あの忘れえぬ思い出に『サヨナラ』を(中編)

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あの忘れえぬ思い出に『サヨナラ』を(中編) ◆40jGqg6Boc



校舎の屋上の上に腰を落とし、不敵に見下ろす人影。
金色のボディに、風にたなびかせるマントを持つその人影はZXに酷似していた。
そう。その人物こそがこのバトルロワイアルの発端となりし存在。


大首領、“JUDO”がその場に悠然と彼らに自分の存在を示していた。

◇  ◆  ◇

「ッ! ジュドオオオオオオオオオオオオオッ!!」

ZXが吼える。
何故、ここに大首領が居るのか。
もしや、現世への復活が強化外骨格を使う以外の方法で成功したのだろうか。
様々な疑問が浮かんでは消えてゆき、ZXを惑わす。
だが、今は詳細について考えている暇などない。
変身解除を強引に取り止め、身体を捻じ曲げるように振り向き、ZXは数歩の助走を経て地を蹴り飛ばした。
更に両脚裏に内蔵されたバー二アーを稼動させ、宙に浮かせた身体の上昇速度を加速。
圧倒的な速度で屋上に接近し、右脚を上向きに突き出す。
当然、その先に居る者は大首領只一人。
未だ立ち上がろうとはせずに、ZXが自分の方へ向かってくるのを悠然と見つめるだけだ。

「ゼクロスキイィィィィィィィィィィィック!!」

再び咆哮をあげ、ZXが真紅の輝きを全身から放ち――シンクロ状態となりてZXキックを放つ。
それは第五回放送前に、範馬勇次郎を文字通り蹴り裂いた技と同等のもの。
下方から大首領に向けて、斜め一直線にZXキックの体勢で突き進む。
その速度はとてつもなく速く、かがみとヒナギクにとって眼で追いつくのがやっとの程。
やがて生み出されるであろう衝撃の大きさは言わずもがな、甚大なものとなるだろう。
しかし、上昇するように蹴り跳ぶZXに対し、未だ大首領は反応を見せない。
そうこうしている間にZXは大首領との距離を充分に詰め、最早ZXキックを避けるような距離間はなくなった。
そんな時、ふと思い出したかのように大首領は右腕をゆっくりと前方に翳し始め――

「何ッ!?」
「他愛もないな、ZX」

ZXキックを右の掌で受け、そして座ったままZXの脚を彼の身体ごと前方へ押し払った。
本当に容易く、まるでとても軽いものを押すかのように。
そして大首領の力を受け、ZXはきりもみを行いながら地面へと落ちていった。
最も、今のZXにとって大首領の力はあまりにも強大であり、その結果は当然といえたかもしれないが。

『覚悟! 奴こそが諸悪の根源、いうなれば真の悪鬼! 加減など不要、昇華弾を使うぞ!」
「任せろ、零! ヒナギクさん、柊さん、才賀殿、即急に退避してくれ! 昇華弾を使用する!」

地に落ちていくZXの着地を補助し、覚悟はヒナギク達に向かって言葉を飛ばす。
内容は即時退避。
目的は今まで使用してこなかった零の内蔵兵器使用による巻き添えを防ぐため。
予想もしなかった大首領の出現、そして彼の圧倒的な力に呆然としていた三人であったが覚悟の言葉で我を取り戻す。
直ぐに覚悟の言葉に従い、校門の方へ走り出してゆく三人。
そんな三人の退避が完全に完了したのを確認した覚悟は、今もなお腰を降ろし続けている大首領に右腕を向ける。
そして数秒の予備動作を経て、右の指先部分から赤い光が灯り――赤い光弾として放出された。
それこそが零の内蔵兵器の一つであり、人間を超えた化物、戦術鬼を一瞬の内に焼殺する昇華弾。
程なくして大首領に昇華弾が直撃し、巻き込まれた学校の屋上部分が音をたてて、破壊される。

