STILL LOVE HER ~失われた未来~(後編)◆6YD2p5BHYs



……医療の世界で、広く知られた事実がある。

例えば、心臓移植。
何らかの病気で心臓移植を受けた患者には、程度の差はあれ、性格の変容などが見られるという。
ある者は、食べ物の好みが変わり。
ある者は、飲めなかった酒が飲みたくなり。
ある者は、年齢も性別すらも飛び越えて、突飛な性癖に目覚めたりする。

そして、後から調べてみると……それら新たに目覚めた趣味嗜好は。
心臓のドナーが元々持っていた、趣味嗜好や性癖であったりするのだ。

ある研究者の唱える学説によると、心臓にも脳に似た神経細胞ネットワークが存在するのだと言う。
ICNS。「内在性神経神経細胞」と名付けられた、神経組織群。
つまりは心臓はそれ自体が、「小さな脳」であることになる。
それ自体が思考し、選択し、記憶する、「もう1つの脳」であることになる。
いわゆる「こころ」の存在だ。

そして、ここからは川田章吾という少年の持論に過ぎないのだが……
しかしそれほどまでの存在を移植によって入れ替えても、起こる変化はせいぜいがそこまで。
食事の好みだとか性的な好みだとか、瑣末な趣味嗜好の範疇に留まる程度の存在。

そう、思っていたのだが。

かつて愛した最愛の女性、慶子。
彼女の言葉、そして彼女を守れなかった最初の『プログラム』の経験が、彼を変えた。
出来損ないの脳。もう1つの脳。ハート。
合理性の追求ばかりでなく、自らの感情に忠実に。
『整合性の欠如』になど構わず、己の道を行く――
川田章吾は、そういう人間になったのだ。いや、なったはずだったのだ。

(頭だけじゃなくて、「こころ」でも考えた……。
 その結果が「つかささんが死ぬのは嫌だ」、「つかささんを生き返らせたい」、だったんだが……。
 全く、どこで間違えたんだか……な……)

あの柔かな笑顔。あの柔かな温もり。
自分が愛し、そして、「すき」と言ってくれた少女。
慶子の時と違って、今度はなんとかなるのだ。なんとかなる可能性があったのだ。
だから……だけど……!

  (冷静な状況判断は結構だけど……人の心の痛みを見つめて欲しい、って)
  (誰かが死んだら……悲しんでよ! 泣いて、いいんだよ?)

(……!? ああ……そうか……!)

ああ、そうか。彼は理解する。
「こころ」の記憶に蘇ってきた、彼の愛した女たちの声。その2つの声に、彼は理解してしまう。
彼の過ちは2つ。
1つは、自分のこころ「だけ」に耳を傾けてしまったこと。
他のひとの「こころ」を忘れてしまったこと。
そして、つかさが死んだその時に、泣くことができなかったこと。
真に「こころ」に全てを委ねなければならなかった時に、やせ我慢をしてしまったこと。

だから……この結末も当然なのかもしれない。
これは、当然の罰なのかもしれない。
心臓がゆっくりと、壊れていく。
スローモーションのように、刺し貫かれていく。
もう1つの「つたない脳」が……、ハートが、心が、心臓が、壊されていく。

川田章吾は、そして再度の己の死を、受け入れる。甘んじて罰を、絶望を受け入れる。
ただ、最後に想う。
壊れゆく「こころ」で、最期に想う。

この男は――血の涙を流しつつ「帝王」を名乗ったこの男は、果たして自分の「こころ」で考えただろうか?
ちゃんと、「こころ」の声に耳を傾けることが出来ているのだろうか?
泣くべき時に、ちゃんと泣いていただろうか?

それだけが、最期の僅かな気がかりだった。


【川田章吾@BATTLE ROYALE 死亡】
【残り10人】

         ※      ※      ※

……雨が、降り続いていた。

あちこち派手に壊れた、学校の校舎、そのすぐ近く……。
体育館の近くに建つ武道場に、パピヨンの姿があった。

彼の周囲に置かれているのは、数々の道具。
校舎の中から回収してきた、極細繊維の入ったライターやら、バイクやら、荷物やら……。
ありていに言って、勝者であるパピヨンの戦利品の数々。
それらの中から必要なものを探し出すと、パピヨンは無造作に横たえられた死体に向かい合う。

……無精髭を生やした死体。スーツを剥ぎ取られた死体。
胸の中央に大きな風穴を開けられた死体。
川田章吾の、死体。

「……『お清め』ってのは、こんな感じか?」

学校の図書室で見つけた、神道に関する本を参考にして、神棚に向かい合う。
神棚――武道場にはつきものの設備。実に小さな存在。
しかし神棚というものは、宗教上は「小さな神社」である。神が宿るための場である。
しかるべき動作をしかるべき手順で行えば、それなりの「意味」を持たせることが出来る。

「……っと、そうなると……ふむ……」

お清めの水を死体の首輪にかけ、次に取り出したのは簡単な工具のセット。
川田が生前確保していた、ツールセットだ。
首輪の表面に出現した継ぎ目に、素早くそれらをあてがう。そして。

ほんの僅かな思考錯誤の果てに、首輪はカランッ、と乾いた音を立て、死体の首元から零れ落ちた。

「……予想以上に簡単なものだな……」

条件は、揃っていた。
首輪に関する考察があった。
アカギを介して伝えられた『Dr.伊藤』の情報があった。
簡単な工具があった。
神社の代わりになりうる神棚があった。
実験するための死体があった。
パピヨンの目の前で外された、アカギの首輪の残骸があった。
そして何より――天才たるパピヨンの頭脳と決断力があった。

