で再生中です ※参戦時期は原作4巻からです。 ※村雨静(幽体)はいません。 ※連続でシンクロができない状態です。 ※再生時間はいつも(原作4巻)の倍程度時間がかかります。 ※D-1、D-2の境界付近に列車が地上と地下に出入りするトンネルがあるのを確認しました。 ※また、零の探知範囲は制限により数百メートルです。 ※零はパピヨンを危険人物と認識しました。 【零の考察】 ホログラムでカモフラージュされた雷雲をエリア外に発見。放電しているのを目撃。  1.以上のことから、零は雷雲の向こうにバダンの本拠地があると考えています。  2.雷雲から放たれている稲妻は迎撃装置の一種だと判断。くぐり抜けるにはかなりのスピードを要すると判断しています。 ※雷雲については、仮面ライダーSPIRITS10巻参照。 【D-5/南 1日目 夜】 【アーカード@HELLSING】 [状態]:ロリ状態(外伝および9巻参照)。全身にダメージ大(吸血鬼による能力で自然治癒中)     上半身左腕のみの状態。 [装備]:フェイファー ツェリザカ(0/5) 、レミントンM31(2/4) [道具]:支給品一式、スタングレネード×4、 色々と記入された名簿×2、レミントン M31の予備弾22、 お茶葉(残り100g)) [思考] 基本:殺し合いを楽しむ。 1:身体の治癒を待つ。村雨たちのリターンマッチに期待。 2:満足させてくれる者を探し闘争を楽しむ。 3:DIO、柊かがみ、劉鳳、アミバ、服部、村雨&ハヤテとも再度闘争を楽しむ。三村は微妙だが興味はある。 [備考] ・参戦時期は原作5巻開始時です 。 ・首輪は外れていますが、心臓部に同様の爆弾あり。本人は気づいてます。 ・DIOの記憶を読み取り、ジョセフと承太郎及びスタンドの存在を認識しました。 ・柊かがみをスタンド使いと認識しました。 ・散、ブラボーの記憶を読み取り、覚悟・マリア・村雨・劉鳳・タバサ・服部・アミバ・斗貴子・パピヨンの情報を得ました。 ・首輪そのものがスタンドではないかと推測。 ゴールド・エクスペリエンスのDISC、核鉄(シルバースキン)を持った梟(桐山の首)が会場をさまよっています。 ゴールド・エクスペリエンスは人体を創る事は出来ません。 変電所周辺に桐山の首なし死体が放置されています。 またその傍に名簿を抜いた支給品一式が入ったデイパック×2が放置されています。 [[前編>Double-Action ZX-Hayate form]] |173:[[君らしく 誇らしく 向ってよ]]|[[投下順>第151話~第200話]]|175:[[たとえば苦しい今日だとしても]]| |173:[[君らしく 誇らしく 向ってよ]]|[[時系列順>第3回放送までの本編SS]]|175:[[たとえば苦しい今日だとしても]]| |162:[[三村信史は砕けない]]|アーカード|187:[[『巨星落つ』]]| |169:[[ホワイトスネイク-介入者]]|綾崎ハヤテ|188:[[――の記憶(前編)]]| |165:[[ターミネーターゼクロス]]|村雨良|188:[[――の記憶(前編)]]| ----
**Double-Action ZX-Hayate form ◆WXWUmT8KJE  村雨はハヤテを一瞬で回収し、零を壁に叩きつけ、勢いよく壁を砕いて崩れゆく民家を抜け出す。  村雨の電子頭脳がクルーザーを呼び出し、夜の闇にクルーザーのライトが光る。  ブオン!と排気音が唸り、風を切り裂いて天にクルーザーが踊る。  村雨は左手で零を持ち、左腕でハヤテを抱え、右手でハンドルグリップを握る。  そのまま地面へとクルーザーを落とし、前輪が大地を噛み締め、左足を軸に後輪を滑らせる。  火花が散り、ブレーキゆっくりとかけながらクルーザーを停止させる。  ようやく止まった車体の上から、村雨は瓦礫を昇る少女を睨みつける。 「し……死ぬかと思った……」 『良、油断するな! あやつの姿は女子供だが、気配が尋常ではない!』 「分かっている」  零に答える村雨を数秒見つめていたかと思うと、少女はニヤリと笑う。  笑ってばかりの女だと思いながら、相手の出方を伺う。  理由はハヤテが要るからだ。下手に仕掛けては、彼の身がもたない。 「ここに向かってきて正解だったな。まさか、村雨良と出会えるとは」 「キサマ……なぜ俺を知っている?」 「ククク……現人鬼と名乗る、私と同じ化け物<フリークス>よりお前の情報を血から読み取った」 『読み取った? キサマ、何者だ!』 