――エルヴァレッタ・ウェリルドーシェ
長いドレッド・ヘアをオールバックにして、前髪を数本だけ垂らした眼光鋭い大柄の男。
肩部からはの猛獣の牙のようなものが突き出た攻撃的な革のノースリーブ・ジャケットを纏い、
大きく開かれた胸部に下がる獣爪の3連ペンダント、そして露出した腕は屈強。
獰猛な野獣の如きスタイルで、両拳にはガントレット・ナックルが装備されている。
≪R.I.P.≫の突撃部隊、≪四刃(フィーア・シュヴェアート)≫の一人。
かなり豪快にして快活な性格。よくわからない方言のような言葉を喋る。
彼は紛れも無い悪人でありながらも、非常にさっぱりした人間である。
闘いを純粋に、愉悦ではなく童子のように楽しんでおり、卑怯な手も一切使わない。
真っ向から己の拳で戦う。これがエルヴァレッタのバトルスタイルである。
そんな彼が何故≪R.I.P.≫に手を貸すのかは不明だが、『恩義は返す』と言っていた。
また「闘争に善悪という概念は無く、あるのは信念だけ」という思想を抱いており、
それゆえに一般的に『悪』とされる『櫻が夜行』にも組し、闘争を求めたことがある。
武器は両拳のガントレット・ナックル。
その打撃は鋭く重く≪牙弾≫と評され、加えて文字通り獣じみた動体視力と反射神経を持つ。
それらを武器に、攻撃のリーチが短いという不利など気にもならないくらい猛然と攻め立てる。
防御行動を取ることは殆ど無く、敵の攻撃に対しては攻撃で対処する。
ゆえに牽制などは彼に取ってほとんど意味を成さず、注意が必要である。
≪四刃≫の切り込み隊長と呼んでも遜色無い、完全なアタッカー・スタイルだ。
どうやら、カノッサ機関に対して個人的な怨みがあるようだが……?
――≪SSSEXP ~スライドストーム・ストライクエクスプレス≫
エルヴァレッタの持つ能力。発動と同時に彼の両肩と拳に黒い装甲が出現。
更に装甲の両肩部からは大きな厳つい角が突き出しており、彼の姿をより攻撃的に見せる。
装着型アートマンのようでそうではない。具現化系に似た、不思議な形態である。
不明瞭な点は多いが、
ツインジョーカーと対戦した際は右手の「角」と『拳』に黒いエネルギーを『チャージ』し、
そこから脅威的な破壊力を誇る必殺パンチ≪ステラ・ストライク≫を放った。
恐らく単純な装甲による強化とこのチャージ・ナックルが能力なのであろう。
一直線なエルヴァレッタに良く似合う、飾らないとても真っ直ぐな能力である。
更にどうやらこの『チャージ』には『段階』があるらしく、
VS
ミストドラゴン戦、病院テロにおける
アストラ&ダハル、
天ヶ谷 双葉戦においてはその『マックスチャージ』を披露。
ステラ・ストライクを遥かに凌ぐ圧倒的ナックル、≪ステラスレイヤー・ストレイトストライク(S.S.S.S.)≫を放った。
脅威的な威力と速度を誇るが、どうやら一度放てば一週間は腕が使い物にならなくなるらしく。
所謂「諸刃の一撃」のようだ。
――終焉
光の国、物資運搬列車奪還作戦――
≪四刃≫の全戦力を投入して行われたこの戦い。
エルヴァレッタ・ウェリルドーシェは、これを阻止に現れた
ドラと、
冬月 士の能力によって創造されたセオドアと対峙。
暴走炎上する列車上で、『善と悪』という概念を超越した、『信念の決闘』を展開する。
戦いを重ねるうち、炎に巻き込まれてエルヴァレッタの衣服が焼け消えてしまう。
すると胸元に露になったのは、気高き狼の入れ墨。
そして、突如エルヴァレッタが使い始めた、洗練された「ボクシング」のバトルスタイル――
狼の入れ墨の、プロボクサー。
そのキーワードに、ドラはピンと来た。ボクシングファンであった
ジャンクちゃんに、通信機を用いてこのコトを伝える。
すると、エルヴァレッタの正体が明らかになった。
彼の本名はアルバレスト・ウェルダス。
かつてその拳でチャンピオンという頂点に立った、伝説のプロボクサーであった。
公式の記録では、チャンピオンベルトを手にしたその翌日、忽然と姿を消していた。
エルヴァレッタは、静かに自らの過去を語り始める。
『護るための拳』を振るい、勝利を手にしてきた自分。
その自分が何故栄光の舞台から姿を消し、今この場に立っているのか――
とある理由から『護るべきもの』を失い、それに絶望し――
どのようにして再び希望を得たのか――今、ここで拳を振るう理由とは何なのか?
