更なる舞台(ステージ)へ

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mangaroyale

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更なる舞台(ステージ)へ ◆3OcZUGDYUo



ガキュン、ガキュンと不気味で、間が抜けたような駆動音が周囲に反響する。
2本の長い脚部を地に渡らせ、その身体を支えているそれは、どことなく何か生物のようなものを連想させるが、
決してそんなカテゴリーに区分されるものではない。
またその物体は当然持っているものがある。
ものの本質を示すのには不十分なもの……だがそれでいて無くてはならないもの。
だから大切にした方がいいもの、そう……『名前』というものを持っている。
そしてそれが持っている名前は逆十字号。
愛を、正義を、平和を信じた一人の青年に、いや全ての人間の胸で燃え続ける証『逆
十字』の名を与えられた輸送兵器は、この殺し合いで確かに稼動していた。
本来の運命では決して出会う事がなかった一人の少年と一人の男を乗せながら。

「…………ふぅ」
その歳の低さとは到底釣り合わない大人びた仕草で、溜め息をつく少年の名は才賀勝と言う。
たった今大きな溜め息をついた勝だが、彼は何に対して溜め息をつくのだろうか?
才賀エレオノール、勝がしろがねと呼ぶ女性であり、彼が想いを寄せる女性でもある者が彼女の元の世界に存在する勝のために、
この殺し合いに乗る可能性があると危惧しているからだろうか?
答えはNOだ。
勝は数時間前、彼の仲間である泉こなたとパピヨンに自分がしろがねに対して、今まで自分がやっていた偽称の真意を話す決意を語った。

『このまま放っといてもしろがねは僕のために誰かを殺そうとする。
真実を告げても、『弱い僕』を助けようと誰かを殺そうとする。
それなら……力尽くで僕がしろがねを止める! この、命に代えても!!』


太い両の眉の下で、その存在を強調するかのように覗かせた二つの大きな瞳。
『しろがねを止める』と言う強固な意志が宿るその瞳で、勝は確かに己の決意を誓った。
勝は最早只の小学生ではなく、彼の祖父才賀正二や最古の四人が一人自動人形コロンビーヌや、
エレオノールの先生でもあり彼の先生でもある伝説のしろがね、
『オリンピアの恋人』ことギイ・クリストフ・レッシュなど様々な人や存在と触れ合ってきた。
勝は彼らの強さをもう既に知っている……自分達の為すべき事を貫き通す力、
『意思の強さ』というものを。
彼らにそんな力を貰った今の勝はエレオノールと会うまでの、
弱い勝ではない……ならば何故彼は何に溜め息をついたのか。
その疑問は勝と共に逆十字に乗っている一人の男にも涌いていた。

「どうした坊主? そんな歳から溜め息なんかついてちゃあ俺ぐらいの歳になったら苦労するぜ?」
そう言って、穏やかな笑みを勝に対して向ける男の名は愚地独歩と言う。
「武神」「人食いオロチ」「虎殺し」など、様々な二つ名を携える空手家であり、
空手団体・神心会の総帥と言う肩書きを持つ男。
独歩は勝が何について悩んでいるかは、見当が付いていたがあえて聞いてみる事にしてみたのだ。
年長者として、少年の勝に話をし易い環境を作るためにも。

「はい……またフェイスレスの事について考えていたんです……」
勝が重々しく己の口を開き、言葉の糸を紡いでゆく。
フェイスレス……才賀貞義、ディーン・メーストルなど様々な顔を持ち、
ゾナハ病、自動人形、人形破壊者(しろがね)など全ての事の発端となった者である白金の記憶を、
生命の水(アクア・ウイタエ)によって受け継いだ人物。
祖父才賀正二に貞義の事を、フェイスレスの事を聞かされた時、勝は彼の事を許すことは出来なかった。
それだけではなくその後エレオノールを手に入れるため世界に、
勝にとって大事な人達が住む村でもあり、エレオノールが生まれた村でもある黒賀村にゾナハ病を撒き散らし、
大勢の人を殺し、危険に晒した男でもあるフェイスレス。
勝にとって何一つ好きになれる要素はなく、彼が死んだ事は勝にとって間違いなく幸運な事だろう。


