正義のカタチ ◆d4asqdtPw2



おびただしい量の血を噴出し、首のない少女が床に倒れる。
先ほど目にした光景が何度も頭の中で再生される。

――自分は何もできなかった。

あの少女を救うことができなかった。それは自分の力不足だ。言い訳などするつもりはない。
するつもりはない、が――

「……はぁ」
防人衛はベンチから立ち上がり大きく溜め息を吐くと、この公園で最も大きなアスレチックへ向けて歩き出した。
自分の身長の3倍はあろう木製の化け物はまるでこの公園の支配者であるかのように見える。
防人は巨大遊具の根幹をなす柱、その足元に立つと、目を閉じてもう一度あの光景を思い出す。自らの意思で。

悲鳴、絶叫、立ちすくむ自分自身。
自分はヨワイ、何もデキナイ。
何もできない弱い男。彼の視線の外には。

もうダメだ、コンナコトはヤメヨウ。
「俺のこの手の届く範囲には」
挫けそうになる心を必死で己の意思の下に繋ぎ止め、弱い感情と戦い続ける。

クルシイ。消エタイ。無駄ナンダヨ。
突然の死を前に呆然とする防人衛の周りには。

泣き叫ぶ少年、恐怖に震える少女がいた。


見開いた眼はナイフのように鋭い。
(言い訳などするつもりはない、俺は無力だ。……だがしかし!)
絶望の風景のその中で、彼は今一度胸に刻む。自らの正義を。
浮かんできた喪失感や後悔の念を全てその拳に込め

「直撃……ブラボー拳!」

叩きつけた。遥かに広がるこの地の主へ、絶望を生み出したこの殺し合いの主催者へ。
(無力な俺にも守れるものがある。ならば、俺は)
目の前の柱が悲鳴とも取れる音を出して無残にも叩き折れる。しかし彼は、尚も君臨し続ける遊具を倒すべく次なる柱へとその歩を進めた。
この拳の痛みを、二度と忘れないように。

数分後、息を切らして地面に転がり星空を仰ぐ一人の男、拳からは血が滲んでいる。
そしてその隣には崩れた遊具が、彼が倒した支配者が。地に伏して尚も大きく、気高く、その男を称えるように存在していた。

「ただ休むだけでは時間の無駄だ。考えなくては、何をすべきかを」
そう呟いてデイパックの中から名簿を取り出す。見知った名前は……3人。
(戦士・カズキに戦士・斗貴子……そして、パピヨン)
流石に驚きは隠せなかったが、今は考えるのが先だ、冷静になれ。
まず斗貴子は問題ないだろう。彼女はこんな殺し合いに乗るほど愚かではないし、最も利口に動けるタイプの人間だ。
カズキは殺し合いには絶対に乗らない、彼は真っ直ぐな男だ。だが、その性格が彼の身を滅ぼすことにはならないだろうか。
そしてパピヨン。
なにしろ気まぐれな男だ。人を殺すことには躊躇がない。殺される心配はまずないと思うが。
やはり心配だ。彼らは強い、おそらく自分とわたり合えるほどに、しかし

「範馬、勇次郎……」

先ほど主催者に詰め寄った男の名前が目に入った。一目見れば分かる。あの男は異常だ、強すぎる。
それと拳王と名乗っていた男。あの2人にはいくら錬金の戦士とて容易に勝つことはできないだろう。
そしておそらく、心臓の変わりに核鉄が存在しているカズキを除いた2人は核鉄を持ってはいない。

