「北斗神拳の恐怖」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

北斗神拳の恐怖」(2008/08/09 (土) 20:56:11) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

**北斗神拳の恐怖 ◆1qmjaShGfE 北に進路をとったケンシロウ。 街頭が照らす道路を音も無く歩く。 ケンシロウがその音に気付いたのは、そこが生活音の全くしない静寂の世界であったからだろう。 そして、ケンシロウがまごうことなき暗殺拳の使い手であった事も一因であると思われる。 常人ならば聞き逃す程度の微かな音、その音の元へとケンシロウは向かって行った。 とにかくあのパブから離れたかったアミバは進路を北西にとり、周囲に注意を払いながら道路を走る。 すると、住宅街を抜け見通しの良い田園地帯に着いてしまった。 「身を隠す場所も無いではないか。くそっ、これなら戻った方がマシだ」 しかたなく今度は東へ、住宅の多い場所へと向かう。 すぐに幾つかの家が見えてきたので、適当に見繕った家の中に入ると、そこをねぐらに決めた。 ようやく一息つくと、アミバは自分の支給品と盲目の老人から奪ったデイバックの確認と整理を行う。 二つもバックを持って歩くのは面倒なので丁寧に整理しつつ一つにまとめながら中身を確認する。 とりあえず必要な物が揃っている事に安堵するが、デイバックの奥にあった紙を見て首をかしげる。 老人の分も含めて紙は三枚。 一枚目の紙には『携帯電話』と書かれていた。 「むう、天才のこの俺にすらわからない物とは。携帯電話とは一体何だ?」 次の紙を見ると『綾崎ハヤテ御用達ママチャリ』と書かれていた。 「むう、天才のこの俺にすらわからない物とは……」 三枚目の紙には『ノートパソコン』と書かれていた。 「むう…………」 三枚の紙をデイバックにしまい、見なかった事にして食事を始めるアミバ。 メニューはソーセージにベーコンとサラダ、あまりぱっとしない食事であったが、アミバの居た時代とは異なりきちっと味付けしてあったのでこれでもアミバは充分に満足した。 「ふむ、天才を遇する術を心得ているな。こんな良い食事に当たるとは俺は運が良い。はっはっは!」 上機嫌で寝床の準備を整えた所で、家の外から轟音が聞こえた。 周囲が無音であった事が幸いした。 家の中から聞き覚えのある笑い声を聞いたケンシロウは、気配を探り、一人しかそこに居ない事を確信した上で手近にあった電信柱に目をつける。 「あたぁっ!」 ケンシロウの回し蹴りで根元からへし折れる電信柱。 「ぬんっ!」 それを片手で小脇に抱え、まずは横に一薙ぎ。 轟音と共に目の前のブロック壁が綺麗に消え、家が良く見えるようになる。 準備は整った。 「あたぁっ!」 電信柱を縦にその家へと振り下ろす。 数メートルの巨大なコンクリートの塊は、最初の一撃で屋根の三分の一を粉砕する。 「あたぁっ!」 次の横薙ぎの一撃で屋根の全てをひっぺがす。 「あたぁっ! あたぁっ! あたぁっ! あたぁっ! あたぁっ!」 狙いもロクにつけず、電信柱で家をぶっ叩き続けるケンシロウ。 たまらず中に居た人間が飛び出してきた。 「な、何事だ!?」 そう言って庭先に転がり出てきたのはアミバであった。 それを見たケンシロウはようやく電信柱を振り回すのを止め、その場に放り捨てる。 「久しぶりだなアミバ」 「ゲゲェー! ケンシロウ!」 「貴様が生きているとはな。また血迷った真似を始める前に、俺が引導を渡してやろう」 不遜なケンシロウの態度に、アミバは服の埃を払いながら立ち上がる。 「抜かしてくれるなケンシロウ。あの時は余裕を見せすぎて不覚を取ったが、今度はそうはいかんぞ。天才の拳を存分に味あわせてくれるわ!」 両腕を振り上げ、正面からの突き合いを挑むアミバ。 対するケンシロウもそれを正面から受け止める。 両者の間合いが触れ合った瞬間、無数の突きが二人の間を行き交う。 天才の名に恥じぬアミバの猛攻、しかし、既にケンシロウはアミバの動きを見切っていた。 アミバの両手の突きが揃ったタイミングを見計らって両腕を外に向けて跳ねあげ、大きくアミバの両腕を外に弾き飛ばす。 あっさりと正面の防御を破られ、その無防備な胴体をケンシロウの前にさらけだすアミバ。 「あたぁっ!」 