「僕は、しろがねは、鳴海兄ちゃんは、みんなはフェイスレスのせいで沢山苦しんで、
死んじゃった人も大勢居るんだ……あいつが死んで僕達に良くない事なんて一つもないんです。けど……」
けど何故か勝の言葉の糸はプツリと途切れてしまう。
まるで操り糸が途切れた操り人形(マリオネット)が、地に虚しく崩れ落ちるかのように。
勝が今、抱えている矛盾にも似た不可解な感情が彼の意識を支配していたからだ。

「けどそのフェイスレスって奴が死んでも別に嬉しいって気にはならねェ……そういう事だろ?」
「はい……あんなに酷い事をした奴なのに何故か……」
そう、今の勝はフェイスレスの死について素直に喜ぶような気にはなれなかった。
エレオノールを守るためにフェイスレスが言う『ゲーム』と名付けられた自動人形の闘いに生き残るため、
ギイの小学生にとってあまりにも過酷過ぎる特訓を行い続けた才賀勝。
エレオノールがフェイスレスに連れて行かれそうになった時、
フェイスレスの最高傑作とも言える『最後の四人』に、果敢に闘いを挑んだ才賀勝。
エレオノールと二人っきりになるため、彼女を宇宙に連れて行こうとしたフェイスレスの転送(ダウンロード)を破り、
想い人エレオノールの間接を『分解』によって外してまでも彼女を守った才賀勝。
勝の苦難の先にはいつもフェイスレスが笑いながら彼の前で立っていた。
そんないつもフェイスレスによって翻弄され続けてきた勝が、
何故か彼の死を喜ぶ事が出来ない事実に勝は困惑を隠せない。
自分はフェイスレスを倒すためにあれ程までに身を削ってきたのに……何故か。

「あのよ坊主……人を憎むってのは簡単な事だよな?」
「え?」
そんな時、独歩がどこかそっぽを向きながら勝に言い聞かせるが、
独歩の突拍子もない言葉に思わず、歳相応の間の抜けた声を勝は上げてしまう。
この人は突然何を言い出すんだろう? 疑問に満ち溢れた表情で独歩を勝は窺うが、
独歩は依然勝の方に視線は向けずに言葉を続ける。
只、逆十字号の車体が動く事によって起きる、振動の僅かな揺れに身体を揺らしながら。

「人を憎むってのは只、そいつの気に入らねぇところを穿り返し、蛇みてェに執念深く執着し続ければいい。
けどよ……人を愛するってのはそうそう直ぐに簡単に出来る事じゃねぇぜ?」
出会って未だ殆ど時間が経っていない同行者、独歩の言葉が勝の脳に語りかける。
『人を愛する』その事を聞いた勝は思わずエレオノールの笑顔を思い浮かべ、
顔を赤らめるがいつまでもそんな浮かれた考えをするわけにはいかない。
それよりも勝は突然こんな事を言い始めた独歩の考えが知りたかった。

「愚地さん、確かに貴方の言う通りだと思いますけど、僕とフェイスレスの事について何の関係が……?」
「へっ! 大人びてる坊主だと思ったがやっぱまだまだガキだなぁ。まぁその方がガキ臭くてとっつきやすいけどよ」
今までそっぽを向いていた独歩が突然、首を回し勝に視線を、そのいかつい顔を向けてきたので勝は驚き、独歩に馬鹿にされたような気がして少しムッとなる。
一方独歩は今まで無表情を装っていたが、勝とは対照的に少し嬉しそうな表情を浮かべ、勝の反応さえも楽しがっているようだ。
また依然、微笑を浮かばせながら独歩は勝に語り続ける。
そう、自分の目の前に居る、まだまだ子供なのに一人前に人を憎むという感情に真剣に悩む少年、勝に柄にもなく話し掛けている。

「いいかぁ坊主? 坊主の話を聞く限りそのフェイスレスって奴はかなりの悪人だったらしいな。
だからそいつが死んだから坊主は嬉しい……と思ってたが実際は良くわからんって事だろ?」
独歩の質問に勝は「うん」と頷いて素直に答える。
その勝の素直な反応に独歩は満足げな表情を浮かべ、独歩は更に言葉を続ける。

「別にフェイスレスが死んだ事を嬉しく感じなくてもいいじゃねぇか坊主。
どんな奴だろうと人が死んで喜ぶなんて奴は碌な人間じゃねぇ。
だからいつまでもフェイスレスを憎んでいたかどうか考えるなんて意味のねぇ事はさっさと止めちまえ。
それよりもな坊主……」
そう言って独歩は今まで逆十字号のハンドルを握っていた両手の内、
片方の手を放し、ある方向に伸ばす。
その手の先には黒と薄い茶色が混じった物体が……勝の頭に向けて手を伸ばす。
日々の鍛錬により培われた筋肉で構成された、ゴツゴツとした独歩の手。