『まだだ、 奴の保有戦闘力は計測不能! 万が一を考え、もう一発撃ち込むコトを勧める!』
「了解!」

地に降って来る破片を避けながら、覚悟は零と交信し、二発目の昇華弾使用を決める。
昇華弾の威力は凄まじく、着弾点は校舎の破壊により周囲は砂埃が覆っており、大首領の様子は窺えない。
直前まで大首領には避けた様子は見られなかったため、直撃はほぼ間違いないだろう。
高熱の炎で一瞬の内に対象を焼き尽くす昇華弾を受け、並みの人間が只では済むわけがない。
しかし、大首領の力は先程、ZXキックを簡単に無効化した事から強大であり、底が見えない現実が彼らに警戒の念を抱かせる。
そのため、零は念を押し、覚悟はそれに同意し、再び昇華弾を放つ。
止まる事なく昇華弾は宙を突き進み、大首領が居ると思われる地点に命中する。

(やったのか……?)

次第に砂塵は晴れてゆき、視界が鮮明になってゆく。
どの程度の手応えがあったかを確認するために、覚悟はヘルメット越しに両目を凝らす。
やがて、覚悟の視界に映りゆく影が一つ見え――覚悟の表情が驚きに染まった。

「葉隠覚悟、そして強化外骨格『零』か。これでは足りん……この程度では超える気にもならん」

右腕、左腕を前方に翳し、文字通り宙に浮いた大首領が言葉を発する。
大首領の身体には目立った損傷は無く、それどころかマントすらも燃え尽きていない。
只、広げられた両の掌から煙が立ちこめているだけだ。
そう。昇華弾の直撃を片手で受け止め、特に気にした様子もない大首領に覚悟は驚く。
即座に次の行動について思案する覚悟。
そんな時、覚悟の横で豪風が過ぎ去った。

『あいつが親玉って奴だな! 相棒の仇、頼むぜ!!』
「任せろ、デルフリンガーッ!!」

いつの間にかデルフリンガーを手に取ったZXが走る。
ZXキックが通用しなかった事に悔やんでいる暇などZXにはなかった。
一発で効かないのであれば、何度だって叩き込む。その意思には曇りなど無い。
相棒――平賀才人を失ったデルフリンガーの想いと力を借り、ZXは駆け抜け、やがて再び跳躍。
宙へ浮いたZXを再び両脚裏のバーニアーが彼の姿勢を補助、同時に彼の上昇をも助ける。

『続け、覚悟!』
「応! 爆心!」

ZXの動きにワンテンポ遅れながらであるが、覚悟も疾走し、途中で大きく腰を落とす。
かと思いきや、両脚に着装した爆心靴を稼動させ――膨大な熱量を放射し、それを己の跳躍力に上乗せ、大空に向かって跳ぶ。
同時に覚悟は腰を回し、左脚を引き、ZXの背中越しに大首領の位置を完全に把握。
既に己の零式の技を叩き込む用意は完了済みだ。
やがて再び大声が周囲に響く。

『いけえええええええええッ!』
「ウオオオオオオオオオオオッ!!」

デルフリンガーに応え、大首領に向かってZXが大きな雄叫びを上げた。
咆哮の後、秒にも満たない時間を経て、デルフリンガーが縦一文字に一閃。
宙で一回転を終え、手に入れた遠心力をZXはデルフリンガーを振りぬく力に加える。
大首領の脳天をかち割らんとする勢いでデルフリンガーによる斬撃が襲う。
依然、大首領は先程と同じく只その一閃を眺めるのみ。
そう。ゆっくりと右腕を前方へ動かす動作もまた、先程と同じように動き――掴んだ。

「このような玩具で我に何かを為せると思ったのか、ZX? 本当に――」
『まだだ! もっと力をいれろ……村雨とやらよおッ!』
「勿論だ……こんなところでは終われん!」

デルフリンガーを受け止め、大首領は心底つまらなそうに口を開く。
刀身を素手で受け止めているにも関わらずに、大首領の手からは一滴の血も落ちようとはしない。
だが、その事実に臆することなくデルフリンガーとZXは更に力を、声を張り上げた。
大首領を今この場で倒す事が出来れば恐らく全ては終わる。
そのチャンスをみすみす見逃したくは無く、そもそもこんな殺し合いを仕組んだ大首領を許せる筈も無い。
大首領の言葉に耳を傾けずに、デルフリンガーを押し通す腕に更に力を込める。
ギリギリと音を立て、赤い火花を散らしながらデルフリンガーの刃が大首領を切り裂かんと前へ斬り進もうともがく。
しかし、そんな時ZXは今まで感じていた手ごたえを失った。
まるでデルフリンガーを手放したように感じ――やがてZXは言葉を失った。