「私の名を尋ねるか、強化外骨格「零」よ。いいだろう、私の名はアーカード。葉隠散の血を吸いし、吸血鬼だ」  その一言に、村雨は眼を剥く。さらに、村雨でも判断つかない激情が、身体を駆け巡った。 「どうだ? 私と同じような化け物<フリークス>よ。人の記憶は取り戻したか? それとも、いまだ自分のルーツが分からず、迷い子のように彷徨うだけか? 散は私に星義を見せて散っていったぞ? 己のルーツを知らないとすれば、お前に私は討てない」 「あなたが……散さんを殺した……」 「そうだ、糞餓鬼。それがどうした? 散の記憶にお前などない。それでも散の仇を討つ為に、お前が私に立ち向かってくれるのか? そこの記憶喪失の化け物<フリークス>よりは楽しめるだろうから構わんぞ」  ハヤテはギリッと悔しげに歯を噛み締める。  村雨の大事な人、葉隠散は目の前の化け物に殺されたのだ。  理不尽に、マリアのように。  許せないという想いが、ハヤテを駆け巡る。  アーカードはそのハヤテを見て、満足そうに頷き、失望したような表情で村雨を見る。 「哀れだな、化け物<フリークス>。その糞餓鬼のように怒ることも、悲しむこともしないか。 人としての生を失ったお前に、空っぽのままのお前に、何の価値がある? 犬の餌になって死んでしまえ」 「確かに俺は空っぽだ……」  村雨はクルーザーから降り、ハヤテと零を置いて前に進む。  その背中に、ハヤテと零の視線を感じながら。 「記憶も……悲しみも……ない。あるのは散からもらった、痛みだけだ。パピヨン……奴に対する感情も、怒りではなかった。 あれはただの逆恨みだ。だが、散が死んで一つ思い出したものがある」 「ほう、それは何だ?」  村雨は風に薄汚れたマントをなびかせ、右手の平を天に向け頭の高さまで肘を曲げたまま上げ、右腕を左方向に突き出す。  左拳を右手首ほどの位置で固定し、両脚を肩幅まで開く。  そのままアーカードを見据える村雨の瞳に、静かに、深く、熱く燃え上がる感情が宿る。  パピヨンの時に感じた感情とは違う。許せない。己が身のためでなく、誰かのためにそう思う。  これが…… 「これが……真の怒りか……」  村雨の身体から上がる粒子が、その身を変化させていく。  カミキリムシを模した赤い仮面にエメラルドの複眼。シャッター状の銀のマスクを携えた仮面。  赤い強化スーツに白いボディーアーマーを持つ戦士が、緑のマフラーをなびかせて吸血鬼の王の眼前へと姿を見せる。 「その怒りで、この吸血鬼に何を見せる? 化け物<フリークス>」 「ハヤテ、零と一緒に逃げろ。あいつは……俺が殺す!」  零とハヤテに告げて、ZXは地面を蹴る。  吸血鬼とパーフェクトサイボーグ。  人外同士の激突に、空気が震えた。 「あれが……村雨さん?」 『そうだ。どういう経歴かは知らぬが、良の身体は機械が大部分を占める。 元の人としての部品は、最早脳だけだ』 「それで化け物だと、あの吸血鬼はいったのですね」 『……恐ろしいか? 良が』  零の問いにハヤテは目を瞑り、今までの村雨を思い出す。  といっても、あったばかりでどういう人なのか、詳しく知っているわけではない。  それでも、ハヤテに声をかけ、勝手に気絶した自分を零と共に助けてくれた。  自分がマリアを失って悲しんだように、散を失って村雨は悲しんでいた。  そして、その散を殺した吸血鬼、アーカードに立ち向かっている。  マリアをだしに、自分を殺し合いへと誘ったガモンに、ハヤテが立ち向かったように。  外見だけなら村雨は化け物なのだろう。それは余りにも禍々しく、余りにも人とかけ離れた外見を持っていた。  それでも、化け物だと怖がることは、ハヤテには出来ない。 「見くびらないでくださいよ。これでも、ロボや喋る虎と戦ってきたんですから。 今更、正義のサイボーグなんて、古いですよ。サイボーグ009じゃあるまいし」  チッチッチと零に対してハヤテは人差し指を振る。  零の呆れたため息を耳にしながら続きを告げる。 「それに、借金取りに比べたら村雨さんなんて怖くありませんよ。 零さんは借金取りの恐ろしさを知っていますか? 骨までしゃぶる恐ろしい連中ですよ」  もっとも、これは強がりだ。承太郎が死に、ガモンのような化け物がいる。  変身した村雨の拳を、平然と受け止める少女の姿をした吸血鬼がいる。  怖くないはずが無い。それでも、震える脚に活を入れて、ハヤテは二本足でしっかりと地面を踏む。 