そこにケンシロウ渾身の突きが見舞われる。 アミバは両腕を弾かれた時の勢いに逆らわず上半身を後ろに逸らし、この拳をやりすごす。 「ぐっ!」 ケンシロウの拳、確かに仰け反ってかわしたはずであったが、その拳の衝撃だけでアミバの胸部が引き裂かれ、鮮血が舞う。 たまらず大きく後ろに跳んで距離を取るアミバ。 「き、貴様……」 以前とは比べ物にならない程強い。 対するケンシロウは余裕の表情でアミバを見据える。 「強敵との戦いが俺を強くした。最早お前の拳では俺の影を捉える事すら出来ん」 アミバにはケンシロウと戦い、ビルから落下した後の記憶が無い。 どうやらケンシロウはその後も戦いを続け、以前とは見違える程の強さを見につけたらしい。 そこで、初めてアミバは気付いた。 そう、ケンシロウの言うとおりなのだ。 何故拳を交えるまで気付かなかったのか、ケンシロウの放つ闘気は既にラオウと比べても遜色無い域にまで達している。 ケンシロウの顔をみただけで、以前と変わらないはずと勝手に決めつけ、慢心した結果完全にケンシロウの力を見誤ってしまった。 かつてトキの才を一目で見抜いた時同様、決して超えられぬ強大な存在として、ケンシロウは眼前に立ちはだかっているのだ。 知らず生唾を飲み込むアミバ。 「北斗の兄弟は化け物の集まりか……」 ケンシロウはアミバに一歩、一歩近づいてくる。 それが死神の歩みに見え、アミバは恐怖に我を忘れた。 ケンシロウに背を向け、全速力でその場から逃げ出す。 「た、助けてくれ! 俺が悪かった! 命だけは! 命だけは助けてくれ!」 恐怖に竦んだ足は言う事を聞かず、こけつまろびつ道路に逃げ込む。 逃げるアミバにケンシロウは急ぐ事をせず、かといって見逃す訳でもなく、悠然と、確実にアミバへと歩を進めていく。 「殺さないでくれ! た、頼む! 誰か助けてくれ!」 「いいぜ」 そう返事をしたのは、チンピラのような風体の青年。 シェルブリットのカズマであった。 カズマの登場に、ケンシロウはその歩みを止める。 アミバは全速力でカズマの後ろに転がり込んだ。 「た、頼む助けてくれ! 殺される!」 カズマはそう言ってすがりつくアミバを一瞥した後、ケンシロウに向き直る。 「ようアンタ、大の男がここまで言ってんだ。勘弁してやったらどうだ?」 ケンシロウは刺すような視線でアミバを睨みつける。 「その男は罪もない村人を数十人、己の研究の為だけに殺してまわった男だ。生かしておけば、必ず他の人間に災いが降りかかる」 ケンシロウの言葉に、カズマは無言でアミバを睨みつける。 アミバは竦みあがって首を横に振る。 「ち、違う! あ、いや違わないが……だが、もうしない! 俺はケンシロウに従う! なんでもするから命だけは助けてくれ!」 天才の矜持も砕け散り、ただひたすらに命乞いをするアミバ。 そしてカズマにすがり付いて続ける。 「頼む助けてくれ! お、俺はもう二度と死にたくなぞ無いんだ! あんな恐怖はもう嫌だ! 改心する! もう人は殺さない! 俺の秘孔は人助けの為だけに使う! だから助けてくれ!」 カズマはアミバを振り払う。 「そこのゲジ眉。まだ殺す気か? こいつの信念はもうへし折れてやがる。これ以上は必要ねえよ」 「アミバが殺した者達の中にも、そうやって命乞いを繰り返した者も居ただろうな」 ケンシロウの視線の鋭さは変わらない。 ここでアミバを殺すのは、カズマへの危険を排除するという意味もあったのだが、神ならぬ身のカズマにそれがわかろうはずもない。 そして、ケンシロウの返答を聞いたカズマの視線もそれに劣らぬほどの鋭さを持つ。 「そうかい。なら決裂だな」 「……」 カズマは拳を握り、アルターを展開する。 右腕が金色の鎧に包まれ、背中に三本の羽が生えると僅かだがケンシロウの表情が揺れた。 「シェルブリットのカズマだ。お前は?」 「ケンシロウ。北斗神拳伝承者だ」 カズマの右拳が輝きを増す。 「悪いがまだるっこしいのは性に合わねえ。一発で決めるぜ」 油断無く構えるケンシロウは無言だ。 「先制のシェルブリット!!」 咆哮と共に、弾丸の様に弾け飛んで一直線にケンシロウへと向かうカズマ。 そのあまりのスピードに、さしものケンシロウも対処しきれない。 両腕を組んで受け止めるが、その豪腕に耐えかねて受け止めた態勢のまま真後ろに吹っ飛ぶ。 斜めにブロック壁を突きぬけ、隣家の庭先を越えて窓ガラスを突き破って家の中に放り込まれてしまう。 