とある剣客達の“春”

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―――“僕”の名前は紫炎、長谷部紫炎(はせべしえん)。 学校で名前を書くのにくろうするからこの名前はあんまり好きじゃない。 今年で13才になるお姉ちゃんがいて、三つ年が違うから僕は10才。 お姉ちゃんは僕より背もおっきくて足も速い、それに男の子よりけんかが強い。 僕達にはお母さんとお父さんがいて二人とも多分仲がいい。 けんかしてるのは見たことが無いし、いつもお母さんは笑っているから。 僕とお姉ちゃんはかみの毛と目の色が外国の人みたいな色をしてる。 まわりのみんなは黒かったり茶色かったりするけど僕達は金色なんだ。 お父さんはかみも目も黒いからお母さんに似たんだと思う。 でもお姉ちゃんはお母さんみたいに優しくないしすぐなぐるからきっと性格は似てないんだ。 剣道も僕より強いし、きっとそっちはお父さんゆずり。 僕はあんまり強くないからいつもお父さんに怒られてる。 きっと「才のう」が無いんだと思うんだけどお父さんは「長男」だからって剣道をやらせる。 お父さんと練習すると体中がすごく痛くなるしこの間は一か月くらいむねの辺りが痛かった。 お姉ちゃんはそんなこと無いみたいだけど、僕はお父さんが嫌いだ。 でもぎゃくにお母さんは好き。いつもやさしいしお料理が上手だから。 僕は剣道をやっているときよりお母さんの手伝いをしているときのほうがとっても楽しい。 学校のみんなに言ったら「変だ」って言われたけど、そうなのかな? 僕は運動が苦手だからお料理やおさいほうをするのが好きなんだけど・・・。 ―――― ―――“俺”の名前はシェン、シェン・ロンド。 名前は母方のものだが今思えば親戚ってのに会った事が無い。 ついこの間三月二十四日に二十六歳になったばかりで、三つ年上の姉がいる。 馬鹿でチビで世間知らずなやつだが、俺より強い。 ちなみに姉貴の誕生日は真夏の八月一日だ、ひまわりは好きじゃないらしい。 俺達には両親がいない。孤児じゃなくて既に死んでいるってだけだが・・・。 母上は確か俺が15のときに亡くなったんだ、理由は未だに知らない。 思えばあの年に何かあったはずなんだが何年経っても思い出せない。 姉貴に聞いても流されるし、気にはなるが知るのは諦めようかと思ってる。 クソったれな親父殿は何年か前に死んだが、生憎死因も葬式の日も忘れたな。 俺達姉弟は髪と瞳が金色だ。顔立ちも何処と無く似てる。 これは多分だが、外見については二人とも母上の影響が強く出ている。 まあむしろあのクズみたいな見た目だったら自殺も視野に入れるよ俺は。 今思えば長男に家督を継がせるために鍛えたんだろうが逆効果だ。 どこの家庭に無意識の虐待を強要する父親がいるんだ?ふざけるな。 いつか殺してやろうと思っていたが・・・先を越された。 もし俺が死んで「向こう」に行ったら今度こそやってやるつもりだ。 ・・・しかし、母上の最後に関する一年の記憶が無いのはなんなんだ? 母上の最後の時は確かに覚えてる、あの時は憎々しいほど空が晴れていた。“三月二十四日”だ。 俺への遺言はこう、「女の人には優しくしなさい」「お姉ちゃんを大事にして」「元気でね、紫炎」。 そうだ、確かに覚えているのに“どうして死んだのかが分からない”。 この奇妙な感覚はなんだ?思えば一年で姉貴と身長が逆転した気もするが―――。 ―――― 「・・・・それで、人の記憶を勝手に覗いて何が楽しいんだ?」 「楽しくなどはない。ただ見ているだけだが問題があるか?」 「ありまくるね、そもそもここは何処だ、お前は誰だ?」 「ここは言うならば“魂の場”。我が名は“孤我”、一振りの刀だ。」 確か俺はあの『口女』と戦ったはずだ、髪を触られたところまでは覚えてる。 その後も不確かだが「アイツ」から貰ったグレネードランチャーを使った気もする。 煙幕を炊いたってことは逃げたのか、となれば俺の負けなわけで。 結構な怪我をしていたような気もするが・・・・・? 「ああ地獄に連れて行かれるのか、心残りが結構あるんだが。」 「お望みなら送っても良いが他の者に私を渡してからだな。」 正直意味が分からなかったんで孤我とやらに話を聞いてみたところだと、現状はこうだ。 一つ、俺は負けて下水道にいた。大怪我のオマケつきで。 二つ、やつは妖刀らしく“偶然”下水を流れ俺のところで止まった。 三つ、本来なら身体を乗っ取るが死にかけで自分じゃ動けなかった。 