お世辞にも手触りが良いとは言えないその手で、
勝は髪をクシャクシャにされるが不思議と悪い気はしなかった。
寧ろ力強い何かを勝は感じ、心地良いとも思える程の感触が彼を包みこむ。

「『人を何人憎むか?』って事より『人を何人愛するか?』って事を考えてこの先、生きていけ坊主。
それが人生の先輩の俺が今、坊主に言いてェ事だ」
勝の頭を掻き回し続けていた手の動きを止め、ポンと彼の頭を、力を抜いて独歩は叩く。
独歩は今まで聞くところによると小学生である、勝が言葉には出さないものの馬鹿みたいに悩み続けていたのを見て、
彼は勝を気に掛けていた。
だが、弁が立つとは言い難い男である独歩が同じ空手家ならいざ知らず、
ましてや小学生で出会って数十分しか経っていない少年を、励ます術など知っているわけがない。
だからとにかく独歩は不器用ながらも、自分の人生観、大切な事を偉そうに言ってのけ、
本当に自分の言葉で勝を励ます事が出来たかどうか不安だった。
その大きな瞳を普段以上に大きく見開き、独歩の言葉を聞いていた勝は……頷いていた。

「愚地さん……わかりました。僕はフェイスレスが嫌いだった……
あいつが死んでせいせいする程嫌いだったかは解りませんけど。
でもあいつは死んだんだ……だったら愚地さんの言うように、
僕がフェイスレスの事について考える事なんて時間の無駄です。
僕はしろがねと鳴海兄ちゃん、そして独歩さん達と一緒に必ずこの馬鹿げた殺し合いから脱出します!
それがフェイスレスとの闘いが終わった僕の……才賀勝の闘いだから!」
「へっ!……やっぱり大人びてる坊主だな。まぁ……嫌いじゃないけどよ」
力強く頷き、力強く決意を述べる勝に対して、独歩は自分の言葉が無駄ではなかった事に一安心しながら同時に、
こんなにも堂々と言ってのける勝が本当に小学生かと疑ってしまう程感心していた。
どうやら自分には心強い仲間が出来たようだな。そう独歩は思い、離していた手を再び逆十字号のハンドルに添える。


「愚地さんは誰か愛してる人でも居るんですか?」
「おうよ! 俺の可愛い女房だ。ここから脱出したら坊主にも紹介してやるよ。
それとそんな堅苦しい敬語は止めて、独歩でいいぜ」
「じゃぁ独歩さん、僕も坊主じゃなくて勝と呼んでよ。それと……」
逆十字号が走る。
歳の差が、生きている世界があまりにもかけ離れている才賀勝と愚地独歩を乗せて。
赤木しげる、そして勝の大切な存在である才賀エレオノール、勝に初めて『強さ』を教えてくれた加藤鳴海。
三人の仲間を捜し求めて……逆十字号は走る。
◇  ◆  ◇

数十分前二人の男によって、筋肉がぶつかり合う音や笑い声や怒声で満ち溢れていた場所。
繁華街の端に位置する、エリアE-2と名付けられた場所。
其処に一人の大柄な男が地の腰を下ろし、座っている。
その男の目に宿るもの……それは彼自身にしかわからない。

「ちっ!……あの原付野郎が。しこたまやりやがって……」
そう呟くのは加藤鳴海。勝を守るため瀕死の重傷を負った時、
ギイによって生命の水(アクア・ウィタエ)を与えられ、人形破壊者(しろがね)として生きる事となった鳴海が不機嫌そうにぼやく。
自動人形を破壊する事だけを目的とし、生に執着しないしろがねを自分自身がそうでありながらも、鳴海は好きにはなれなかった。
また同様に自動人形を倒す事よりも人間を守る事を優先する鳴海の存在は、他のしろがね達にとっても眉唾ものであった。
だがそんな鳴海としろがね達もゾナハ病を撒き散らす真夜中のサーカス、
フランシーヌ人形が率いる自動人形の集団は許せるものではなく、これらを一体残さず倒す事を目的とし闘い続けていた。