「零さん、ここにいてください」 『どうする気なのだ!? ハヤテ!!』 「戦います。どこまでやれるか分からないけど、これ以上……」  ハヤテの脳裏に、悲しみを浮かべる主、ナギの顔が浮かぶ。  雪の中、マリアとの出会いが再生され、二度と会えないことを噛み締める。  そんな思いを、あの吸血鬼は多くの人に与え続けるのだ。 「これ以上、お嬢様や村雨さんのように悲しむ人を増やすわけにはいかない! 僕は……」  ヒナギクのちょっと怒った顔が思い浮かぶ。  こんなことを言えば、彼女は怒りそうだ。それでも、ハヤテは宣言する。 「僕は、男ですから!!」  454カスールを構え、ハヤテは地面を蹴る。  疾風のごとく――  ZXの拳が風を切り裂いて、アーカードに迫る。  轟音振りまく拳を、アーカードは己が細い腕を振るって右拳をぶつける。  拳と拳の衝突。まるで十トントラック同士が衝突したような衝撃と轟音が空気を震わせる。  凄まじい衝撃を身体に感じつつも、二人の化け物<フリークス>はそのまま拳の連打を続ける。  ZXの右拳がアーカードの肩の骨を砕き、アーカードの右拳がZXの胸部のアーマーにヒビを入れめり込む。  続けてZXの左の二連打がアーカードの太ももと脇腹に命中し、アーカードが血反吐を笑いながら吐く。  アーカードは愉悦に浸った妖艶な笑みを浮かべたまま、ZXの頬に左ストレートを思いっきりぶち込んだ。  ZXの銀のクラッシャーから血反吐が吹き出て、二人の右拳が再度衝突する勢いで数十メートルほどの間合いが開く。  ニィっと笑うアーカードの傷が塞がっていく。ZXも傷から粒子が立ち上り、傷が塞がっていくが、圧倒的に遅い。 「どうした? 再生だけなら下級の吸血鬼でも出来ることだぞ? お前の芸を見せてみろ!」  ZXは無言。答える手間も惜しい。  ZXの両肩より霧が出て、ベルトが淡く光る。アーカードが興味深く見つめる中、霧が晴れた先に三人のZXがいた。 「ほう、目くらましか」  襲い掛かってくるZXを前にしても、アーカードは動じない。  むしろ、つまらなさそうに腕を組む。 「村雨良、付き合ってやろう。キサマの児戯にな」  三人のZXの拳がアーカードをすり抜け、右に移動した瞬間、アーカードの横を後ろから現れたZXの拳が通り過ぎる。  後ろからの攻撃を避けられて驚くZXの腹に、アーカードの踵がめり込み、砲弾のような勢いでZXの身体が雑居ビルへと激突する。  崩れていく瓦礫に埋もれるZXを見下しながらアーカードは進む。 「どうした? まだ眠りにつくには早いぞ」 「う……おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」  ZXの腕のシャッター部よりチェーンが飛び出て、アーカードを拘束する。  地面を蹴り、高速でアーカードへと迫るZXは右腕を大きく振りかぶる。  ZXは怒りを吐き出すように、始めて己が技を叫ぶ。 「ゼクロス……パァァァンチ!!」  そのまま音の壁を破る拳はアーカードの頭をいとも簡単に砕いた。  しかし、アーカードより発せられるプレッシャーが消えることは無い。  戸惑うZXに、首の無いアーカードが頭を鷲掴みにする。  刹那、ZXの身体が木偶人形のように振り回され、地面へと叩きつけられる。  二、三度ボールのように跳ねたZXは痛みに身体を震わせ、立ち上がる。  蝙蝠がアーカードの首に集まり、顔を構成してく。  再び黒い長髪をなびかせ、幼い少女の顔を持つアーカードは拍手しながらZXを称える。 「なかなかタフだ。それに速く、技の切れもいい。技の繋ぎ方もそう悪くは無い。 散の記憶よりお前の技を知っていなければ、さすがの私も一時的に行動不能になっていたかも知れぬな」 「黙れ。キサマが散の記憶を語るな」 「なぜ語らせる? それが不満なら、お前が黙らせろ。吠えるだけの駄犬でもあるまいし」  アーカードの挑発に応えるように、ZXの瞳に炎が宿る。静かに燃える、青い炎が。 「そうだな……今すぐ黙らせてやる」  ZXのマイクロチェーンが再びアーカードを襲う。  あっさりと避けたアーカードだが、マイクロチェーンは電柱に巻きついて、巻き取る勢いを得たZXが速さを上げて突進してくる。  それも散の記憶で見たものだと、アーカードが落胆の様子を見せる。  それでも、ZXは進むしかない。  瞬間、一陣の風が吹いた。 「アーカード!!」  ハヤテの声と共に、銃弾がアーカードを掠める。  