自分の目の前で起きた出来事に。

「脆弱なものだな」

ZXの眼前で突如として夥しい数の破片が生まれる。
日光に反射し、幻想的な光を齎す“何か”の残骸が大首領の言葉と共にZXに降り注ぐ。
その“何か”が砕ける音と共に降り注いだそれは今までZXが手にしていたもの。

そう。それはかつて一振りの剣であったもの――大首領によって握られ、粉々に砕かれたデルフリンガーの成れの果てであった。

「デ、デルフリンガァァァァァァァァァァァァッ!!」

その事実を認識し、慟哭の叫びを上げるZX。
そんなZXに大首領はほんの一瞬、一瞥をくれたたけで片手を使い彼を軽く打ち払った。
本当に軽く、だがそれでいて今のZXにとって大きな丸太で吹き飛ばされたような感覚。
そして打ちつけられた衝撃でZXの身体が後方へ吹っ飛んだ。
しかし、大首領から離れていくZXと入れ変わるように突っ込む影が一つ。

「零式因果直蹴撃!」

言うまでも無い、零を纏った覚悟だ。
左脹脛の推進剤を吹かしながら、大首領に向かって左脚を振り上げる覚悟。
人間の数倍の体長はあり、異常な生命力を誇る戦術鬼を一撃のもとで粉砕する蹴撃。
零式を極めし覚悟によって真価が発揮されるその一撃が大首領の脳天を貫かんと空をきって、迫る。
やがて真っ直ぐと伸ばされた覚悟の左脚が、完全に大首領を捉えた。

「零式防衛術……こんなものでは意味はあるまい」

しかし、大首領は自分に向かう覚悟の蹴りですらも受け止め、そのまま掴む。
急激な圧力を受け、左の爆心靴が異様な歪み方をする。
拘束された左脚を奪還するために、右脚で大首領の身体を蹴り飛ばし、その勢いで抜け出そうとする覚悟。
だが、大首領はそんな覚悟の意図を察してか、彼の左脚を掴んだ腕に力を込め、横へ振る。
零の全重量と覚悟の体重をものともせずに、大首領にとっては取るに足らない力であるが、充分すぎる力を加え振り回し――やがてその手を離した。
一瞬の内に覚悟の身体は圧倒的な加速を受けざるを得ない状況となり、弾丸のように地面へ落下する。
そしてそこは先程ZXが落下した地点とほぼ同じ。
ほどなくして覚悟の身体は地面へ突き刺さり、ここ一番の砂埃が湧き上がる結果となった。
依然、大首領はそれらを只、じっと見つめるのみ。
そこにどんな感情が隠れているかは本人以外、誰にも理解は出来そうにもない。

「村雨さん! 大丈夫!?」
「覚悟くん! 零! しっかりして!」

未だ戦闘が終わっていないにも関わらずかがみとヒナギクが飛び出す。
ZXと覚悟の様子が心配で、いてもたってもいられなくなったのだろう。
彼女らの言葉を受け、ZXと覚悟は直ぐに立ち上がり、大首領を睨む。
その両眼からは未だ諦めていない意思が感じられ、特にZXからは怒りのようなものが感じられる。
理由はいうまでもなく、自分の仲間、デルフリンガーが大首領に粉々に砕かれた事について。
デルフリンガーを失った悲しみを己の糧に換え、ZXは再び大首領に向かおうとする気配があり、それは覚悟にとっても同じ事が言えた。
そんな時、彼ら四人の前に一つの影が何かを引き連れて駆け込む。
道化士を模したような人形、白金が製造したあるるかんを引き連れた銀髪の女性――才賀エレオノールの姿が其処にあった。

(あれが大首領、ジュドー………私の償いは彼を倒すコトで達成される……!
たとえ、この命尽きようとも……やってみせる!)