「今思い出しても腹が立ってくるぜ。だが! それよりも……」
刃牙が戦闘中に笑いながら言った殺人を肯定する言葉は鳴海の逆鱗に触れた。
普段の彼から想像が付かない程、闘争本能を昂ぶらせ、怒りのまま拳を奮った存在……
『悪魔』を再び呼び起こしてしまう程に。
だが今の鳴海にはもっと許せない存在が居る。
自動人形を束ねる存在でもあり、真夜中のサーカスの首領フランシーヌ人形と同じくらい許せない存在が。

「DIOと言ったか……こいつだけはオレにはどうしても許せそうにはねぇ! ぜってぇーにぶちのめしてやる!」
先程の戦闘で刃牙が口走ったDIOという男。
刃牙の話からするとこのDIOが刃牙の親玉であり、既に人を三人……10歳にも満たない子供さえも殺したらしい。
これだけの事をしたDIOを、誰よりも人を、子供を、笑顔を愛する鳴海が許せる筈もなかった。
ドラゴン殺しの英雄の名を冠する刃、
『聖ジョルジュの剣』が内蔵された義手に手を当てて鳴海は静かに両目を閉じる。
しろがねに成りたての時は、なにか不気味に見えた自分の義手と聖ジョルジョの剣だが、
鳴海は己の拳法とこれらを駆使し、人形を使わずに幾多の自動人形を破壊し続けた。
言わば鳴海の半身とも言える彼の義手。
(原付野郎の時は使わなかったがDIOの野郎には絶対に容赦はしねぇ……
眼には眼を、歯には歯を、悪魔には悪魔だ! クソッタレが!)
そんな義手に手を当てながら鳴海は決意を固める。
一言も激情に塗れた言葉は口には出さず、只歯軋りの音を周囲に響かせながら静かに、それでいて熱い感情を滲ませて。
そんな事をしていると、鳴海は前方から何か音が聞こえてくるのを感じとる。
ガキュン、ガキュンと音を唸らせ、逆十字号が走ってくる。
慣れない運転のせいか、逆十字号は鳴海の数十メートル先で急に停止し、
運転席と助手席に二人の人間が乗っていた……勿論、才賀勝と愚地独歩の二人が。

「よう兄ちゃん! エレオノールっていう嬢ちゃんは一緒じゃねぇのか?」
55歳という年齢の面影を微塵にも感じさせず、素早く逆十字号から飛び降りながら、
そう言って独歩は気さくに手を振りながら鳴海に話しかける。
当然、独歩と面識がない鳴海は一瞬、対応に迷うが直ぐに気を取り直す。

「ああ、エレオノールには先に喫茶店に行ってもらったんだ。
それでなんでオレ達の事を知ってるんだ?」
見た目はこれでもかと言うほどいかつい顔をした独歩に、警戒しながら鳴海は訊ねる。
鳴海が警戒するのも無理はない。
鳴海はエレオノールの知り合いは才賀勝だけだとしか聞かされておらず、
彼の目の前に居るスキンヘッドの男が才賀勝であるという事は有り得なかったからだ。
そんな鳴海の意図を汲み取ったかのように、独歩は逆十字号の助手席に手を伸ばす。
何故独歩はこんな状況で手を伸ばすのだろうか?
その答えは独歩の手の先に居る、一人の少年が握っている。

「久しぶりです。僕、喫茶店までエレオノールと一緒に居た者です」
独歩の手に助けられながら、助手席から降りてきた勝がそう言葉を発する。
勝の言葉を聞いて今まで警戒を続けていた鳴海の表情は緩み、彼は警戒を解く。

「成程そういうコトか、オレは加藤鳴海。鳴海とでも呼んでくれ。
アンタの名前は?」
「物分りが良くて助かるぜ。俺は愚地独歩。なら俺の事は独歩と呼べや」
エレオノールと共に喫茶店まで行動を共にしていた勝の事を、鳴海は当然覚えていた。
その勝と一緒に居るという事は、彼は自分達が花火の様子を見に行った後に、
喫茶店で勝達と合流し、その時自分達の事を聞き、様子を見に来たと鳴海は判断を下したからだ。
それに良く見れば独歩もそんなに悪いような奴には見えない、そう思い鳴海は独歩の事を仲間だと認識を深める。