ほうっと、呟き振り返るアーカードは嬉しそうに告げる。 「ついにキサマも参戦したか。糞餓……」  しかし、アーカードの視線の先にはハヤテはいない。  あるのは、マイクロチェーンを移動する454カスールを握る『左腕』のみ。 「武装錬金!!」  ハヤテが叫ぶ。同時に巨大な拳がアーカードの全身を叩き潰し、跳ね飛ばす。  今度はアーカードが雑居ビルへと叩きつけられた。  ハヤテの上半身がマイクロチェーンをつたりながら、身体の各パーツをくっつけてZXの傍に立つ。  ZXの腕がマイクロチェーン上で分解され、一瞬で再構成される。 「村雨さん、僕も戦います。この『スタンド』と『核鉄』で!」 「……なぜ逃げない? そのために零とクルーザーを置いてきたんだが……」 「僕はあなたのように、あいつに大切な人を殺されたわけじゃないです。 でも別の奴に、大事な人を殺されました。……もう二度とそんな思いはごめんです」  ハヤテは寒い冬の公園でナギと出会った日を思い出す。 「僕は借金に塗れて、お嬢様を誘拐しようとした、どうしようもなく荒んで汚れた人間でした。 その僕を、お嬢様はあろうことか、執事として雇ってくれました」  ヒナギクの気の強そうな、それで見ていて気持ちのいい笑顔を思い出す。 「ヒナギクさんは、完璧超人だけど、どこか可愛いところもあります」  高所恐怖症だったり、お化けに脅える彼女の姿が浮かび、ついハヤテは微笑む。  彼女たちだけではない。死んだマリアもハヤテにとっての恩人だ。  もう逢えはしない。そのことに、どれだけの人が悲しむのだろう。  怒りと共に、その悲しみを振りまこうとする存在を睨みつけながら、ハヤテは宣言する。 「あいつは、僕の人生をピカピカにした、大事な人たちを奪う。 その人たちを守るために、僕の命はあるんです!」 「……俺にはまだ、お前の言葉が理解できない」  ZXの感情の篭らない声がハヤテの鼓膜に響く。ハヤテはZXの言葉に落胆する。  自分の言葉は記憶喪失の村雨には届かないのか?と。そのハヤテに構わず、ゆっくりとZXはハヤテの傍に並んだ。 「だが、理解したいと思う」 「村雨さん……」 「ハヤテ、一つ忠告しておく。俺のマイクロチェーンは高圧電流を流す」 「ええっ! 下手したら、僕さっき死んでいた……?」 「そうだ。だが、今回は使わない。安心してマイクロチェーンを利用しろ」 「……いや、黙っていてくれた方が安心して使えたんですが」 「そうか」  ZXの返し方に呆れているハヤテの眼前で、瓦礫が飛び散る。  中央からゆらりと幽鬼のごとく現れたアーカードに背筋を凍らせながらも、怯まない。  綺麗な黒髪が宙を舞い、アーカードは顔に狂喜を浮かばせる。 「人と化け物が徒党を組むか、面白い! さあ、そのスタンドを繰り出せ! 核鉄を発動させろ! 赤く光れ! 化け物として、砕けても砕けても前進を続けろ! 人と化け物よ、私の心臓(ハート)を打ち抜いて見せろ! それが私を殺せる手段だ!」 「あなたにいわれなくても、僕たちはもともと……」 「そのつもりだ」  瞬間、二人は跳び、アーカードへと向かう。  人と化け物。限りある命と、悠久の時を刻まざるを得ない肉体。  いくつもの命が交差をし、肩を並べて不死王へと迫る。  滅びぬものなど、ないのだと証明するために。  右拳に右篭手の武装錬金、ピーキーガリバーをハヤテはアーカードの細い身体を押しつぶさんと振り下ろす。  あっさりと避けたアーカードがハヤテの眼前へと迫る。  ハヤテは身を捻り、空中で繰り出されたアーカードの右回し蹴りを辛うじて躱す。  アーカードは身体をコマのように回転させながら、レミントンM31の銃口をハヤテに向け、散弾を吐き出させる。  ばらける鉛の弾がハヤテの身体を抉らんと迫るが、ハヤテは動じない。  あらかじめ決めていたように、ZXがハヤテを庇うために前に出て、散弾を全て受け止める。  ポロポロと落ちる弾をそのままに、今度はZXがハヤテと交代するように前に出る。  街灯の頭を蹴って一段と高く飛ぶアーカードへと追従するように、ZXも街灯を蹴って宙に舞う。  二人の拳のラッシュのやり取りが行われ、アーカードは胸と肩に一発づつ、ZXは顔に二発もらう。  僅かに間合いが開き、ZXはマイクロチェーンを射出する。先端についた刃がアーカードの腹を貫き、地面に突き刺さった。  地面にはハヤテがいることをZXは確認している。 