甘さを捨てろ ◆8CP5okaGrU



森閑とした工場が立ち並ぶある一角。
そこに少年と老人がお互いの視線を対峙させていた。
少年は背を向けた形、老人は少年を直視する形で。
沈黙が二人の間を支配していた。

――時は遡る.

月光をライトにした静寂の広がる工場でその場にふさわしくない音が周囲を蝕む。ガサゴトとパックを漁る音。
武藤カズキは焦っていた。それもそのはず、自分の知り合いが陰惨な殺し合いに参加し、刻々と命の危険に晒されている。
自分の仲間たちはちょっとやそっとでは殺されないだろう。
しかし、カズキの性格上心配で仕方なかった。一刻も早く助け出しにいかなければならない。
焦りのためか、なかなかパックの中身が取り出せないでいた。

四苦八苦しながらも何とかランタンを見つけ、
気を落ち着かせるため水の入ったペットボトルに手をつける。
グビグビと水分が体に浸透すると共に、少しだが落ち着いていく。
カズキは中身の物を確認するかのように1つずつ地面に並べた。
パックの中身がおおむね把握できた。
その中でも、特に目付いたのは紙に包まれていた三種類の手榴弾である。

質感、重量、造形は同じである。ただ、色が違っていた。
赤、青、黄。それらはランタンの光にどす黒く色づいている。

これだけでは詳細がわからない。
パックに説明書がないかと、空っぽになったと思われるパックの底を持ち上げ、中身をぶちまける。
カサっと軽い質音が鳴る。グシャグシャに包まった紙が地に転がっていく。
たぶん漁ってるうちに丸まったんだろう。それを拾い、引き伸ばす。
手榴弾のことが事細かに書かれている説明書であった。
音響、催涙、黄燐。それらがそれぞれの名前である。

自分にとって喜ばしいことなのだろうかとカズキは哀しい笑みを浮かべる。
これらのアイテムが出てきたことによって、自分が殺し合いの前線に立っているのだと再認識させられたからである。
でも、それなりに自分を優位にたたせるものが出てきて、それに嬉しがる自分。
その矛盾した気持ちに哀しくなった。でも、哀しんでいられない。

説明書を読むかぎり、これらの手榴弾は少々扱いづらい物ばかりである。
確かに自分を優位にたたせるアイテムである。
しかし、咄嗟の状況では自分にも被害が及ぶ諸刃の剣である。
音響は突然の騒音で相手の聴覚を奪い、相手をショック状態にさせる。
催涙は相手の鼻腔や眼球などに付着することで咳き込ませたり、涙を流させる。
そして、最後に最も危険である黄燐――これは焼夷弾の一種で、
爆発と同時に周囲を炎上させ、それと同時に催涙とほぼ同じ効果がある猛毒の白煙を上げる。
しかも、黄燐は一度発火し、人体に付着すれば。
ちょっとした突風が吹こうが、地面に転がろうが、なかなか消火しにくいもので、凶悪なものである。
催涙も音響も黄燐もある程度距離とって使用しなければならない。
このサバイバルゲームの中では突然の敵襲、奇襲、夜襲が当たり前。だから、扱い辛いのである。

手榴弾の種類はわかった。そして、最後に最も肝心であるどの色にどの性能があてはまるのか。
カズキの眼が判別の項目に差し掛かったとき。

気配を感じた……それも後ろからである。
言い知れぬものを感じて、汗がドット湧き出る。
座り込んで無防備な自分の背中に何かがいる。心の中が緊張で一杯になっていく。
後ろを振り向きたくない。振り向けば殺されるかもしれない。
だけど、そういうわけにもいかない。カズキは恐る恐る後ろを振り向く。
そこには、得体の知れないサングラスをかけた老人がいた。
ランタンの光が逆光となり、老人の表情が不気味に映らせる。
それが、さらにカズキの不安感を煽った。

――そして時は戻る。

お互いに見詰め合ったまま暗黙のような沈黙が続いている。
カズキはどうにかこの不利な状況から脱却できないか思考をめぐらす。
謎の老人はなぜか人形のように黙り込んでいるが、攻撃を仕掛けて来るかもしれない。
武装連金を発動させるか、いや、発動させるには声を出さなければならない。怪しまれてしまう。
手榴弾を使うか、いや、まだ種類を判別していない状態では自分も巻き込まれかねない。
それ以前に少しでも不振な動きをすれば、殺られる。
カズキは活路を見出そうとするが、この不利な状況の前では、どうしようもなかった。