「だが、なんでエレオノールの嬢ちゃんは先に行ったんだ? それと赤木って奴もよ」
そう鳴海に訊ねるのは独歩。
良く見れば独歩の傍に居る勝も、真剣な眼差しで鳴海を真っ直ぐ射抜いている。
勝は確かに鳴海とエレオノールが花火が打ち上げられた方向へ駆け出し、
赤木がその二人を追いかけるように出て行ったのを覚えているからだ。
てっきりエレオノールと赤木の二人は、鳴海と共に居るものだと疑わなかった勝も、
声には出さないまでも、かなり驚いていた。

「ああ、赤木とエレオノールはな……」
独歩達が驚く事は無理もないと鳴海は思い、彼は口を開く。
勝と独歩に対して、自分達が花火を見に行った後、どういう事が起きたのかを。
◇  ◆  ◇

「どういう事だ独歩さん!? あの原付野郎は……刃牙ってヤツはアンタの知り合いだって言うのかよ!?」
自分の話を終えた鳴海が独歩に鬼気迫る勢いで言寄る。
DIOの手下で、今まで名前は解らなかった原付野郎。
この男の話を独歩にした所、独歩の知り合い、
刃牙という事が解ったので、鳴海が驚くのは無理もない。
先程の戦闘の時の言動からは、紛れもない危険人物と断定出来る刃牙。
その刃牙の知り合いだという独歩を、鳴海は思わず不審な視線を向けてしまう。

「ああ、その通りだ。だが、DIOっていう男は知らねぇ……
もしかしてそのDIOって男に唆されたのかもしれねぇが……それでもあの刃牙が殺人に走るとは思えねぇ」
鳴海に言い寄られている独歩も、珍しく困惑の表情を浮かべている。
強き者との闘いを何よりも望み、範馬勇次郎を超えるために、己を鍛え、
闘い続けた刃牙がこんな殺し合いに乗る筈がないと独歩は確信していたからだ。
(一体何が起きたんだ刃牙? いや、刃牙だけじゃねぇ……もっと解らねぇのは光成の方だ)
いつも自分の闘いに、目を輝かさせて、子供のようにはしゃぎながら観戦していた光成。
只、屈強な者達が闘うのを観戦するのを、何よりも望んでいた老人である光成。
独歩にはこの光成が何故、こんなイカレタ殺し合いを開催したのかが理解不能であり、ずっと考え続けていた。

だが、今光成の事を鳴海達に話すのは更に状況を複雑にさせるものではないかと独歩は思う。
既に刃牙の事だけでも鳴海は勿論、独歩も困惑しているからだ。
それに鳴海の話を聞き、独歩には気懸かりな事があった……直ぐに対処しなければ、
とんでもない惨事を招くかもしれない程、気になるものが。

「それよりも……本当に刃牙は今エレオノールの嬢ちゃんと一緒に居るんだな?」
「ああ…………喉をツブシちまったから、さっき言った核鉄ってやつを持たせたぜ。
勿論、ロープで縛ったけどな」
独歩の眼つきが変わり、只ならぬ闘気が彼の周囲を覆うのを鳴海は感じ、思わず言葉を一瞬濁らせるが鳴海は口を開く。
その鳴海の言葉を受け、独歩は……一瞬の内に逆十字号の運転席に飛び乗った。

「お! おい! 急にどうした独歩さん!?」
「刃牙に治癒力を促進させるものを与え、ロープで縛っただけだと……?
甘ぇ! 甘すぎる! あいつはどんな境地でも這い上がってきた、
しかもおまえさんに負けてるとなると……エレオノールの嬢ちゃんがヤベェぞ!!」
独歩は知っている。
刃牙の異常とも言えるタフネス、勝利への欲求、彼の恐るべき身体能力を。
特に光成が開催した最大トーナメント戦、決勝戦で己の兄、ジャック・ハンマーと刃牙が繰り広げた壮絶な死闘は、
独歩の頭脳に強く認識されている。
双方の肉を、骨を、血を、命を削った闘いで刃牙は最後まで、ギブアップを行わずに勝利を収めた。
そんな刃牙が喉を潰され、全身を殴打し、ロープで縛られただけで……おとなしくしている筈が無い。

「何ッ!? わかった、DIO探しは一時中断だ。オレもアンタ達と一緒にエレオノールに行ってもらった喫茶店に向かうぜ!」
独歩のとてもふざけているようには見えない態度に、
鳴海は言いようの無い危機感を覚え、独歩と同じ動作で逆十字号に飛び乗る。
鳴海にとってエレオノールは最早、感じの悪い女ではなく、立派な一人の仲間なのだ。
仲間が危機に瀕しているかもしれないという状況で、鳴海は只手を拱いているような男ではない。