例の如く、言葉を出せないエレオノールは両腕を――懸糸傀儡を操る糸が内蔵された指輪を嵌めた指を動かす。
両腕を交差させるように天に向かって上げられたエレオノールの細い腕の動きに追従し、あるるかんに生命が吹き込まれる。
そう。エレオノールが操る十本の糸により、まるで人間のように動くあるるかんはそんな風に表現することがしっくりといった。
そして、エレオノールが燃やす瞳の色もまたZXや覚悟と同じく、大首領に対する反抗の意思を示していた。
キュルケ、三千院ナギ、ケンシロウ、ギイ、そして才賀勝と加藤鳴海といった大勢の仲間に命を繋いで貰ったエレオノール。
託された様々な思いを指先に乗せ、エレオノールは大首領に向かって突撃を試みようとし、ZXと覚悟も各々かがみとヒナギクを振りきり、彼女に続いた。

「焦るな、虫共。キサマらでは我に勝てん。
そもそも我はキサマらと戯れるつもりでわざわざ此処まで来たわけではない」

そんな時、依然腕を組み、宙に浮遊している大首領が意味深な台詞を吐く。
大首領の言葉は気に留めず、そのままエレオノール達は走り続けようとする。
しかし、これほどまでにも強大な大首領が自分達に何を言おうとしているのか。
この殺し合いに従おうとしない自分達が気に喰わないのであれば、言葉など掛けずに今すぐその力でねじ伏せればいいのに。
何故こんなタイミングで大首領に自分達に言葉を掛ける意味があるのか。
その事がどうしても彼らの疑念を抱き、結果として彼らの足を止めさせた。
そんな光景を見て、大首領は心なしか満足した様子を浮かべ、ゆっくりと右腕を横へ掲げる。
まるで上げられた腕が何かの合図を示すかのように。

「理解したようだな。ならば、しかとその眼で見るが良い」

途端に、昇降口付近でバチバチと不気味な音が響く。
そして周囲の空間がぐしゃぐしゃに歪み、円の形をした奇妙な紋章のようなものが出現する。
顔をしかめる村雨以外の人間はは知る由も無いがそれこそが大首領の力の一環、魔方陣。
様々な物体を、空間を越えて移動させる事ができ、参加者を各々のスタート地点に送り込んだのは容易く、スペースシャトルの移動さえも行える代物。
やがて魔方陣の中心部から一際大きな音が鳴り響いた。
魔方陣の実態を知らない者でも、今から何か自分達の予想を超えた事が起きると予想できる程に魔方陣の中心部には変化が生じている。
一同が息を呑む中、ほどなくして中心部から一つの人影が見えた。

「ッ! あれは!?」

大首領以外の五人の声が重なり、一様に驚きの声をあげる。
何故なら彼らの予想を超えた人物が魔方陣から姿を現したから無理も無い。
頭髪は禿げきってしまった、初老の老人、そして五人にとって見覚えがある人物――

「む、ううう……」

徳川光成が彼らの方へ歩を進めてきていた。
何故か下腹部を押さえながら、ゆっくりと、本当にゆっくりと。
どこか不自然な空気を周囲に漂わせながら。
光成は一歩ずつ、彼らの方を目指していた。

「ッ!」

状況の把握が追いつかず、暫く呆然としてた五人の中でZXが一際早く飛び出す。
この殺し合いの放送役を務め、度々その声を聞かされた徳川光成。
だが、独歩の知り合いであり、光成は性格上の問題からBADANに脅されていたと思われる。
ならば、保護しなければならない。
そう考え、ZXはまさに忍者の身のこなしで風をきって、彼の元へ辿り着く。

「おい、大丈夫か!?」
「キサマらにはほとほと失望させてもらったぞ。
充分すぎた時を与えてやったというのに……未だに我の牢獄、暗雲すら越えるコトもせんとはな」

大首領が口を開く。
その言葉には苛立ちのようなものが感じられる。
同時にZXを始め、彼ら五人はその言葉に何か違和感のようなものを感じたが先ずは光成の方へ意識を集中させた。
一番に辿り着いたZXの後を覚悟、エレオノール、ヒナギク、かがみが続いて駆け寄る。
一斉に彼らの視線を受ける事となる、光成。