後ろで見ていたアミバはカズマの剛拳に言葉も無い。 カズマはケンシロウが突き破った窓ガラスを睨んでいる。 すぐに、その奥で音がしたかと思うと額から血を流すケンシロウが家から出てきた。 僅かにふらつきながらも庭先まで歩き、そこで再度構えを取る。 「もう一度やってみろ」 ケンシロウの目は全く死んでいない。 ならば手加減の必要無しと断じて拳を振り上げるカズマ。 「撃滅のシェルブリット!」 一足飛びに踏み込み、必殺の右拳を放つ。 ケンシロウは上半身を後ろに傾け、代わりに全力の足刀蹴りを前へと突き出す。 「あたぁっ!」 まるでカズマの拳にあわせて蹴りを入れる練習を数十年積み重ねてきたかのような、絶妙無比のタイミングであった。 腹部に蹴りを叩き込まれたカズマの呼吸が完全に止まる。 だが、カズマの闘志は消えない。 「双撃の……」 そのまま二撃目を放とうとするカズマに先だって、ケンシロウの蹴りが放たれた。 「あ~ったたたたたたたたたたたたたたたたあたぁっ!!」 目にも止まらぬとは正にこの事。 無数の蹴りを叩き込んだ後、宙に浮いたカズマにとどめの蹴りを見舞う。 最後に顎を強烈に蹴り上げられたカズマは、空中で一回転半ほどして頭から地面へと落下した。 後ろで見ていたアミバは大きく落胆する。 僅かでも生存の可能性を見出した後だっただけに、絶望は大きかった。 しかし、状況は思いもよらない方向へと転がっていく。 ケンシロウは倒れるカズマに向かい言ったのだ。 「いいだろう、アミバの命はお前に預けよう」 カズマは何も答えない、うつ伏せに倒れたまま微かに震えるだけだ。 「北斗繰筋自在脚。貴様の全身の筋肉は後30分は弛緩したままだ。しばらくそこで休んでいるがいい」 呆然とするアミバに向かい歩み寄るケンシロウだったが、その目が驚愕に見開かれる。 「……勝手に、勝負を終わらせてんじゃねえよ……」 確かに秘孔は突いた。カズマの筋肉は動いていないはずである。 しかし、全身を青白いオーラで包んでいるカズマは確かに自分の力だけで立ち上がっている。 「俺の筋肉が動かない道理を無理で押し通す! それが反逆者カズマだ!」 カズマはアルターで全身を包み、筋肉によらず全身を動かしているのだ。 その意志の強さ、奇跡の技に敬意を表し、再度構えるケンシロウ。 「ならば、北斗神拳奥義を持ってお前に応えよう」 睨み合う二人。 アミバは慌てて喚く。 「ちょ、ちょっと待てそこのカズマって奴。ケンシロウはもういいと言ってくれたんだぞ。なのに何故そんな無理をしてまで戦おうとするのだ」 それに、とその後の言葉は口に出来なかった。 『お前はあのケンシロウが恐ろしく無いのか? あの闘気、技、全てが極限の域にあるケンシロウを見て何も感じないのか?』 カズマは言い放つ。 「見逃してもらって嬉しい。そんな弱い俺自身に俺は反逆する!」 ケンシロウは最早言葉を発しない。 ただ、全力でカズマの闘志を迎え撃つのみ。 ゆっくりと滑るようにカズマに近づいてゆく。 ケンシロウはカズマの視界内をゆっくりと移動してくる。しかし、カズマの目の錯覚かその姿が時々、ぼやけてみえる。 「なんだ? ……奴が……消える?」 ケンシロウはただまっすぐ移動するのではなく、右に左に揺れながら歩み寄ってくる。 「北斗神拳奥義、七星点心。最早お前の目が俺を捉える事は無い」 人間の動きにある七つの死角を辿って移動する北斗神拳奥義七星点心、カズマの正面にケンシロウは居るのだが、カズマにはそれが見えない。 「くっ、くそっ! 何処だてめえ!」 いくら目を凝らしても、カズマにケンシロウを見つける事は出来なかった。 ならば、とめくらめっぽう殴り倒そうと思い、拳を振り上げたカズマの真後ろから声が聞こえた。 「ここだ」 カズマが振り返るより、ケンシロウの二本の指がカズマに突き刺さる方が早かった。 両の親指で、カズマの頬骨の上を右左両方突き刺す。 「がっ!」 まるで背骨に直接電流を流されたかのように仰け反るカズマ。 すぐに親指を抜くケンシロウ。支えを失ったカズマはその場にうつ伏せに倒れた。 ケンシロウはカズマを見下ろす。 「経絡秘孔の一つ、頭顳をついた。このまましばらくは目を覚ます事は無い」 そしてじろっとアミバを睨む。 「俺に従うと言ったな。ならばお前はこの男が目を覚ますまでこいつを守れ。もしこの男に何かあったら、俺がお前を地の果てまでも追い、地獄の底に叩き込んでやる」 アミバは物凄い勢いで首を縦に振る。 