「さぁ早いトコ行こうぜ独歩さん! そういえば……ボウズ、オレ達名前を紹介してなかったな。
オレに教えてくれないか? おまえの名前を」
助手席に座り終わった鳴海が、思い出したように訊ねる。
勿論、もう一人の同行者……勝に向けて。
その言葉を受けた勝の表情は……決してオドオドしているようなものではなく、毅然としたものだった。

「わかりました。鳴海さん……実は……」
◇  ◆  ◇

(この鳴海っていう兄ちゃんは間違いなく頼りになる。その事はいい。だがそれよりも……)
逆十字号を運転しながら独歩は思う。
何故、刃牙と光成があそこまで変わってしまったのかという事を。
二人とも殺人などに走るような人柄ではないと言うのに……。
(考えてもしかたねぇか……とにかく刃牙がエレオノールの嬢ちゃんを、
誰かを傷つけるような事をするならそれを止める事が第一か……それと鳴海の話に出てきた勇次郎を追うと)
己の今行うべき行動を、今一度独歩は自分に言い聞かせる。
勇次郎を放置すれば、奴のせいで不要な悲しみを被る者も出るだろう。
なら、知り合いのよしみとしても、勇次郎は倒さなければならないという決意を独歩は更に強くする。
そんな独歩はふと思ってしまう……刃牙と光成は自分の知っている刃牙と光成でなく、只の同姓同名の人物かという事を。
だが……その答えは未だ出ようとはしていない。

(この独歩っていうおっさんは頼りになるし、好感が持てるぜ……だが問題はこのボウズだ。
『ごめんなさい。エレオノールと合流出来た時に全てを話します』だと?
凄く真剣な眼をしてたからつい、引き下がっちまったけどな)
逆十字号の助手席に座りながら鳴海は思う。
彼は何故か勝から名前を教えてもらえなかったからだ。
その理由はいくら考えても鳴海にはわからない。
だが、それよりも……
(無事で居ろよエレオノール……ん?そういえば何でエレオノールはギイのオリンピアが使えるんだ?
いや、それよりもなんでオリンピアが此処にある? それにあいつの声を、オレはいつかどこかで聞いたような……)
鳴海も独歩と同じように悩みに頭を抱えていた。
まるでステージで、次に自分がやるべき芸を忘れてしまった道化のように。


(ごめんよ鳴海兄ちゃん……今は兄ちゃんに僕の名前を教えるわけにはいかないんだ)
勝が鳴海に名を伏せ、独歩に自分の事を鳴海に話さないように頼んだのは勿論、
自分が今までエレオノールに対して行っていた偽称のせいである。
エレオノールが才賀勝という人物を探していると、鳴海は当然喫茶店で知っているので、
そんな鳴海に『僕の名前は才賀勝です』と言うわけにはいかないからだ。
更に勝は普段エレオノールの事を、しろがねと呼ぶがその事実に反して彼女の事をエレオノールと呼んでいた。
しろがねという名を使ってしまえば、鳴海がエレオノールをしろがねの関係者だと思い、
只でさえ勝とエレオノールの、この殺し合いに呼ばれた時間の違いにより生まれた複雑な問題が、余計複雑になってしまうからだ。
だから勝は全ての、自分だけが知る事実は伏せてきた。
また、パピヨン、こなたとの相談で、エレオノールに自分の偽称、自分達の関係を話す決意をした勝は、
エレオノールと鳴海の両名が同席する場でその事を打ち明けようと思っていた。

この複雑な問題は二人揃っているほうが手間も省けるし、もしエレオノールが彼女の世界の才賀勝を守るため殺し合いに乗ろうとしても、
自分と鳴海で二人がかりで抑える事が出来るという利点もある。
それに勝はある事に賭けていた……
(鳴海兄ちゃんはどういうわけか僕としろがねの事についての記憶はない……けど!
しろがねは今ピエロのメイクをしているからわからないだけかもしれないんだ!)
そう、鳴海がピエロのメイクを外したエレオノールの素顔を見れば、
自分達の事を全て思い出してくれるのではないかという事に。
自分の説明がエレオノールを、完全に納得出来なかった時の最後の切り札として。
(これから僕がやろうとしている事は間違いなく、ここに連れて来られてから一番の大仕事だ、
けど……やらなきゃ! 絶対に……! 僕としろがねと鳴海兄ちゃんが何も隠し事をしないで笑って暮らしていくためにも……!)
そんな風に決意を固める勝はふと、空を見上げる。
降りかかってくる太陽の光が、今の勝には馬鹿みたいに眩しかった。