聞いてみると結構アホな話しだが死にかけっていうのは結構重い。 果たしてない約束はいくつもあるし機関の仕事もある。 大会に出て優勝しなくちゃいけないし、母上ともう一度会って「シェン」と呼ばれたい。 向こうに行ったら会えるとかブラックなジョークが思いつかない程度に気持ちが沈んだ。 「今、お前が下水道に転がっているのか病院のベッドにいるのかは分からん。」 「・・・わざわざ絶望感を増やしてくれてありがとうと言っておこうか?」 「――だが、こうして魂はあるのだから生きてはいるのだろうな。」 どうやらこの古風な感じの妖刀君は俺に相手をしてほしいらしい。 実はホッとしたんだがおちょくられるのは好きじゃないんだ、俺は。 「それじゃあ生きてるとしてだ、身体が動かないのに支配できるのか?」 「できぬからここに居る。というよりお主人間か?」 「・・・そりゃあ人間の子供だから人間だろ、母上は天使のように優しい人だったが。」 「天使?それがなにかは知らんが短い我が刀生の中で乗っ取れなかったのは始めてでな。」 「ああそうかい、世間を見て回れば乗っ取れないやつはいくらでも居るだろうよ。」 疲れる。らちがあかない。らちってどう書くんだったかな、まったく―――。 ―――― 「この人がこうやって担ぎこまれるの二回目ですよね?」 「一回目は左手が無い状態で衰弱した女の子を連れていたな、確か。」 「今回は両膝の骨が露出した状態でスーツ着て刀握ってたそうですよ?」 「まあ仕方あるまい・・・場所が場所だ、自衛だったんだろう」 「・・・とんでもない額の金銭取引証明書と刀を同時に所持ですか?」 「どんな患者が来ようが詮索せずに治すのが私たちの仕事だろう、さあ―――」 夜更けだった、人がお風呂に入って牛乳を飲んで寝ようかと思っていた時だ。 一本の電話だった。病院からだった。案の定弟のことだった。 私は免許を持っていない。バイクも車も当然船や飛行機のものもだ。 なので私は走って病院に向かった。途中で一度転んでしまったが気にはならなかった。 彼が大怪我をして帰ってくることはたまにあったが「今夜が山」と言われたのは人生で二度目だ。 一度目は母の時だったか。あの時は確か―――――――――――。 「ッ・・・あの、私の弟は・・・・?」 「弟・・・?娘さんじゃ――――」 この時、医師は心底思い違いをしていた。 目の前に居るくまの柄が入ったパジャマを着ている小さな女性を。 見た感じ顔も押さなく身長も小さい。服も少々子供らしく一見すれば確かに子供だ。 医師は格闘家ではない。死線をくぐるよりはくぐらせてやる役割だ。 そんな彼でもこの少女のような外見の女性に何かを感じた。 彼女の瞳に輝く金色の“なにか”を、とても力強く。 たったそれだけで言葉は無かったが冗談を言う気にはならなかった。 「両膝、及び右手の肉が大部分削げ落ちています。血液もかなり流失している。」 「・・・・それで、助かるのか?」 「正直に申し上げてかなり危険です、何分出血がひどいもので。」 「私の血を使ってくれ。いくらでもいい、シェンが助かるまで。」 彼女の決断は速かった。それこそこの道二十数年の医師からしても相当に。 患者は195cmはある巨躯であるがそれに対し女性は140cm弱しかない。 それだけでなく、男女による体格の違いなどもある。血は足りない。 だがこれはおそらく、二度聞くのは失礼であろうと彼は思った――――。       ――――――――――――――――――――― 「いいんですか、あんなことして。ばれたらクビですよー?」 「ああでもしないと違う意味でクビが飛びそうだったんでね、つい。」 「はぁ・・・羨ましいですね、自分もあんな姉が欲しいですよ。」 「小さくて童顔でクマ柄のパジャマを着た三十歳近い姉がかね?」 「そんな自分がロリコンみたいな言い方しないでくださいよ、先生。」 「冗談だよ、家族思いで自分を犠牲にするような姉だろう?私もああ在りたいものだが。」 「・・・・?家族思いって言うより弟さん思いなんじゃ?」 「彼女ね、「たった一人の家族なんだ」って言ってたんだよ。」 ―――時は三月下旬、時刻は丑三つ時、個室のベッドには二人の“家族”。 まだ桜が咲くには少しばかり早いが、萌芽の時節。 ほんの数時間もすれば憎々しいほどに陽気な「春」が顔を出す――。

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