「そこでだ。我は良い余興を思いついた。
キサマらがさっさと我の元へ辿り着いてくると考えるように……」

しかし、光成は何故か言葉を出そうとはしない。
いや、何か喋ろうとはしている様子は窺えるのだが、光成は口を一向に開かない。
まるで何かを我慢しているかのように。
依然上空から聞こえる大首領の意味が不鮮明な言葉が何故か彼らの不安を更に煽る。
やがて、どこか体調がすぐれないのかと思い、ZXが更に光成に近寄ったその時。
ZX、覚悟、エレオノールの三人は何か、言いようの無い悪寒を感じ、エレオノールは無意識的にヒナギクとかがみを強引に後へ振り向かせた。
そして、数秒にも満たない後に光成に異変が生じ――


「このようなコトをな」


終に口を開いた光成のそれから“何か”が顔を出した。
おぞましく、そして大蛇のようにうねりながら外の世界へ出ようと動きめぐる。
やがてその“何か”は完全に光成の身体が飛び出し、地面へと落ちた。

「ほんとうに……すまんかっ…………た…………………」


何かに対し、謝罪の言葉を呟いた光成の目に生気が失われる。
力なく地面に倒れ付した光成の身体と共に、その“何か”の正体――光成の内臓が地面で脈打っていた。
村雨と覚悟の表情が一際驚愕なものに歪む。
何故なら、目の前の光景に以前にも見覚えがあったから。
生暖かそうな血液を帯び、今も直不気味に蠢く内蔵が彼らに認めたくない現実を見せ付ける。
そう。たった今、自分達の目の前で光成があっけなく絶命したという事実。

「何を驚いている、虫共。虫の一匹、そんな取るに足りんモノが一つ壊れたくらいで。
だが、我を許せないのであればキサマらがやるコトは一つ。
さっさと我らBADANの居城まで辿り着け。
まあ、つまらん小細工などを仕掛け、爆弾如きに脅えるようでは話しにならんがな」

目的を果たした魔法陣が大首領の言葉を皮切りに消えてゆく。
同時に大首領の身体も突如として除々に消えてゆき、彼自身も少し不思議そうに自分の身体の変化を見やっていた。
だが、やがて大首領は自分の身体から眼を離し、視線を戻す。

「ジュドオオオオオッ! キサマは……キサマはああああああああああッ!!」
「悪鬼め……! 誰にも人をモノ呼ばわりする権利などないッ!!」

一際大声で怒声を放つZXと覚悟。
デルフリンガーを失い、光成をみすみすと死なせた自分の不甲斐無さと大首領への怒り。
とても押さえきる事は出来ない感情がZXと覚悟の中で蠢き、ZXは先程よりも更に赤く光り、覚悟は全ての推進剤、爆心靴を稼動し、飛び上がる
シンクロ状態となったZXは再び跳び、ZXキックの体勢を。
空中で右の握り拳をこれでもかと握り締め、覚悟は必勝の拳、因果の構えを取り、尋常ではない速度で突き進む。
しかし大首領の身体はみるみる内に薄くなり、やがて――完全に消え去った。

「その刻が来るのを待っているぞ。
わが器、ZX……そしてツクヨミの子らよ」


暫しの別れの言葉を残して。
ほどなくして、学校には彼ら五人と粉々になったデルフリンガー、物言わぬ身体となった光成が残された。


【徳川光成@グラップラー刃牙:死亡確認】


◇  ◆  ◇

永遠にどこまでも広がっているような錯覚さえも覚えさせる虚空の空間。
以前、参加者の一人である赤木しげるが“特別”に招待を受けた場所。
その空間こそが大首領の魂を幽閉している虚空の牢獄。
また、大首領と同等の存在であり嘗ての仲間、そして彼に反旗を翻した存在が己の肉体を引き換えに造りし空間でもある。
その存在こそ今もなお、大首領を封印する事に全力を尽くし、碌に現世へ実態を現せられない――人間の始祖、ツクヨミ。
牢獄は一度大首領に完全に破られたが、ZXを始めとした10人に仮面ライダーと引き換えに彼は再び封印されたというわけだ。
そして牢獄に一つの魂が今現世へより帰還した。