「狙いはいいが、私をやるにはバレバレすぎるぞ」  アーカードは呟くと、マイクロチェーンを掴み、力任せに振って、ZXを地面に叩きつけた。  そのまま後ろに振り向き、マイクロチェーンの上をつたう分離したハヤテの右腕の、ピーキーガリバーを蹴り上げる。 「うわッ!」 「どうした? 人間。キサマの核鉄はこの程度の芸しか出来ないのか?」 「ヌォォォォォォォ!!」  ZXが何度目か分からない跳躍をし、一直線へとアーカードに向かう。  その様子を見て、零が焦る。 『正面からは危険だ! 良!!』 「もう遅い。猪突しか能の無い無能な化け物など、このまま砕けてしまえ」  ニィっと、拳を固めてアーカードがZXへの迎撃の準備を整える。  アーカードの拳が、先ほどとは逆にZXの頭を潰すために振るわれる。  風が唸り、アーカードの右腕が常人では捉えられない速度で振るわれた。 『良……?』 「なに?」  その拳は空を切る。ZXはマイクロチェーンの上を、身体を分割させながらアーカードへと迫っていた。  オー! ロンサム・ミーはロープ状の物の上なら自分だけでなく、他人をも分解させることが出来るスタンド。  ZXは先ほど、己の腕が一瞬分解したことで、そのことを悟った。  ハヤテは、今この瞬間のためだけに、あの時ZXの腕を一瞬だけ分解させた。 「やっときました! チャンスです、村雨さん!!」 「ああ。…………捕まえた」  ガッチリとZXはアーカードの身体を両の腕で捕らえる。  右手でアーカードの頭を掴み、左手で腰の部分を握りこむ。  ZXの脳裏に、仮面ライダー1号に投げ飛ばされた記憶が蘇る。  両脚で地面を踏みしめ、全身に力を込めて上半身を回転させる。  起こる竜巻。その暴風に飲み込まれ、アーカードは天へと踊る。  ―― ライダーきりもみシュート  ただ一度くらっただけの技を、ZXは見よう見まねで再現して見せた。 「村雨さん!」  ハヤテの声にZXは無言で頷く。  跳躍し、身体を赤く光らせる。左手を右腰ほどの高さに、右手を頭ほどの高さに、それぞれ右方向へと真っ直ぐ突き伸ばす。  空中で右脚をアーカードへと向け、シンクロより発生するエネルギーで推進する。  爆裂するエネルギーが、稲妻のごとく闇を切り裂いた。  ZXの身体が赤く光ったと同時に、ハヤテは地面を踏みしめる。  狙いは、天に舞うアーカード。  手加減はしない。思いっきり、左足をスライドさせ、つむじ風がハヤテの周りに起こる。  脅威的な脚力で地面を蹴り、アーカードへと神速の速さで迫る。  まるで、疾風のごとく。  天と地より、稲妻と疾風が交差する。  その中央にいるアーカードを貫いて、二人が交差した点が、夜空に爆発の花を咲かせた。 (あ……マズイ)  スタンドを駆使し、ガモンから連戦を繰り広げた上、全力の必殺技を使ったハヤテに地面に着地する体力は残されていない。  迫る地面を見て、ハヤテは痛みを覚悟する。 (あれ、落ちたら痛いだろうなー。出来たら勘弁だけど……もう指一本も……)  目を瞑り、衝撃が走るのを待つ。しかし、ハヤテの身体は地面へと叩きつけられなかった。  誰かに抱きとめられる、ゴツイ感触を感じたハヤテは眼を開ける。  そこには、ハヤテを抱き止めた村雨がいた。変身は解いているらしい。 「村雨さん、助けてくれたんですか? ありがとうございます」  村雨は無言。アーカードを倒した満足感に包まれたハヤテは、お姫様抱っこという恥ずかしい状態なのに気づいていない。  もしこなたがいれば、ハヤテが女装していないことを悔しがっただろう。  それほど、お姫様抱っこが似合う男なのだ。綾崎ハヤテは。 「散……」  呟く村雨の横顔は、切なそうだった。何と声をかけていいか、ハヤテは分からない。  その二人に、零が叫ぶ。 『まだ倒しておらぬぞ! 二人とも!!』  驚き、二人がアーカードがいた場所へと顔を向ける。  そこには、下半身と右肩が吹き飛んだ少女が笑っていた。 「惜しかったぞ。私を倒すには糞餓鬼の体力が持たなかったようだな」 「キサマ……何度でも殺してやる!」 「そうだ、その意気だ。村雨良」  アーカードの言葉と共に、黒い巨狗が瓦礫より現れる。  村雨が後方に跳び、地面が噛み砕かれた。  村雨の身体から粒子が上がるが、零が止める。 『落ち着くのだ! 今は退け、良!』 「もう少しで散の仇が討てる! それを邪魔するのか!?」 『だが、ハヤテの身体が限界だ! これ以上はハヤテを殺す結果になるぞ!』 