それを見て満足したのかケンシロウは北へと去って行った。 ケンシロウが視界から消えた事でようやく緊張から解かれたアミバ。 安堵のあまり地面に座り込んでしまう。 大きく息を吐いた後、自らの幸運を喜ぶ。 そこでようやくアミバは自らの晒した醜態を思い出した。 無様に転げ回りながら他人に助けを請う天才なぞ、居るはずが無い。 死を恐れ、全てをかなぐり捨てて逃げ惑う天才なぞ、居て良いはずがない。 その才において凡才と断じたケンシロウが、トキやラオウと並ぶ程の力を身につけている事。 今のケンシロウの力は見抜けた、しかしケンシロウがどうやってそれ程の力を身につけたのかまるで見当もつかない。 こんな不完全で未熟な才を、天才なぞと呼称する事のなんと滑稽な事か。 今までアミバを支えてきた天才としての矜持。 天才として美しく生きるはずだった自分は、死を前にしてその矜持も保てず、今まで自分が殺してきた凡才同様ただひたすら死を恐れるだけの惨めな人間であったのだ。 トキの時はそれでも軽くぶたれる程度であったから、その矜持を砕かれる事は無かった。 しかしケンシロウは違った。 二度に渡って真正面からアミバの才を粉砕し、絶対的な恐怖の存在として自らをアミバに刻み付けた。 実際、アミバには非凡な才能があったのであろう。それ故、自分以上の才の存在を知らず長年に渡って増長し続ける事となった。 だが、それもこれまでである。 アミバは両手で自らの顔を覆うと、声を上げて啼いた。 唯一信じていたものに裏切られた男の、絶望の涙であった。 【F-7 道路/1日目/黎明】 【ケンシロウ@北斗の拳】 [状態]:カズマのシェルブリット一発分のダメージ有り(痩せ我慢は必要だが、行動制限は無い) [装備]: [道具]:支給品一式、ランダムアイテム(1~3、本人確認済み) [思考・状況] 基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない 1:ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎他ゲームに乗った参加者を倒す 2:助けられる人はできるだけ助ける 3:乗ってない人間に独歩・ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎の情報を伝える。北に向けて移動中 [備考] ※参戦時期はラオウとの最終戦後です。 【F-7 道路 一日目 黎明】 【カズマ@スクライド】 {状態}胴体前面と顎に複数の打撲アリ、ケンシロウに秘孔を突かれて筋肉が弛緩して動けない、ケンシロウの秘孔により気絶中 {装備}無し {道具}支給品一式、ギーシュの造花@ゼロの使い魔、神楽の仕込み傘(強化型)@銀魂、核鉄(ニアデスハピネス)@武装錬金 {思考} 1:反逆のためにできることを探す 2:まどろっこしいのは苦手なので基本的には単独行動 3:悪党は全力で殴る 基本行動方針: バトルロワイアルに反逆する 参戦時期: 対アルター仙人戦後、ハイブリット覚醒前(原作4巻) ※進化の言葉“s.CRY.ed”をすでに刻んでいます。 ※支給品は全て確認しましたが、説明書にはろくに目を通していません。 そのため、三つとも役に立たないガラクタだと思っています。 【F-7 道路/1日目/黎明】 【アミバ@北斗の拳】 [状態]:身体健康なるも心身喪失気味 [装備]: [道具]:支給品一式(×2)(一食分消費済み)携帯電話、綾崎ハヤテ御用達ママチャリ@ハヤテのごとく、ノートパソコン@BATTLE ROYALE(これら三つは未開封) [思考・状況] 基本:もうダメだ 1:ケンシロウに命じられた通り、カズマが目を覚ますまで守る(←守れないとケンシロウに殺される為) [備考] ※参戦時期はケンシロウに殺された直後です |038:[[拳の雨降って地固まる]]|[[投下順>第000話~第050話]]|040:[[零式防衛術外伝 すごいよ!!散さん]]| |038:[[拳の雨降って地固まる]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|041:[[ふたりはスカーフェイス]]| |021:[[その男、反逆者につき]]|防人衛|063:[[反逆ノススメ]]| |023:[[間違えるのはお約束]]|劉鳳|063:[[反逆ノススメ]]| ----
**北斗神拳の恐怖 ◆1qmjaShGfE 北に進路をとったケンシロウ。 