「時間切れというわけか……ふっ、なるほどな」

今や住み慣れてしまいすぎた牢獄に大首領が降り立つ。
その表情には嬉しさと物足りなさが同居しているような印象がある。
いや、どちらかといえば嬉しさの方が強いだろう。
何故なら先程、彼は一時的に牢獄の突破に成功したのだから。

「ツクヨミの力が弱まっているのか……それとも我の力が強まっているのどちらか」

言葉を並べている途中で大首領は後者の線が強いと考える
何故なら大首領は以前の彼とは違う。
そう。今までツクヨミの牢獄に為すすべも無く、封印されてきた時とは違う事がある。
それは簡単に言えば時を越える力。
この殺し合いの参加者を集めるために行使した力の有無が過去の大首領と今の大首領の大きな違い。
その力が発現した理由は今ですら大首領自身にもわからない。
再び強いられた幽閉生活に大きな飽きと怒りを覚え、ツクヨミの牢獄を打ち破ろうと何度も破壊を試みていた間に宿った未知の力。
それは一種の“進化”ともいえたのかもしれない。
ずっとツクヨミに封印されていたお陰で、10人ライダーに再封印されるまで彼は完全な敗北を知らなかった。
大首領を何度も邪魔した仮面ライダー達は何度も敗北を喫し、その都度に立ち上がり、“進化”を行っていた。
そう。以前、牢獄でツクヨミによって招かれたZXとの闘いで演じる事が出来なかった“進化”を。
結果論にしか過ぎないが、大首領は敗北の味を知り、初めて“進化”を行う機会を得て、それを達成出来た成果が時間跳躍能力なのかもしれない。
そして大首領の“進化”は更に別の出来事によって感化し、更なる向上を見せ、先程の一時的な脱出が行えたのだろう。
別の出来事、大首領には一つだけ思い当たる節がある。

「もしやアカギか? あやつの存在が……我に影響を与えたというのか」

大首領と対面し、臆する事なく会話し、あまつさえ賭けまで行い勝利を収めたアカギ。
先程の学校での時と同じく破滅のイメージ、“BADANシンドローム”は引き起こそうとはしなかったが、アカギの態度は堂々としていたものだった。
自分を恐れぬその態度、賭けを持ちかける度胸はそれほど珍しくは無い。
事実、最後の決戦時に自分を打ち倒した10人ライダーはその域に達する程、強固な意志を持っていた。
だが、問題はアカギ自身、何も力は持っていない事。
魂なき再生怪人一体すらも倒せそうにない身でありながら、あのような行動を行える存在。
あの時、交わした言葉はどれも興味深く、特に飢えているのだろうという発言は大首領を滾らせた。
そしてその滾り始めた大首領の感情は一刻も早い現世への復活の欲求に繋がり、一時的に成功したのだろう。
時間差があった事は未だその進化が不完全であり、ツクヨミの力は伊達ではないコトが予想される。
「クッククク……面白い、わざわざ手間を掛けてこの戯れを行った甲斐がある。
あとはヤツらがいつサザンクロスまで辿り着くかだな……
一人、虫が紛れ込んだようだがどうせ、死ぬしかあるまい。まあ、切り抜けるのであれば興味はあるが」

