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PARTⅡ
二〇〇一年 四月十六日 PM2:35[-Tokyo- Kamisaka's home]

 公史が父親の死により直面した問題は、冷徹な現実という名を冠していた。

 特に金銭面の問題は大きく、彼の頭を悩ませる。

 公史は早期に母を亡くし、神坂家の収入を支えるのは父親のみとなっていた。そこへ父親の死である。

 神坂家の収入はゼロとなり、達彦の援助はあれど公史の相続した財産も、すぐに底をつくことは目に見えていた。

 取り敢えず高校二年の唯を卒業させなければならない。出来れば大学にも行かせたいが、そこまで金が続くかは疑問である。

 金を稼ぐ為には、自分の大学を辞めなくてはならないが、どうせ単位が足りなくて留年寸前だったので気にしなかった。

 結局彼が行き着いた先は、「まあ、何とかなるさ」という極めて楽観的な結論だった。

「っていうことで、俺、大学辞めるわ」

 大学の友達に話す口調も明るかったので、多くの人は冗談ととったが、本当に退学届を出したと判ると、途端に騒ぎ始めた。

「本気で辞める気かよ」

「せっかく苦労して二年になれるはずだったのに。勿体ない」

「辞める前に金返せ」

「頑張れよ」

「やめる前に唯ちゃんをくれ」

 このような数多くの良き友人達の言葉を背に
――最後の奴には渾身の鉄拳をプレゼントまでして――
公史は大学を中退し、職を探し始めた。

 彼が中退したことに唯は心を痛めたが、そんな彼女に公史は明るい顔を見せた。

「気にするな、何とかなるさ」

「でも……」

 唯は、悲痛な表情を隠しもせずに兄に訴えた。

「私も働く、だってお兄ちゃんだけ辛い思いをさせる訳にはいかないもの」

「冗談言うな。誰が辛い思いをしているって? 俺は辞めたくて辞めたんだ、留年は格好悪いからな」

 嘘は付いていない。確かに大学は、公史にとって遊びの延長線上に在るだけで、学問を続けるという気は毛頭なかった。

 しかしこの不況の中、すぐに就職先が見つかるはずがないことは彼にも判っていた。それだけはどうにも成らない。

 大学を辞めてから公史は、就職情報誌を片手に歩き回っていたが、予想以上の就職難に絶望し掛けていた。

 いくら就職難と言っても、会社を二、三件回ればどこかで引っかかるだろうと思っていたが、それは甘い考えでしかなかったらしい。

「冗談きついぜ」

 心地よく暖かい風の吹く真昼の公園のベンチに座りながら、公史はため息混じりにつぶやいた。

 あれから数日間が虚しく過ぎさり、手にした情報誌もボロボロになりつつある。

 しかし未だ職は決まっていない。取りあえず幾つか面接を終えていたものの、面接官のあの表情では安心する事は難しかった。

「お父さん死んじゃったの、へえ、大変だねえ」

 大学を辞めて就職しようとした理由を話したとき、大抵の面接官はそう言った。

 しかしその言葉には感情の欠片もなく、 社交辞令以外の何ものでもなかった。

 その後に続く言葉は容易に予想できる。

『でも、この成績じゃねぇ』

 あの時の面接官の顔を思い出して、公史は胸のむかつきを覚えた。

「糞っ」

 公史はベンチの肘掛けに拳を振り下ろした。拳全体に痛みが広がり、その痛みが薄れるにつれて、心にわだかまる怒気も薄れていったが、
しかしそれと同時に悔しさがこみ上げてきた。

「まだまだ、諦めてたまるか」

 その時、公史の脳裏に唯の笑顔がよぎった。