街頭が照らす道路を音も無く歩く。 ケンシロウがその音に気付いたのは、そこが生活音の全くしない静寂の世界であったからだろう。 そして、ケンシロウがまごうことなき暗殺拳の使い手であった事も一因であると思われる。 常人ならば聞き逃す程度の微かな音、その音の元へとケンシロウは向かって行った。 とにかくあのパブから離れたかったアミバは進路を北西にとり、周囲に注意を払いながら道路を走る。 すると、住宅街を抜け見通しの良い田園地帯に着いてしまった。 「身を隠す場所も無いではないか。くそっ、これなら戻った方がマシだ」 しかたなく今度は東へ、住宅の多い場所へと向かう。 すぐに幾つかの家が見えてきたので、適当に見繕った家の中に入ると、そこをねぐらに決めた。 ようやく一息つくと、アミバは自分の支給品と盲目の老人から奪ったデイバックの確認と整理を行う。 二つもバックを持って歩くのは面倒なので丁寧に整理しつつ一つにまとめながら中身を確認する。 とりあえず必要な物が揃っている事に安堵するが、デイバックの奥にあった紙を見て首をかしげる。 老人の分も含めて紙は三枚。 一枚目の紙には『携帯電話』と書かれていた。 「むう、天才のこの俺にすらわからない物とは。携帯電話とは一体何だ?」 次の紙を見ると『綾崎ハヤテ御用達ママチャリ』と書かれていた。 「むう、天才のこの俺にすらわからない物とは……」 三枚目の紙には『ノートパソコン』と書かれていた。 「むう…………」 三枚の紙をデイバックにしまい、見なかった事にして食事を始めるアミバ。 メニューはソーセージにベーコンとサラダ、あまりぱっとしない食事であったが、アミバの居た時代とは異なりきちっと味付けしてあったのでこれでもアミバは充分に満足した。 「ふむ、天才を遇する術を心得ているな。こんな良い食事に当たるとは俺は運が良い。はっはっは!」 上機嫌で寝床の準備を整えた所で、家の外から轟音が聞こえた。 周囲が無音であった事が幸いした。 家の中から聞き覚えのある笑い声を聞いたケンシロウは、気配を探り、一人しかそこに居ない事を確信した上で手近にあった電信柱に目をつける。 「あたぁっ!」 ケンシロウの回し蹴りで根元からへし折れる電信柱。 「ぬんっ!」 それを片手で小脇に抱え、まずは横に一薙ぎ。 轟音と共に目の前のブロック壁が綺麗に消え、家が良く見えるようになる。 準備は整った。 「あたぁっ!」 電信柱を縦にその家へと振り下ろす。 数メートルの巨大なコンクリートの塊は、最初の一撃で屋根の三分の一を粉砕する。 「あたぁっ!」 次の横薙ぎの一撃で屋根の全てをひっぺがす。 「あたぁっ! あたぁっ! あたぁっ! あたぁっ! あたぁっ!」 狙いもロクにつけず、電信柱で家をぶっ叩き続けるケンシロウ。 たまらず中に居た人間が飛び出してきた。 「な、何事だ!?」 そう言って庭先に転がり出てきたのはアミバであった。 それを見たケンシロウはようやく電信柱を振り回すのを止め、その場に放り捨てる。 「久しぶりだなアミバ」 「ゲゲェー! ケンシロウ!」 「貴様が生きているとはな。また血迷った真似を始める前に、俺が引導を渡してやろう」 不遜なケンシロウの態度に、アミバは服の埃を払いながら立ち上がる。 「抜かしてくれるなケンシロウ。あの時は余裕を見せすぎて不覚を取ったが、今度はそうはいかんぞ。天才の拳を存分に味あわせてくれるわ!」 両腕を振り上げ、正面からの突き合いを挑むアミバ。 対するケンシロウもそれを正面から受け止める。 両者の間合いが触れ合った瞬間、無数の突きが二人の間を行き交う。 天才の名に恥じぬアミバの猛攻、しかし、既にケンシロウはアミバの動きを見切っていた。 アミバの両手の突きが揃ったタイミングを見計らって両腕を外に向けて跳ねあげ、大きくアミバの両腕を外に弾き飛ばす。 あっさりと正面の防御を破られ、その無防備な胴体をケンシロウの前にさらけだすアミバ。 「あたぁっ!」 そこにケンシロウ渾身の突きが見舞われる。 アミバは両腕を弾かれた時の勢いに逆らわず上半身を後ろに逸らし、この拳をやりすごす。 「ぐっ!」 ケンシロウの拳、確かに仰け反ってかわしたはずであったが、その拳の衝撃だけでアミバの胸部が引き裂かれ、鮮血が舞う。 