【D-3とE-3の境目/1日目 午後】

【才賀勝@からくりサーカス】
[状態]:両足の脹脛に一つずつ切り傷。軽傷のため行動に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、書き込んだ名簿、携帯電話(電話帳機能にアミバの番号あり)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない
1:しろがねと鳴海に真実を告げるため、喫茶店へ向かい、しろがねと会う。
2:しろがねが殺し合いに乗るなら、全力で止める。
3:その後、駅に戻ってパピヨンたちと合流して喫茶店に戻る。
4:乗っていない人を探して味方にする。
5:みんなで脱出する。
6:アミバ・勇次郎・ジグマール・平次(名前は知らない)・タバサ(名前は知らない)に警戒。
[備考]
※勝は鳴海が自分のことを覚えていないということを感じましたが、同姓同名の別人ではないと思っています。
※独歩・シェリスと情報交換をしました。
※いざとなったら鳴海にしろがねの素顔をみてもらい、記憶を取り戻してほしいと思っています


【加藤鳴海@からくりサーカス】
[状態]:アバラ骨が一本骨折 胃腸に中程度の怪我 自己治癒中
[装備]:聖ジョルジュの剣@からくりサーカス
[道具]:支給品一式×2(刃牙、鳴海)  輸血パック(AB型)@HELLSING
グリース缶@グラップラー刃牙 道化のマスク@からくりサーカス
[思考]
基本:バトルロワイアルの破壊、誰かが襲われていたら助ける。赤木がいう完璧な勝利を目指す。
1:喫茶店へ向かい、エレオノールと合流する。
2:誰かが襲われていたら救出し、保護する
3:才賀勝を探す
4:赤木との約束の為に、8時に学校へ行く
5:いつか必ずDIOをぶっ潰す
6:殺し合いに乗っている奴を成敗する
7:DIOの情報を集める
[備考]
※聖ジョルジュの剣は鳴海の左腕に最初からついていますので支給品ではありません
※参戦時期は本編18巻のサハラ編第17幕「休憩」後です
※サハラ編から参戦しているので勝、しろがねについての記憶は殆どありません
※エレオノールを取りあえずは信用しています、
またメイクのせいでエレオノールとフランシーヌ人形が
似ている事に気づいていません
※勝という名前、エレオノールの声と人形操りの技術、オリンピアの存在に何か引っかかっています
※勝を少し胡散臭そうに思っています


【愚地独歩@グラップラー刃牙】
[状態]:健康
[装備]:逆十字号@覚悟のススメ、キツめのスーツ
[道具]:支給品一式、黒王号@北斗の拳、不明@からくりサーカス
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない。
1:喫茶店へ向かい、しろがねと合流する。
2:その後、駅に戻ってシェリスと合流。そのままシェリスの服を見立てる為に繁華街に行って、服を探す。
3:アミバ・ラオウ・勇次郎・ジグマール・平次(名前は知らない)と接触、戦闘。
4:乗っていない人間にケンシロウ・上記の人間・タバサ(名前は知らない、女なので戦わない)の情報を伝える。
5:シェリスとともに劉鳳を探す
6:適当な時に勇次郎が行ったと思われる方向に行き、闘う
[備考]
※逆十字号に乗っている場合、移動速度は徒歩より速いです。
※パピヨン・勝・こなたと情報交換をしました。
※不明@からくりサーカス
『自動人形』の文字のみ確認できます。
中身は不明ですが、自立行動可能かつ戦闘可能な『参加者になり得るもの』は入っていません。
※刃牙、光成の変貌に疑問を感じています


145:銀の意志 投下順 147:必要なのは助けてくれる人
145:銀の意志 時系列順 147:必要なのは助けてくれる人
134:スタートライン 才賀勝 158:一瞬のからくりサーカス
136:――――降臨 加藤鳴海 158:一瞬のからくりサーカス
134:スタートライン 愚地独歩 158:一瞬のからくりサーカス



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