―――刹那

今まで、動きを見せなかった老人が行動を起こす。
カズキもそれに続き、戦闘の態勢にはいる。圧倒的に不利である。覚悟を決める。
「武そ…」

「うちゅーぢんだよ~~~、ぴきゃぺきょり~ん」
そこには、まぬけな顔をした老人がいた。
顔がゴムのように伸びきって、歯グキが猿の威嚇ようにむき出しになっている。
普段のカズキなら、笑い転げるだろうが。
呆気。カズキは突然の老人の奇行に戸惑いを覚えた。
「えっ、あっ……」
また、静寂が広がる。カズキはどう反応すればわからなかった。

「…………ちぇー、冗談も分からない奴かよ……僕はフェイスレスだ」
突然の自己紹介。困惑しながらもカズキも返す。
「あ、オレは武藤カズキ。青汁が似合う16歳」
「そうか、さっそくで悪いけど、カズキクン。君はここがどこで、主催者が何者か知っているかね。
 もし知っているなら、カズキ君が知っていること全て教えてくれないか」

カズキは不信を感じながらも、断る理由がないので武装錬金を除く、自分の知っていることを全て話した。
ここに来た経緯。自分の仲間。今感じている思い。後悔と憤り。
「そうかカズキ君は僕と同じで何も知らないままここに来たのか。彼女は君の知り合いだったのか。
 それは気の毒なこと思い出せて申し訳ない」
そう、最初に見せしめに殺されたメイド服の女の子。
無慈悲にも殺された。あの時、何も出来なかった自分。
カズキは怒りに溢れた。その憤りを木に叩きつける。
そんなことしても意味がないのはわかっていた。でも、そうしないと収まりがつかなかった。

「いえ、違います。けど、オレは…オレは…」
守れなかった。何も出来なかった。
突如のことで仕方がないかもしれない。でも、カズキはまるで自分のことのように悔やんだ。

影を落とすカズキを尻目にフェイスレスは嘲笑のような笑みをうっすら浮かべる。サングラスが黒く光る。
「突然で悪いけど、カズキクン。僕には絶対に叶えたい『夢』があるんだ。だからさ……」
カズキは突然の意味不明な台詞にハテナマークを傾げる。
が、その後の言葉に呆然とさせられる。
「死んでくれないか」

『死んでくれないか』という言葉。カズキは驚愕した。
さっきまで、普通に話していたのに、このいきなりの変容。疑問が沸き起こる。
後ろにステップを踏み、警戒態勢に入る。
「何の冗談だよ……フェイスレスさん……」
疑問をぶつける。ただの冗談じゃないかと思いたかった。
でも、無常にも、フェイスレスは楽しそうに応える。
「どういうことも、そのまんまの意味だよん。君には死んでもらうよ。まあ、抵抗するだろうから、
 そこの手榴弾を拾わせる時間をあげるよ。僕には一切通用しないけど」
「どうしても…オレを殺すつもりなのか……」

返事は……なかった。高笑いのみだった。
そんな殺し合いに乗るなんて、カズキに半ば諦めに似た感情が生まれる。そして、胸に手を当て叫ぶ。
「武 装 錬 金!!」

カズキの両手に小柄のランスがなじむ。自分の相棒ともいえるサンライトハート。
かけ声と共に機械仕掛けの槍が現れたことにフェイスレスは驚嘆した。
「すっげ…」
純粋に驚いたから出た言葉であった。長い間生きている自分の理解を超えた未知の産物。
フェイスレスは始めてみるそれが嬉しかった。
「驚いたよ,カズキ君。この世には僕の知らないようなことがあるんだなんて。
 だが、現在の錬金術=科学の練達者であるフェイスレスには『分解』するには朝飯前さ」
フェイスレスは手に内蔵している工具を出し、カズキに踏み出す。
そして、槍目掛け、一瞬で『分解』するはずだった。だが……。

――ガキィィッ
と、音と共に『分解』をしのぐ。槍の刃先で受け止めたのだ。
「へぇ」
なかなかやるなと感心しながら、フェイスレスは第二打をはなつ。
それも、受け止められる。第三打。第四打。カズキは全て受け止める。

二人は一旦バックステップをとり、間合いを取る。互いの視線が対峙する。
初めて出会ったときの状態ではなく、向き合った形である。
「コレは斗貴子さんがくれた。オレの新しい命……皆を守るための命だ!
 オマエになんか『分解』させはしない!!」
フェイスレスは本気を出していないとはいえ、半機械化した自分の攻撃を防いだカズキに興味がそそられた。槍のことを含め。