そう言って、大首領は笑い始める。
一人、既にサザンクロスに乗り込んでいる者も居るようだが特には気にならない。
サザンクロスに単身で乗り込むなど自殺行為に等しく、余程酔狂な者と見える。
向こうの方から辿り着くまで特に何もする必要も無いだろう。
そして最早、大首領には彼らに殺し合いをやってもらうつもりはない。
既に参加者の半分以上は死に絶え、彼らの結束は固く、仲たがいはほぼないと言っていい。
ならば、さっさとサザンクロスへ乗り込み、その脆弱な肉体に乗せた命を極限まで燃やし、闘う事を大首領は期待していた。
その方が大首領にとっても眺めている分には有意義なもので、退屈も凌げるものだからだ。
勿論、これはガモン大佐を始め、BADAN側の人間は誰一人も知らない。
しかし、BADANとは大首領の一部、彼の意のままに動く組織であり、彼がそう決定したのであれば従わざるをえないだろう。
既に殺し合いには興味は無く、そのため死者の名前を呼び上げるための役目を持つ人間など要らない。
伊藤博士のようにある分野に特化した頭脳、類まれな肉体を持っていれば話は別だが、生憎、件の人物にはなにもない。
そのため、大首領はその人物――光成を始末、いや有効に利用するために学校へ出向いた。
其処は現時点で参加者の数が一番多く、自分に対する憎しみを募らせ、サザンクロスへの突入を煽るのにも持ってこいといえるだろう。

「そして葉隠覚悟、強化外骨格『零』……どちらも我の障害にはなりそうにないな。
余もそう思わんか?」

ふと、大首領が口を開く。
大首領を降ろす器となる強化外骨格『凄』の開発のために、BADANは強化外骨格のデータをとり、彼もまた零と着装者、覚悟については知っている。
虫にしては強いほうではあるが、自分と較べたら所詮天と地の差。
そのような感想を洩らし、大首領は視線を動かす。
視線の先には方膝をついて、大首領に忠誠の意のようなものを示している人物が一人。
そしてその人物こそ先程、内蔵を吐き、死に絶えた光成に手を下した、首輪をつけた軍服の男。
覚悟と散が操る零式防衛術、彼らが纏う強化外骨格、そして散が新たに製造し、覚悟の先に立ちはだかったであろう戦術鬼。
それら全ての基礎を創設し、夥しい数の人間を殺戮した男が口を動かし――。

「はっ、仰せのままに……」

齢百十九歳の老軍人であり、覚悟の大祖父上でもある、葉隠四郎が答えた。
酷く禍々しい両の瞳――零が称するならまさに“邪眼”というのに相応しい瞳には、苦渋の色などなかった。

◇  ◆  ◇

「フハハ……やはり、私は運が良い」

牢獄から現世へ舞い戻された男、葉隠四郎は己の幸運さを噛み締めた。
百十九の歳でありながら、その身はまるで五十台か六十台程のものでもあり、零式防衛術すらも操る。
覚悟の居た世界で日本軍を率い、第二次大戦と呼ばれる戦争で虐殺行為を行い、アジア最凶の悪鬼と表された戦争犯罪者でもある。
そんな四郎がこの場に居る理由。
それは血涙島で瞬殺無音部隊と共に覚悟と散による真の零式防衛術継承者決定の闘いを待っていた時、大首領の接触を受けたからだ。
流石に、いきなり『史上最強の強化外骨格製造のために協力しろ』と言われた時は面食らった。
何故なら自分とは別の世界から来て、大首領――JUDOと名乗った男の世界では自分の存在すらないらしい。
所謂SFといったやつなのだろうかと思ったが、四郎には俄かに信じられなかったのも事実。
しかし、半ば強引に連れて来られた後、四郎は思わず感嘆した。
自分の目の前に広がるBADANの充分すぎる施設、そしてこちらも充分すぎるほどの人体サンプル。
助手の能力もこれまた優秀であり、全てがあの時と段違いであった。
そう。大日本帝国による世界制服のために、米軍を殲滅するべく強化外骨格製造に一心を捧げていた時とは全く。

「霞をも越える『凄』。
私の世界だけでは為せはしなかった強化外骨格の完成、なんと心躍るコトか」

時間は少し不足気味だったが、四郎は大首領の命により『凄』の製造に尽力した。
外殻に惜しげもなく多大なサンプルを使用し、人智を超えた存在、大首領が憑依すれば史上最強の名に相応しい代物となるだろう。
あとは大首領を降ろすだけで『凄』は完成の状態に仕上がり、四郎はまるで我が子のように喜んだ。
また一応、裏切りを防ぐために大首領からは首輪を巻き付けられたが、四郎は別にそんな事を気にする事はなかった。
理由は四郎には大首領に反抗する気はさらさらなく、逆に歓んで開発に勤しんだ。
何故なら、大首領から協力を要請された時、駄目元で言ってみた『凄』完成の暁の報酬の約束を覚えていたから。