これだけの条件が揃って、首輪を外せぬわけがない。
それでも念のため、まずは死体で実験してみたわけだが。

これは、いける。パピヨンはニヤリと笑う。
この調子ならば自分の首輪を外すのも容易だろう。
どうやらスタンドに関する能力は首輪によって制御されているようだが、核鉄関係も同じだとするならば。
自らの首輪を外すことが出来れば、もう頑張って『ニアデスハピネスの核鉄』を探す必要もない。
手の内にある『サンライトハート』と『激戦』の核鉄を、『ニアデスハピネス・アナザータイプ』として使用できる。
パピヨンの性格に最も合致した、パピヨンのための武装錬金を作りだせる。
その気になれば、かつて武藤カズキが使ってみせた大技、『ダブル武装錬金』さえも可能になるかもしれない。

もちろん、この調子で首輪を外せるのなら……自分以外の参加者の首輪を外すことも出来る。
「外してやる」ことが、できる。
今までは他人などどうなってもいい、と思っていたが、泉こなたを『喰って』吹っ切れた今では。

「『帝王』を名乗るには『部下』が必要だからな。
 この帝王パピヨンに忠誠を誓うというなら、外してやってもいいか。
 ま、葉隠覚悟や赤木シゲルあたりは、俺の下についたりしないだろうが……!」

元々、鷲尾たち動物型ホムンクルスを率いていたこともあるパピヨンである。
元々、DIOに同類といわれるほど似通った経緯を辿ってきたパピヨンである。
その気になれば、人々の上に立つことも出来ないわけではない。
持久力の不足、という彼の決定的弱点の存在も考えれば、そこをフォローする「部下」の存在はたぶん必須。

だから、そう……。
首輪を外す技術を持ち、雷雲を突き抜ける手段をも備えた彼の下につく者も、出てくるかもしれない。
目的のためにつまらぬプライドを捨て、パピヨンの命令に従う者も出てくるかもしれない。
いや、それどころか。

(なんなら、あのJUDOとやらを組織から切り離し、トップの首を挿げ替えて……
 BADANとやらを、この帝王パピヨンが丸ごと支配してやるのもいいかもしれないな――!)

それはきっと、愛を諦める道。
愛を込めて名を呼んでもらうことを放棄し、代わりに畏怖の念を込めて名を呼ばれることになる道。
かつてDIOが志し、そして、とうとう歩みきることの出来なかった道。
辿り着けたかもしれない未来に背を背け、パピヨンはそして、静かに冥く哂った。


【C-4 学校・武道場 二日目 早朝】

【パピヨン@武装錬金】
[状態]:全身に軽い打撲。左腕に被弾。核鉄の治癒力で回復中。ドブ川の濁ったような瞳。帝王への決意。
[装備]:ライドル@仮面ライダーSPIRITS、マイクロウージー(9ミリパラベラム弾32/32)、予備マガジン2、
    猫草inランドセル@ジョジョの奇妙な冒険、アラミド繊維内蔵ライター@グラップラー刃牙
    サンライトハート(核鉄状態)@武装錬金、激戦(核鉄状態)@武装錬金、
    ヘルダイバー@仮面ライダーSPIRITS
    ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾、残弾1発、劣化ウラン弾、残弾0発)@HELLSING
[道具]:支給品一式、チョココロネ(残り4つ)@らき☆すた、
    地下鉄管理センターの位置がわかる地図、地下鉄システム仕様書
    ルイズの杖、参加者顔写真&詳細プロフィール付き名簿、首輪探知機@BATTLE ROYALE、
    ターボエンジン付きスケボー@名探偵コナン、ライダーマンのヘルメット@仮面ライダーSPIRITS
    デルフリンガー@ゼロの使い魔(紐で縛って抜けないようにしてます)
    首輪(鳴海)、解除済みの首輪の残骸×2(赤木、川田)、ツールセット、不明支給品1(未確認)

[思考・状況]
基本:BADANを打倒し、DIOにも届かなかった「真の帝王」の地位を手にする。
1:この調子で自分の首輪も解除する?
2:「部下」になり「帝王パピヨン」に忠誠を誓うのなら、他の参加者の首輪も「解除してやってもいい」
3:核鉄の謎を解く。
4:二アデスハピネスを手に入れる。
5:赤木、大首領に自分を舐めたことを後悔させる。

[備考]
※参戦時期はヴィクター戦、カズキに白い核鉄を渡した直後です
※スタンド、矢の存在に興味を持っています。
※詳細名簿を入手しました。DIOの能力については「時を止める能力」と一言記載があるだけのようです。
※こなたの死体を『食べ』ました。
※覚悟、アカギのことを快く思っていません。

※首輪の構造を理解しました。少なくとも、死体(川田)の首輪の分解には成功しました。
 ちょっとした神棚と簡単な工具さえあえれば十分に解除の条件は揃うようです。
 ただし現時点では、生きている参加者の首輪分解も可能なのかは不明です。


※以下の品物はパピヨンが重要と認めなかったため、川田の死体の傍に放置されています。
 支給品一式×3、ジッポーライター、バードコール@BATTLE ROYALE
 文化包丁、救急箱、裁縫道具(針や糸など)、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、
 缶詰やレトルトといった食料品、薬局で手に入れた薬(救急箱に入っていない物を補充&予備)
 マイルドセブン(5本消費)、ツールナイフ、つかさのリボン

※川田章吾の死体は、首輪が外されています。


233:決戦 投下順 235:束の間の休息
233:決戦 時系列順 235:束の間の休息
232:神に愛された男 蝶野攻爵(パピヨン) 242:襲来!蝶男の帝王舞
232:神に愛された男 川田章吾 死亡