たまらず大きく後ろに跳んで距離を取るアミバ。 「き、貴様……」 以前とは比べ物にならない程強い。 対するケンシロウは余裕の表情でアミバを見据える。 「強敵との戦いが俺を強くした。最早お前の拳では俺の影を捉える事すら出来ん」 アミバにはケンシロウと戦い、ビルから落下した後の記憶が無い。 どうやらケンシロウはその後も戦いを続け、以前とは見違える程の強さを見につけたらしい。 そこで、初めてアミバは気付いた。 そう、ケンシロウの言うとおりなのだ。 何故拳を交えるまで気付かなかったのか、ケンシロウの放つ闘気は既にラオウと比べても遜色無い域にまで達している。 ケンシロウの顔をみただけで、以前と変わらないはずと勝手に決めつけ、慢心した結果完全にケンシロウの力を見誤ってしまった。 かつてトキの才を一目で見抜いた時同様、決して超えられぬ強大な存在として、ケンシロウは眼前に立ちはだかっているのだ。 知らず生唾を飲み込むアミバ。 「北斗の兄弟は化け物の集まりか……」 ケンシロウはアミバに一歩、一歩近づいてくる。 それが死神の歩みに見え、アミバは恐怖に我を忘れた。 ケンシロウに背を向け、全速力でその場から逃げ出す。 「た、助けてくれ! 俺が悪かった! 命だけは! 命だけは助けてくれ!」 恐怖に竦んだ足は言う事を聞かず、こけつまろびつ道路に逃げ込む。 逃げるアミバにケンシロウは急ぐ事をせず、かといって見逃す訳でもなく、悠然と、確実にアミバへと歩を進めていく。 「殺さないでくれ! た、頼む! 誰か助けてくれ!」 「いいぜ」 そう返事をしたのは、チンピラのような風体の青年。 シェルブリットのカズマであった。 カズマの登場に、ケンシロウはその歩みを止める。 アミバは全速力でカズマの後ろに転がり込んだ。 「た、頼む助けてくれ! 殺される!」 カズマはそう言ってすがりつくアミバを一瞥した後、ケンシロウに向き直る。 「ようアンタ、大の男がここまで言ってんだ。勘弁してやったらどうだ?」 ケンシロウは刺すような視線でアミバを睨みつける。 「その男は罪もない村人を数十人、己の研究の為だけに殺してまわった男だ。生かしておけば、必ず他の人間に災いが降りかかる」 ケンシロウの言葉に、カズマは無言でアミバを睨みつける。 アミバは竦みあがって首を横に振る。 「ち、違う! あ、いや違わないが……だが、もうしない! 俺はケンシロウに従う! なんでもするから命だけは助けてくれ!」 天才の矜持も砕け散り、ただひたすらに命乞いをするアミバ。 そしてカズマにすがり付いて続ける。 「頼む助けてくれ! お、俺はもう二度と死にたくなぞ無いんだ! あんな恐怖はもう嫌だ! 改心する! もう人は殺さない! 俺の秘孔は人助けの為だけに使う! だから助けてくれ!」 カズマはアミバを振り払う。 「そこのゲジ眉。まだ殺す気か? こいつの信念はもうへし折れてやがる。これ以上は必要ねえよ」 「アミバが殺した者達の中にも、そうやって命乞いを繰り返した者も居ただろうな」 ケンシロウの視線の鋭さは変わらない。 ここでアミバを殺すのは、カズマへの危険を排除するという意味もあったのだが、神ならぬ身のカズマにそれがわかろうはずもない。 そして、ケンシロウの返答を聞いたカズマの視線もそれに劣らぬほどの鋭さを持つ。 「そうかい。なら決裂だな」 「……」 カズマは拳を握り、アルターを展開する。 右腕が金色の鎧に包まれ、背中に三本の羽が生えると僅かだがケンシロウの表情が揺れた。 「シェルブリットのカズマだ。お前は?」 「ケンシロウ。北斗神拳伝承者だ」 カズマの右拳が輝きを増す。 「悪いがまだるっこしいのは性に合わねえ。一発で決めるぜ」 油断無く構えるケンシロウは無言だ。 「先制のシェルブリット!!」 咆哮と共に、弾丸の様に弾け飛んで一直線にケンシロウへと向かうカズマ。 そのあまりのスピードに、さしものケンシロウも対処しきれない。 両腕を組んで受け止めるが、その豪腕に耐えかねて受け止めた態勢のまま真後ろに吹っ飛ぶ。 斜めにブロック壁を突きぬけ、隣家の庭先を越えて窓ガラスを突き破って家の中に放り込まれてしまう。 後ろで見ていたアミバはカズマの剛拳に言葉も無い。 カズマはケンシロウが突き破った窓ガラスを睨んでいる。 すぐに、その奥で音がしたかと思うと額から血を流すケンシロウが家から出てきた。 僅かにふらつきながらも庭先まで歩き、そこで再度構えを取る。 