それに――――似ている。
腹の底から笑いがこみ上げて来る。
フェイスレスは手をたたき、喝采を贈る。
「何がおかしい」
「はっはっはっは。おもしろいよ、カズキ君。僕は君に興味が出てきたよ。
 君の持つ槍、そして君自身。君は本当に優しさと思いやりに溢れ、博愛精神の塊だよ。
 まるでマサル君そっくりだ。だからさ、ここで一度戦いはお預けにしようじゃないか」
カズキにとって朗報。しかし、まだ安心はできなかった。
「でも、フェイスレス、お前は人を殺すんだろ……だから、約束しろ人は殺さないって」
「それはできないよ~ん。僕には『夢』があるからね。それに君は僕を殺せない」

フェイスレスはカズキに背を向け歩き出す。
それは、まるで逃げるとはいえず普通に歩を進めている。
カズキはそんな殺人鬼を放置するわけなく槍を構えて呼び止める。
しかし、それでも歩みを止めない。
「そんなにも、僕を止めたいなら、僕を殺すしかない。でも、君は僕を殺すことはできない。
 君は背を向け、戦意をなくした相手に刃を向けるほど強くない」
フェイスレスは言い放つ。カズキの甘い性格を見極めて上での発言であった。
そう、言えば、博愛精神に溢れた彼は攻撃できない。
効果的にカズキを押しとどめる台詞。
カズキは歩みを止める。まさにその通りであった。背を向けた相手を攻撃できない。
たとえそれが殺しに乗った相手だろうと。
カズキが今まで戦ってきた相手は自分に敵意を向けてきた者や人間に牙を向くホムンクルス達であった。
お互いに正面からぶつかる正々堂々とした戦いが多かった。
化け物であろうが人間であろうが正面からぶつかる。
ある種カズキの信念のようなものである。
だからこそ、出来なかった。止めたいのに、止められない。
矛盾。

フェイスレスは忘れていた、と大きな身振りで指を立てる。
「ああ、そうそう、カズキ君。もし、才賀勝と言う少年にあったら、伝えておいてくれないか。
 『僕たちのゲームは一時休戦だ、協力し合おうじゃないか』と」
矛盾に苦悩するカズキを片隅に話を続ける。
「それと、マサル君とエレオノールという銀髪の女性に会ったら守ってくれないか。
 特にマサル君は君に劣らず博愛精神の持ち主でね。結構無茶をするから心配なんだよ。
 死なれたら困るからね。それに、君と気が合うと思うからきっといい友達になるよ。
 では、頼んだよ、生きていたらまた会おう、カズキ君」
そして、フェイスレスは工場の奥へと暗闇に溶け込むように消えていった。約束の言霊を残して。

笑い声が幾つもの並んだ工場に木霊する。木霊が散れると同時に静寂が広がる。
フェイスレスがいたアスファルトには、もう何もなかった。
そこには、ただランタンに照らされたカズキの影法師が静かに揺らめいていた。


【B-2 工場団地の南部/1日目/深夜】



【武藤カズキ@武装錬金】
{状態}健康 
{装備}音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾@現実
(道具)支給品一式 水分4/5
{思考}
基本:弱い人達を守る
1: フェイスレスを止めることが出来たのに…
2: 仲間を探しに行きたい
3: フェイスレスの約束を守る
4: 勝君とエレオノールやらに会ってみたい
※本編終了後、武装錬金ピリオド辺りから登場。



【B-3 北東 /1日目/深夜】



【白金(フェイスレス)@からくりのサーカス】
{状態}愉快
{装備}???
{道具}支給品一式 ???
{思考}
基本:『夢』を叶えるために首輪を『分解』する
1:利用できる奴は利用する(勝やエレオノールを守らせるなど)
2:参加者から情報を得る
3:首輪を集め、分解する(実験用を含め、少なくとも5つは欲しい)
4:利用できない弱者は殺す(首輪を集めるため)
5:極力強い人間との戦闘は避ける
※フェイスレスの参入時期は勝と二年間のゲームを開始したあたりです。


009:銀の道化師と痕面 投下順 008:吸血鬼
009:銀の道化師と痕面 時系列順 008:吸血鬼
初登場 武藤カズキ 037:信じるこの道を進むだけさ
初登場 白金 036:The Great Deceiver (邦題:偉大な詐欺師)