「く……」  悔しげに呻く村雨に、ハヤテは申し訳ない気持ちになる。 「僕に構わないでくださ……」 「黙っていろ」  村雨はZXへと姿を変え、迫る黒い巨狗へと膝に付属している爆弾を投げる。  爆発が巨狗の頭を吹き飛ばし、粉塵が舞う。  その隙に、ZXはクルーザーへと飛び乗った。 「アーカード。忘れるな。キサマは俺が殺す」 「その時は、人の記憶を思い出して置け。人間・村雨良よ」  化け物でなく、人間といいなおしたことに疑問を持つことも無く、ZXはクルーザーのアクセルを全開にする。  瓦礫を乗り越え、宙を飛び跳ねながらクルーザーは南へと消えていった。 □ 『ここまで来れば、一息つけるであろう』  零の声を合図に、クルーザーが止まる。  ハヤテが安堵のため息を突いている横で、悔しげに村雨がクルーザーの車体を叩いた。 「クソ……あいつを……」 「すいません。僕の力が……」 『そんなことは……』 「そんなことは無い。だから、次は倒す」  短く告げる村雨を見て、零は感心する。  記憶以外に興味が無い様子だったが、ハヤテとの接触は彼をいい方向へと向けてくれたようだ。 「……分かりました」 『少し休むがいい。疲れた身体では、今回の二の舞になる。策を立てるぞ、良』 「ああ」  村雨がクルーザーを止めて、零を降ろす。すると、零が何かに気づいたように、声を出す。 「どうした?」 『良、そのまま南に我々を向けたままでいてくれ。すまぬが、今どの地区にいるか教えてくれ!』 「地図とコンパスを確認して……ホテルがあっちにあるから……D-8エリアみたいですよ」 『つまり、南端か……。良、あそこをみて、違和感を感じぬか?』 「なに?」 『その身で感じぬのなら、変身して視力を高めろ。見えるものがあるはずだ』  村雨は零の指示に従い、ZXへと姿を変える。  真実を映す緑の瞳が零の指示する場所へと目を向けた。 「なるほど……お前が言いたいことが分かった」 「どういうことですか?」 『遥か先の地平線に、雷雲があるのだ! しかも、ホログラムでカモフラージュをして、普通の風景を映してな! 良、あのホログラム、お前の虚像投影装置と似たような方法であの景色を映している。 何か心当たりは無いか?』  零の言葉に、変身を解いた村雨は正面を見据えたまま頷く。 「なるほど。バダンか」 「BADAN!? 村雨さん、BADANを知っているのですか?」 「ああ、俺にこの身体を与え、そして記憶を与えてくれる連中だ」  その言葉を皮切りに、村雨はバダンとの関係をハヤテたちに告げる。  バダンによって、身体を改造されたことを。  記憶がないため、バダンが記憶をくれると約束したことを。  そのために多くの人を殺してきたことを。  そして、バダンは世界中の軍隊を潰せるほど巨大であることを。  この殺し合いの主催者として暗躍してもおかしくないことを。  余りにも、淡々と。  村雨は全てを語り終えた。  全てを聞き終えた、零はカバンでありながらも、身体を震わせる。 『それで全部か?』 「ああ」 『この…………大馬鹿者ッッッ!!!』  零の怒声に、ハヤテが思わず耳をふさぐ。  それにも構わず、零は怒りを村雨にぶつけた。 『状況から察するにお前の記憶を奪ったのは、バダン以外ないであろう! 記憶を奪った連中が、記憶を戻すと思うか!? お前が記憶に執着するのを見て、ただ利用しているだけだッ!! なぜ、それが分からなかったのだ! 良よ!!』 「俺はバダン以外知らない。記憶を戻してくれるのも、バダンぐらいしか俺は……」 「知らないなら、今から知ればいいじゃないですか」  突然のハヤテの割り込みに、村雨の眉がかすかに動く。  怒りに燃えるハヤテが静かに佇んでいた。 「村雨さんの記憶をエサに利用する連中なんて、放っておけばいいじゃないですか! 村雨さん、僕たちと一緒に脱出を目指しましょう! 記憶を取り戻す方法は、連中を捕まえて吐かせましょう!!」  手を差し伸べるハヤテを、村雨は不思議そうに見つめる。  どうしてこの二人は、自分の身を案じてバダンに怒りを感じるのか、村雨には分からなかった。  村雨は、今度はハヤテの手を取らず、呟く。 「アーカードと約束のDIOを倒すまでは協力する。そのあと、脱出を目指すかは別問題だ」 「駄目ですよ。村雨さんは僕と零さんの仲間なんですから。脱退許可は下りません。指をつめても駄目です」 『と、言うことだ。良』  悪徳業者のような黒い笑みを浮かべるハヤテと、調子を合わせる零に、村雨は思わずため息を吐く。  