「もう一度やってみろ」 ケンシロウの目は全く死んでいない。 ならば手加減の必要無しと断じて拳を振り上げるカズマ。 「撃滅のシェルブリット!」 一足飛びに踏み込み、必殺の右拳を放つ。 ケンシロウは上半身を後ろに傾け、代わりに全力の足刀蹴りを前へと突き出す。 「あたぁっ!」 まるでカズマの拳にあわせて蹴りを入れる練習を数十年積み重ねてきたかのような、絶妙無比のタイミングであった。 腹部に蹴りを叩き込まれたカズマの呼吸が完全に止まる。 だが、カズマの闘志は消えない。 「双撃の……」 そのまま二撃目を放とうとするカズマに先だって、ケンシロウの蹴りが放たれた。 「あ~ったたたたたたたたたたたたたたたたあたぁっ!!」 目にも止まらぬとは正にこの事。 無数の蹴りを叩き込んだ後、宙に浮いたカズマにとどめの蹴りを見舞う。 最後に顎を強烈に蹴り上げられたカズマは、空中で一回転半ほどして頭から地面へと落下した。 後ろで見ていたアミバは大きく落胆する。 僅かでも生存の可能性を見出した後だっただけに、絶望は大きかった。 しかし、状況は思いもよらない方向へと転がっていく。 ケンシロウは倒れるカズマに向かい言ったのだ。 「いいだろう、アミバの命はお前に預けよう」 カズマは何も答えない、うつ伏せに倒れたまま微かに震えるだけだ。 「北斗繰筋自在脚。貴様の全身の筋肉は後30分は弛緩したままだ。しばらくそこで休んでいるがいい」 呆然とするアミバに向かい歩み寄るケンシロウだったが、その目が驚愕に見開かれる。 「……勝手に、勝負を終わらせてんじゃねえよ……」 確かに秘孔は突いた。カズマの筋肉は動いていないはずである。 しかし、全身を青白いオーラで包んでいるカズマは確かに自分の力だけで立ち上がっている。 「俺の筋肉が動かない道理を無理で押し通す! それが反逆者カズマだ!」 カズマはアルターで全身を包み、筋肉によらず全身を動かしているのだ。 その意志の強さ、奇跡の技に敬意を表し、再度構えるケンシロウ。 「ならば、北斗神拳奥義を持ってお前に応えよう」 睨み合う二人。 アミバは慌てて喚く。 「ちょ、ちょっと待てそこのカズマって奴。ケンシロウはもういいと言ってくれたんだぞ。なのに何故そんな無理をしてまで戦おうとするのだ」 それに、とその後の言葉は口に出来なかった。 『お前はあのケンシロウが恐ろしく無いのか? あの闘気、技、全てが極限の域にあるケンシロウを見て何も感じないのか?』 カズマは言い放つ。 「見逃してもらって嬉しい。そんな弱い俺自身に俺は反逆する!」 ケンシロウは最早言葉を発しない。 ただ、全力でカズマの闘志を迎え撃つのみ。 ゆっくりと滑るようにカズマに近づいてゆく。 ケンシロウはカズマの視界内をゆっくりと移動してくる。しかし、カズマの目の錯覚かその姿が時々、ぼやけてみえる。 「なんだ? ……奴が……消える?」 ケンシロウはただまっすぐ移動するのではなく、右に左に揺れながら歩み寄ってくる。 「北斗神拳奥義、七星点心。最早お前の目が俺を捉える事は無い」 人間の動きにある七つの死角を辿って移動する北斗神拳奥義七星点心、カズマの正面にケンシロウは居るのだが、カズマにはそれが見えない。 「くっ、くそっ! 何処だてめえ!」 いくら目を凝らしても、カズマにケンシロウを見つける事は出来なかった。 ならば、とめくらめっぽう殴り倒そうと思い、拳を振り上げたカズマの真後ろから声が聞こえた。 「ここだ」 カズマが振り返るより、ケンシロウの二本の指がカズマに突き刺さる方が早かった。 両の親指で、カズマの頬骨の上を右左両方突き刺す。 「がっ!」 まるで背骨に直接電流を流されたかのように仰け反るカズマ。 すぐに親指を抜くケンシロウ。支えを失ったカズマはその場にうつ伏せに倒れた。 ケンシロウはカズマを見下ろす。 「経絡秘孔の一つ、頭顳をついた。このまましばらくは目を覚ます事は無い」 そしてじろっとアミバを睨む。 「俺に従うと言ったな。ならばお前はこの男が目を覚ますまでこいつを守れ。もしこの男に何かあったら、俺がお前を地の果てまでも追い、地獄の底に叩き込んでやる」 アミバは物凄い勢いで首を縦に振る。 それを見て満足したのかケンシロウは北へと去って行った。 ケンシロウが視界から消えた事でようやく緊張から解かれたアミバ。 安堵のあまり地面に座り込んでしまう。 大きく息を吐いた後、自らの幸運を喜ぶ。 