「そして……『凄』が完成し、大首領が復活した時。その時こそが……我らの真の勝利の瞬間でもある!
今度こそ負けはせん……圧倒的な勝利で収め……神国を建国し、零式を天に知らしめるなり!
その時が来るまでこの葉隠四郎、死ねる身にあらず……!」

その内容は大首領の時を越える力で、四郎の世界の過去に戻る事。
そう。自分が率いる大日本帝国軍が、米軍に負けを喫した歴史を改変する事を目的とした時間跳躍。
大首領にとって数多くある世界の内、別に四郎の世界に固執する必要も無かったため、どうでも良かっただろう。
大首領は了承の意を示し、その約束が四郎の情熱を更に大きなものにさせた。
勿論、大首領が本当に約束を守るかはわからない。
しかし、この話し以外に四郎の欲求――米軍への勝利を達成する手段などない。
そのために四郎は力を注ぎ続けた。
あの時は零式防衛術も、強化外骨格も、戦術鬼も充分なものではなかったが、今は違う。
既にその三つは覚悟や散によって完成されており、更にBADANの技術力が加われば最早米軍に劣るわけがない。

零れ落としてしまった勝利の栄光を、今度こそこの手に掴む。
揺ぎ無い、真っ黒な意思を膨張させながら四郎は大首領に協力し、先程も光成に螺旋を喰らわせ、時間差で彼を死に至る状態にさせた。
螺旋の創始者である四郎にとってそのくらい造作でもない。
与えられた自室に歩を進め、ベッドに横になる。
また、あくまでも『凄』完成のために呼ばれたため、必要以上の情報は与えられていないので、パピヨンがサザンクロスに侵入した事は、彼は知らない。
そのため、特にする事もないため、四郎は休憩を取ろうとする。

「しかし、散が死に、覚悟が生き残るとはつくづく奇妙なものよ。
覚悟はどうやら女子と何かがあったようだが……まあ、よい。
覚悟がいかの程、零式を極めたか。それもまた何れこの手で見極めばなければな」

時折、監視カメラで殺し合いの様子を、覚悟と散の様子を観察していた四郎。
当然、先程の覚悟の闘いもサザンクロス内で見物しており、零式が通用しない場面は四郎にとってもあまり良いものではなかった。
しかし、相手は時を越えるだけでなく、異世界に介入するほどの力を持つ大首領。
相手が悪いにも程があり、覚悟があっさりと負けを喫したのはいたしかたないと結論付ける。
また、幾ら四郎といえども覚悟の全てを把握しているわけではない。
主に観察していたのは彼らの闘いであって、それ以外の時を逐一見ていたわけではないからだ。
そのため、覚悟の抱えた悩みなど知る由も無く、彼の傍には良く同じ年頃の女性が居たくらいしか認識が無かった。
そして何れ、覚悟との再会を期待しながら一眠りをしようと四郎は両目を瞑ろうとする――

(そういえば……『凄』は今どうなっているだろうか?)

ふと、神社に保管されている『凄』の様子が気になった。
いや、BADANの技術者が言うには参加者の首輪が外れ、全力の一撃叩き込んでも壊れないだろうという事。
素晴らしい技術力を誇るBADANの人間がいうのだから、信憑性はかなり高いだろう。
そう。自分が心配する事はない。
『凄』が神社に隠されている事など参加者は知る筈もないのだから。
だが、それでも何故かほんの少しだけ何かが引っかかった。
その小さな違和感が頭から離れない。
このまま一時、休憩するために寝てしまおうという思い。
そして、自分の部屋に置かれた子機を操作し、神社内に隠された監視カメラで『凄』の状態をチェックしようという思い。
ほぼ、同程度の強さを誇る考えが四郎の思考を揺らしていた。
そしてそれは丁度、赤木しげると服部平次が互いに対峙し、ジョセフ・ジョースターが字彼らの元へ向かっている時と同じ。

そう。禍々しい不気味さを誇る『凄』の目の前で。




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