頭より覗く月は、最初村雨が見たときよりも綺麗に思えた。  ハヤテの説得により、バダンへと疑いを持つ村雨を見て零は安堵する。  ハヤテとの出会いとアーカードとの対決は村雨にいい方向へと影響を与えた。  同時に、主催者への情報が手に入る。  雷雲をカモフラージュする技術とハヤテのガモンと名乗る男との接触から得た情報により、十中八九バダンが黒幕であることが分かった。  世界中の軍隊に勝る戦力を持つ敵。  巨大といっていい。それでも、立ち向かうのが、正義を貫くのが強化外骨格「零」の務め。 (おそらく……バダンの本拠地はあの雷雲の中にある)  四方を囲んであるだろう、雷雲。零はその中にバダンの本拠地があると判断する。  なぜなら雷雲の中には、稲妻が発生しているらしく、時々放電をしている。おそらく迎撃装置の意味合いもあるのだろう。  そうまでして隠したいもの。零にはバダンの本拠地以外、考えられなかった。  しかし、それが分かっても内部の侵入は難しいだろう。首輪のこともある。  だが、速度のある乗り物ならどうだろうか? たとえば、村雨の乗るクルーザーなどは? (あの稲妻がバダンの迎撃装置とするなら、撃たれる前に走り抜けれる乗り物が必要となるはず。 それでも、まずは首輪を解除させ、あそこの近くに行かねば話にならない。 あの雷雲を詳しく解析し、必要な速度を割り出せば脱出は現実のものとなる。 村雨の支給品、クルーザーは何度か、時速600キロメートル後半を記録していた。 探索のためにスピードを落とし良の操作技術が高いとはいえ、一地区四方を縦横無尽に駆け回っても、消費した時間は十分にも満たない。 おそらく、この地域を全て回るのにもそう時間は必要あるまい。 クルーザーは脱出にも必要なアイテムだ。失うわけにはいかない。それに、アーカードやDIOに奪われるのは最悪だ。 あやつらがクルーザーを手に入れれば、いかなる場所にでも短時間で移動でき、多くの人間を殺すことが可能だ) 『良、クルーザーを決して手放すな』 「急にどうした?」 『その説明を今からする』  零は自分が確認したことを、仲間となった二人に語る。  彼らが確認したことが真実か、否か。  それが主催者バダンに一矢報いるか。  それでも、負けるわけにはいかない。彼らは前に進むための闘争は、まだ続いている。 □  頭に輝く月を見て、アーカードは笑う。  右腕と下半身は村雨とハヤテのタッグに吹き飛ばされて、さしもの不死王も回復の時を必要としていた。  アーカードが乗り回した車は先ほどの激闘で、いつの間にか炎を上げて燃えている。  燃える車を背に、綺麗に流れる黒髪が月光を反射し、凄惨な戦いの後を残す顔を照らす。 「いい夜だ。回復にはもってこいなほどに。それにしても、この私が二度も死に掛けるとは」  ククク……と低く笑い、狂った望みに思いを馳せる。  自分の望み通りの強者たちが跋扈している地。  もし、最後の技のとき、ハヤテの身体が疲労で勢いを衰えなければ、アーカードとてどうなるかは分からなかった。  そして、死んだと聞かされていたジョセフ=ジョースターが生きていた。  楽しみはまだまだ残っている。それが、酷く楽しい。  強者との戦闘の時間はとても愛しく、手放したくないほど切望する。  身体の回復を待って、闘争の準備を整えるのも悪くないと思えるほど。  月の光が照らす中、アーカードは狂喜の中で笑い続ける。  アーカードをマスターと慕う、死んでしまったドラキュリーナが、始めてきた時は月を眺めていたことは彼は知らない。  そしてアーカードは天に浮かぶ月を綺麗だと思っていた。  殺し合いを盛り上げるほどに。 【D-8/南 1日目 夜】 【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】 [状態]下腹部、左肩、右頬に中程度のダメージ、核鉄とスタンドの同時使用により疲労極大、核鉄により自己治癒中     仲間を得て精神的に安定。 [装備]核鉄(ピーキーガリバー)@武装錬金 454カスール カスタムオート(6/7)@HELLSING オー・ロンサム・ミーのDISC [道具]支給品一式-水少量 13mm爆裂鉄鋼弾(35発)、ニードルナイフ(15本)@北斗の拳 女装服 音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾、ベレッタM92(弾丸数8/15) [思考・状況] 基本:マリアの死を無駄にしないためにも、力の無い人を助ける。