そこでようやくアミバは自らの晒した醜態を思い出した。 無様に転げ回りながら他人に助けを請う天才なぞ、居るはずが無い。 死を恐れ、全てをかなぐり捨てて逃げ惑う天才なぞ、居て良いはずがない。 その才において凡才と断じたケンシロウが、トキやラオウと並ぶ程の力を身につけている事。 今のケンシロウの力は見抜けた、しかしケンシロウがどうやってそれ程の力を身につけたのかまるで見当もつかない。 こんな不完全で未熟な才を、天才なぞと呼称する事のなんと滑稽な事か。 今までアミバを支えてきた天才としての矜持。 天才として美しく生きるはずだった自分は、死を前にしてその矜持も保てず、今まで自分が殺してきた凡才同様ただひたすら死を恐れるだけの惨めな人間であったのだ。 トキの時はそれでも軽くぶたれる程度であったから、その矜持を砕かれる事は無かった。 しかしケンシロウは違った。 二度に渡って真正面からアミバの才を粉砕し、絶対的な恐怖の存在として自らをアミバに刻み付けた。 実際、アミバには非凡な才能があったのであろう。それ故、自分以上の才の存在を知らず長年に渡って増長し続ける事となった。 だが、それもこれまでである。 アミバは両手で自らの顔を覆うと、声を上げて啼いた。 唯一信じていたものに裏切られた男の、絶望の涙であった。 【F-7 道路/1日目/黎明】 【ケンシロウ@北斗の拳】 [状態]:カズマのシェルブリット一発分のダメージ有り(痩せ我慢は必要だが、行動制限は無い) [装備]: [道具]:支給品一式、ランダムアイテム(1~3、本人確認済み) [思考・状況] 基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない 1:ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎他ゲームに乗った参加者を倒す 2:助けられる人はできるだけ助ける 3:乗ってない人間に独歩・ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎の情報を伝える。北に向けて移動中 [備考] ※参戦時期はラオウとの最終戦後です。 【F-7 道路 一日目 黎明】 【カズマ@スクライド】 {状態}胴体前面と顎に複数の打撲アリ、ケンシロウに秘孔を突かれて筋肉が弛緩して動けない、ケンシロウの秘孔により気絶中 {装備}無し {道具}支給品一式、ギーシュの造花@ゼロの使い魔、神楽の仕込み傘(強化型)@銀魂、核鉄(ニアデスハピネス)@武装錬金 {思考} 1:反逆のためにできることを探す 2:まどろっこしいのは苦手なので基本的には単独行動 3:悪党は全力で殴る 基本行動方針: バトルロワイアルに反逆する 参戦時期: 対アルター仙人戦後、ハイブリット覚醒前(原作4巻) ※進化の言葉“s.CRY.ed”をすでに刻んでいます。 ※支給品は全て確認しましたが、説明書にはろくに目を通していません。 そのため、三つとも役に立たないガラクタだと思っています。 【F-7 道路/1日目/黎明】 【アミバ@北斗の拳】 [状態]:身体健康なるも心身喪失気味 [装備]: [道具]:支給品一式(×2)(一食分消費済み)携帯電話、綾崎ハヤテ御用達ママチャリ@ハヤテのごとく、ノートパソコン@BATTLE ROYALE(これら三つは未開封) [思考・状況] 基本:もうダメだ 1:ケンシロウに命じられた通り、カズマが目を覚ますまで守る(←守れないとケンシロウに殺される為) [備考] ※参戦時期はケンシロウに殺された直後です |038:[[拳の雨降って地固まる]]|[[投下順>第000話~第050話]]|040:[[零式防衛術外伝 すごいよ!!散さん]]| |038:[[拳の雨降って地固まる]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|041:[[ふたりはスカーフェイス]]| |023:[[間違えるのはお約束]]|ケンシロウ|049:[[上がれ!戦いの幕]]| |021:[[その男、反逆者につき]]|カズマ|065:[[反逆ノススメ]]| |023:[[間違えるのはお約束]]|アミバ|065:[[反逆ノススメ]]| ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー