交差する運命(中編)1qmjaShGfE



川田の狙撃成功率はお世辞にも良いとは言えない。
しかも時間は夜、当てろと言われても無理言うなと答えるしかない。
だが、遠距離からの狙撃があると相手に知らしめる事でその行動を制限する事が出来る。
だからまずは川田の狙撃から、そしてその後狙撃を避ける動きをするであろう目標を斗貴子がしとめる。
斗貴子は自分に狙撃が飛んで来ないのがわかっているのだから、好き放題動けるのだ。これだけ有利な状況そうは無かろう。
ターゲットは二人、男と少女。
今のでしとめられなかったとしても、怪我の一つぐらいはしてるだろう。
というか、自分の存在意義をあの女に知らしめる意味でも最低限、怪我ぐらいはしていて欲しい。
戦況を確認すべく目を凝らす川田。目標がこちらの予定外の行動を取る可能性も否定出来ないのだ。
「瞬殺で頼むぜ津村……って待て。あれは……まさか」
学校の校庭に見覚えのある姿が見える。
驚いてる暇は無い。あの男が出てきたらこれだけ有利な状況でも簡単に引っくり返される。
「葉隠れえええええええ!!」
川田は再び照準器に目の位置を合わせ、迷わずに再び引き金を引いた。

覚悟が人影を見失って少し経つ。
人影の向かったと思しき方向に走ってきてはみたが、完全に見失ってしまったようだ。
そんな覚悟の耳に、爆音が聞こえてきた。
場所は近い。そちらに向かって走ると、そこは学校のようで、教室の一角から煙が上がっていた。
正門から校庭を突っ切ってその場所へと向かう覚悟。
校庭の半ばまで来た所で、学校からだろう、大声が聞こえてきた。
「狙撃がある! すぐに物陰に走れ!」
言い終わるか否かの間に、覚悟の居る場所から数メートル離れた場所に大砲か何かの弾が着弾する。
走っていたのが幸いしたようだ。
校舎に向かって駆け出す覚悟。
その側にもう一発弾が撃ち込まれるが、それはやはり素早く走る覚悟に当たる事は無かった。
窓ガラスを突き破りながら教室に飛び込むなり、声の主を探す覚悟。
「葉隠覚悟だ! 先ほどの声の主は何処か!?」
声の主の居ると思われる場所に向かったのだ。果たして声の主、赤木シゲルはその教室から出てすぐの廊下に居た。
「こっちだ。教室側に居ると狙われるぞ」
二人は廊下に出ると簡単に自己紹介を済ませる。
「赤木、しげるだ……」
「葉隠覚悟。この殺し合いを止めんと欲する者だ」
こんな状況なのに、赤木は何時もどおり、あの含み笑いを覚悟に見せる。
「クククッ、だろうな。最初のアレは、参加者全員が覚えている」
「恐縮だ。敵は何者か? そして貴方の目的を聞きたい」
馬鹿正直にそう問いかけてくるその姿勢に、葉隠覚悟という人物を見た気がする。
「敵さんの正体はわからん。俺の目的もアンタと同じさ」
「ありがたい。では俺は迎撃に出る。赤木殿はここで待っておられよ」
さらっとそんな事を言う覚悟に、赤木は探るようにその目を見つめる。
「……出来るのかい?」
「狙撃手の位置は確認した。そして俺の走る速度ならば彼奴の狙撃は当たらぬ事も。ならば正面より討って出て、逃げる暇すら与えずこれを粉砕する」
例え十中八九それが確かだとわかっていても、狙撃手に狙われているのがわかっている中、平然と迎撃に出るなどとそうそう言えるものではない。
赤木はそれが言える覚悟を、ラオウや勇次郎、そしてケンシロウや鳴海といった猛者達と同じ類の人間と断定した。
「なら頼む。気をつけろ、おそらく敵はこの一手以外にも何かを用意している。奴は、こっちが動き出すのを待っている」
狙撃は相手の動きを止めるのが目的の一つだ。
にも関わらず、赤木は狙撃手の目的はこちらを動かす事だと言う。
その矛盾を問いただす覚悟に、赤木はやはり人が悪そうに笑って言った。
「長時間の戦闘は思わぬ介入者を招く、アンタのようにな。自分に味方が少ないと自覚してる奴が……時間をかけるようなやり方を好むとは、俺には思えない。トドメの一手を用意してると見たが……」
赤木の読みに驚く覚悟。
「それはここに残った貴方も危険だという事か? ならば守りに回って時間を稼ぐべきか……」
「いいや……確かにこちらに増援のアテはあるが……それでもアンタは今すぐ迎撃に出るべきだ」
赤木のこの話し方に全く慣れていない覚悟は、不思議そうに問い返す。
「何故だ?」
「奴は今攻撃に出ている。だが、それは同時に守りに回すべき力がそちらに割かれていると見るべきだ。ならば、奴の攻撃プランのイレギュラーであるはずのアンタを使って反撃に出れば、その隙を突く事も出来るはず」
敵は最初の狙撃の後、引き続きこちらを狙い続けている。
成功失敗に関わらず、狙撃という攻撃手段から考えればすぐさま撤退すべきなのにも関わらずだ。
罠は、狙撃を逃れるべく動いた先にある。
覚悟はその狙撃に向かって行くという。ならばその罠にかかる事もあるまい。
自分はこの場でそれが終わるのを待ち、狙撃のせいで通れないはずの場所を通って脱出する。
赤木のプランを覚悟は了承すると、何を言う間も無く飛び込んできた窓ガラスから飛び出し、一直線に校庭を駆け抜けていく。
こうしてみると、覚悟の走る速さが異常な事がわかる。
放送でも、ナギは死んだがケンシロウも独歩という男も生きているという。
次々揃う強力な手牌。
流れは、完全に赤木の物であった。

「ようやく行ったか。やっと、カズキの仇が討てる……」

いや、どうもそれだけでは無いようだ。
覚悟が去るなり、津村斗貴子がその姿を現した。
「お前は……そうか、仲間を見つけたか……クククククッ、なるほど。それがもう一手か」
「仲間? この狙撃は私の知った事ではないな。良い機会ではあるがな」
更に深く笑う赤木。
「よせよせ、誤魔化した所で意味は無い。どうせ狙撃から逃げ出そうとする場所、校舎裏辺りに潜んでいたんだろう。この狙撃は俺には当たるがお前には当たらない。だが、それでもお前は俺には勝てない……」

覚悟の考えた通り、数発の弾が覚悟に向けて飛んでくるも、覚悟にそれが当たる事は無かった。
すぐに一番狙いやすい校庭を抜けると、目標であるビルを目指す覚悟。
最後に銃撃を受けてから、そのビルに辿り着くまで、ものの数分も経っていない。
これなら確実に捉えられる。
覚悟は確信を持って大きく跳躍すると、ビルの側面を蹴り、狙撃を仕掛けてきたと思われる窓に直接飛び込んだ。
「遠間からの攻撃とは卑怯極まりなし! 外道! この葉隠覚悟が相手だ!」
相手は部屋を飛び出した後、だが、走り去る音がまだ聞こえてくる。
逃がさんとばかりに常人離れした速度で追いかける覚悟。
あっという間に、相手は一つの部屋へと追い詰められてしまった。
「卑怯者め! 最後ぐらい力の限り足掻いてみせたらどうだ!」
そう怒鳴りつけながら部屋へと入る。
不注意ととられかねないが、覚悟はこの至近距離で相手の手元が見えるのならば、銃など喰らわない自信があったのだ。
そこには、覚悟に背を向けて立つ川田の姿があった。
長大なライフルを抱える川田。
そうだ、川田ならばあの狙撃も可能なのではないだろうか。
にも関わらず迂闊にもその可能性を失念していた。
いや、川田がそんな真似をすると、信じたくなかったからなのかもしれない。
「……川田」
川田は何も言わない。
「川田!」
大声でそう叫び、彼に歩み寄る。
何と言って彼を説得すればいい。こちらに背を向けたままの今の川田の姿が、彼の意思ではないのか。
「どうかもう一度考え直して欲しい。短い時間ではあったが、我等四人は心を繋いだ真の仲間だったと私は信じている。お前は違うのか?」
やはり川田からの返事は無い。
「共にこの企みを打ち砕こう。俺達なら、どんなに辛い事でもきっと乗り越えられる。だから、俺と一緒に……」

何故か視界がぼやける。
足元がふらつき、立っている事もおぼつかない。
たまらず膝を付く。呼吸が苦しい。息が、出来、無い。
覚悟に向かって、ようやく振り返った川田は、口元にホースのようなものを咥えていた。
身動きの取れなくなった覚悟にハルコンネンを向ける川田。
川田は何も語らない。
ただ、確実に覚悟を殺すべく、その額に狙いを定め、引き金を引いた。

川田の切り札の一つ、強力無比と思われる相手と戦う時の為に考えていた策。
密封した室内にドライアイスを大量に放り込んでおく。
それが気化し、室内は過剰な二酸化炭素でいっぱいになる。
過剰な二酸化炭素は、それを吸ってしまうと呼吸中枢に毒性を示す為、自発呼吸が停止してしまうのだ。
相手が息をする人間であるのなら、川田は何者だろうとこれでしとめる自信があった。
『お前も人間みたいで安心したよ。まあ一息吸っただけで呼吸困難になる程の濃度を、あれだけの間平然としてたのはちと人間離れしてるがな』
今時ドライアイスならそこらのスーパーにすら置いてある。
それを大量に用意し、気化させておいた部屋を用意してあったのだ。
今回の敵が無茶な力を持った相手だった場合、校舎裏に待ち構える斗貴子の前ではなく、狙撃をする自分を迎撃に出てくると踏んで。
『まさか葉隠が出てくるとは思わなかったが……いや、仮想敵はいつだってお前だったな』
川田の知る一番身近で非常識な力の持ち主。
彼に通用するのなら誰にでも通用する。
そんな事を考えていた。
『悪く思うな……なんて事ぁ言えねえな。いいぜ、悪く思っても。それでも、俺は……』
劣化ウラン弾を詰めたハルコンネンによる至近距離からの一撃を頭部へ。
入ってきたドアが砕け散り、その破片に埋もれる覚悟は、ドア同様に砕け散ると思ったのだが、驚くべき事に原形をとどめている。

チアノーゼの症状が顔中に広がっている。
にも関わらず、覚悟は震えながら立ち上がろうとしている。
その頭部は金属で覆われ、弾の直撃を防いでいる。
零式鉄球。これは覚悟の体内に埋め込まれている八個の鉄球である。
この鉄球は皮膚の56%を超鋼と化す事が可能で、今回これが覚悟を守る盾となっているのである。
『……前言撤回だ。やっぱりお前人類じゃねえわ』
既に気化した二酸化炭素は散ってしまっただろう。
吸い続けなければ危険なのではなく、吸ってしまったら危険なので、充分な注意が必要だ。
ホースを離して息をしても大丈夫とは思ったが、念のため呼吸だけは止めておく。
この弾込は両手を使わなければならない。

息を止めたまま、弾を詰め、放つ。
息を止めたまま、弾を詰め、放つ。
息を止めたまま、弾を詰め、放つ。
息を止めたまま、弾を詰め、放つ。
息を止めたまま、弾を詰め、放つ。

撃ち込む度に背後の壁ごと大きく跳ねる覚悟の体。
覚悟がぴくりとも動かなくなったのを確認すると、川田は部屋を後にする。
危うくこちらの息が持たなくなる所だ。
ここまで周到に準備しておきながら、こんなに追い詰められるとは思わなかった。
それに覚悟を殺すのは、自分で思ってた以上にあっさりとやれた。
どうやら、クラスメイトを皆殺しにした第一回の経験がこんな形で活きているらしい。
『こりゃ、俺がヒナギクさんに殺されそうだ』
暢気にそんな事を考えながら、川田はビルを後にした。