命を捨てる事も辞さない。 1:村雨と共にアーカードを倒す。 2:BADANを許せない。 3:力を得る。 4:ナギにあわせる顔が無い。 [備考] ※総合体育館の一部に、半径2mの穴が空いてます。 ※ガモンを主催者の一味でないか?と考えています。 【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]:全身に無数の打撲。疲労(大) [装備]:クルーザー(全体に焦げ有り)、十字手裏剣(0/2)、衝撃集中爆弾 (0/2) 、マイクロチェーン(2/2) [道具]:地図、時計、コンパス 、強化外骨格「零」(カバン状態)@覚悟のススメ [思考] 基本:殺し合いに乗る? かなり揺らいでいる模様。 1:アーカードを倒し散の仇を討つ。 2:アーカードを倒した後、零との約束(DIOを倒す)を果たす。 3:劉鳳、ジョセフと次に会ったら決着を着ける。 4:散の愚弟覚悟、波紋に興味あり。 5:パピヨンに恨み? 6:ハヤテに興味あり? [備考] ※傷は全て現在進行形で再生中です ※参戦時期は原作4巻からです。 ※村雨静(幽体)はいません。 ※連続でシンクロができない状態です。 ※再生時間はいつも(原作4巻)の倍程度時間がかかります。 ※D-1、D-2の境界付近に列車が地上と地下に出入りするトンネルがあるのを確認しました。 ※また、零の探知範囲は制限により数百メートルです。 ※零はパピヨンを危険人物と認識しました。 【零の考察】 ホログラムでカモフラージュされた雷雲をエリア外に発見。放電しているのを目撃。  1.以上のことから、零は雷雲の向こうにバダンの本拠地があると考えています。  2.雷雲から放たれている稲妻は迎撃装置の一種だと判断。くぐり抜けるにはかなりのスピードを要すると判断しています。 ※雷雲については、仮面ライダーSPIRITS10巻参照。 【D-5/南 1日目 夜】 【アーカード@HELLSING】 [状態]:ロリ状態(外伝および9巻参照)。全身にダメージ大(吸血鬼による能力で自然治癒中)     上半身左腕のみの状態。 [装備]:フェイファー ツェリザカ(0/5) 、レミントンM31(2/4) [道具]:支給品一式、スタングレネード×4、 色々と記入された名簿×2、レミントン M31の予備弾22、 お茶葉(残り100g)) [思考] 基本:殺し合いを楽しむ。 1:身体の治癒を待つ。村雨たちのリターンマッチに期待。 2:満足させてくれる者を探し闘争を楽しむ。 3:DIO、柊かがみ、劉鳳、アミバ、服部、村雨&ハヤテとも再度闘争を楽しむ。三村は微妙だが興味はある。 [備考] ・参戦時期は原作5巻開始時です 。 ・首輪は外れていますが、心臓部に同様の爆弾あり。本人は気づいてます。 ・DIOの記憶を読み取り、ジョセフと承太郎及びスタンドの存在を認識しました。 ・柊かがみをスタンド使いと認識しました。 ・散、ブラボーの記憶を読み取り、覚悟・マリア・村雨・劉鳳・タバサ・服部・アミバ・斗貴子・パピヨンの情報を得ました。 ・首輪そのものがスタンドではないかと推測。 ゴールド・エクスペリエンスのDISC、核鉄(シルバースキン)を持った梟(桐山の首)が会場をさまよっています。 ゴールド・エクスペリエンスは人体を創る事は出来ません。 変電所周辺に桐山の首なし死体が放置されています。 またその傍に名簿を抜いた支給品一式が入ったデイパック×2が放置されています。 [[前編>Double-Action ZX-Hayate form]] |173:[[君らしく 誇らしく 向ってよ]]|[[投下順>第151話~第200話]]|175:[[たとえば苦しい今日だとしても]]| |173:[[君らしく 誇らしく 向ってよ]]|[[時系列順>第4回放送までの本編SS]]|175:[[たとえば苦しい今日だとしても]]| |162:[[三村信史は砕けない]]|アーカード|187:[[『巨星落つ』]]| |169:[[ホワイトスネイク-介入者]]|綾崎ハヤテ|188:[[――の記憶(前編)]]| |165:[[ターミネーターゼクロス]]|村雨良|188:[[――の記憶(前編)]]| ----

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