そして自分も、シルバースキンを失っていた。

「さて……事態は思った以上に悪いようだな」
名簿を仕舞うと、バッグを再び調べ始めた。緑の芝生の上を通ってきた風が妙に心地いい。




「殺し合いか……くだらない」
それが劉鳳の率直な感想だった。彼のいた世界――ロストグラウンドは大規模な地殻変動によって荒れ果てていた。
沿岸部に広がる都市はまだいい。問題はその外、未開発地区だ。法も秩序もない荒れ果てた悪人の巣窟、そこで昔の自分は毎日のようにネイティブアルターと戦っていた。
それと今の状況と何が違うのか、自分は悪を断罪し弱き者を保護する、それが俺の正義なのだから。
正義……そうだ、俺は悪を滅ぼす。何の罪もない少女を殺した光成という男、己の欲するがままに暴力を振るう勇次郎、拳王と名乗った男もだ。
彼は決して迷わないし揺らがない。彼は彼の正義、それのみに従って生きているのだから。
歩きながら思案に暮れていた劉鳳だが、周りには遊具らしき物の他は芝生と暗闇が広がるのみで一向に景色が変わる気配がない。さすがに嫌になる。ならば、
「誰と出会うにしても準備はするに越したことがないだろう」
立ち止まり、バッグの中へと視線を送ると水や食料、時計などが入っているのが確認できる。
「なるほど、殺し合いのための用意はされているらしい。これは名簿か」
見つけた名簿に目を通す。しかしその顔は次第に驚きに包まれていった。
「カズマにシェリス。それにあの男は!」
自分の欲望のままに振る舞い秩序を乱す男、最大の宿敵カズマ。自分の最も愛しい人、シェリス。
そして、死んだはずの元ホーリー部隊隊長、マーティン・ジグマール。
一度に襲ってきた情報に劉鳳が対応しきれないでいたそのとき

あたりに響く重低音とともに建造物が崩落するのが見えた。

「敵か!? ……絶影!」
最も信頼できる自分のアルターを呼び出す。それまでの思考を全てふっ飛ばし、周囲の状況を探る。
(戦闘音も聞こえない、となると)
先ほどの一撃で勝負がついたか、もしくは感情のままに破壊を行う毒虫か。警戒を解かないままで推測を開始する。
前者であれば間違いなく殺戮者がそこにいる。建造物を破壊できる一撃をもつほどの者が。
後者であれば殺人は犯してはいないだろうが。己の心に正義を持つものがこんな秩序を乱す行いをするはずがない。
どちらにしても、そこに殺し合いに乗った悪人がいる可能性は高い。
もちろんそのどちらでもないという可能性も十分にある。その場合も考えれば、いきなり襲い掛かるのはまずいだろう。だがなんにせよ、警戒はしなくてはなるまい。

殺人ゲームに乗った悪人どもに愛しい人が殺されるかもしれない。

ほんの一瞬夜空を仰ぐと、彼は前を見据える。
「行くぞ絶影。俺は俺の正義に従い、悪を断罪する!」
叫ぶなり劉鳳は崩落を確認した場所へ走り出した。

彼の向かう先にいるのは、自分とは異なる形の正義を持ち合わせた男。それに出会ったとき、彼は何を思うのだろうか。


【A-6、総合公園/1日目・深夜】
【防人衛@武装錬金】
[状態]:疲労(中) 拳に傷(戦闘に支障はありません) 
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品1~3(これから確認)
[思考]
基本:弱いものを守る
1:休憩しつつ持ち物を確認して、今後の対策を練る
2:自分の知り合い、核鉄を探す
3:勇次郎と拳王には警戒
[備考]崩落時の音の大きさは不明ですがそれほど遠くには響きません



【劉鳳@スクライド】
{状態}健康
{装備}なし(絶影は出しています)
{道具}支給品一式 不明支給品1~3
{思考・状況}
1:崩落現場に向かい、その犯人を悪か見極める
2:悪は断罪、弱者(シェリス優先)は保護
3:カズマ、ジグマールについて考えるのは後
[備考]絶影の制限による攻撃力低下には気づいていません


006:殺人鬼の日々の過ごし方inロワイアル 投下順 008:――――――は砕けない。
006:殺人鬼の日々の過ごし方inロワイアル 時系列順 008:――――――は砕けない。
初登場 防人衛 038:拳の雨降って地固まる
初登場 劉鳳 038:拳の雨降って地固まる