彼は言う。再び『護るべきもの』を得ることができたからだ、と。
そしてそこには、正義も悪もない、純粋な『信念』のみが存在しているのだ、と。
彼が再び得た、『護るべきもの』とは……――
……しかし突如、
アクセルヘッドの技術により生命を取り留めていた、四刃の
オルガネラが暴走。
同じく四刃かつ手負いの
ワーズワイスも、仮面を脱いでいたためにワーズと判断できず、
ワーズと戦っていた
黒野 カンナ、オルガネラが戦っていたミルもろとも、これを攻撃しようとする。
ワーズは同じく手負いであったカンナを逃がすため、自身の脱出用転送装置をカンナに使おうとする。
が、その転送装置は一人用のものであり、カンナを逃がすとすると、ワーズが逃げられない。
それを知ったカンナは転送装置の使用を拒否、オルガネラに立ち向かおうとする。
この時スデにカンナに戦う力は残っておらず、戦闘は無謀と言っても決して過言ではないだろう。
絶体絶命の窮地に陥ったワーズとカンナ、絶望に蝕まれるワーズ――
……そこにエルヴァレッタが、自身の転送装置をワーズに投げて寄越す。
既に発動状態で投げ渡されたそれは、キャンセルできない状況にあった。
これでワーズは逃げられるため、ワーズの転送装置をカンナに使用することができる。
だが当然、エルヴァレッタは暴走する列車からの脱出手段を失うことになる……
叫ぶワーズに優しい微笑みを投げかけながら、エルヴァレッタはドラとセオドアに語る。
あの『少女』こそが、今の自分の『護るべきもの』だと。
エルヴァレッタは、ワーズの本質に気付いていた。その弱く儚い、少女の姿に。
だからこそ護ろうとしたのだ。その拳で、ただ純粋に、護ろうと――
……エルヴァレッタの覚悟を感じ取り、その名を呼びながら涙するワーズに「達者でな」という一言を送り、
一緒に居たカンナにワーズのことを頼み、転送装置で消え往くふたりを最後まで見送ると――
エルヴァレッタは再び拳を握り締め、ドラ、セオドアと対峙する。
もう戦う力の残っていないセオドアと他愛ない会話を交わし、「行って来るわ」と告げた後――
――それは最後の、究極の激突。
「信念」と「信念」の純粋な境地。絶対の格闘者の領域であった。
ドラの渾身の一撃がエルヴァレッタを完璧に捉えると、彼は、そのままその場に沈み込んだ。
そして、もう二度と、動く事はなかった。
それは『善と悪』という概念を超越した、『信念の決闘』――
ドラはエルヴァレッタのために涙を流す。その場には、奇妙な『敬意と尊敬』すら生まれていた。
その刹那まで『誇り』を抱き、『後悔』は無く――それが、四刃の狼の最期だった。
――過去:栄光―― ~孤独なる狼牙~
男は決して裕福とはいえない家庭に生まれた。
だがしかし、彼は、そのことを馬鹿にする近所の悪がきには、一度も喧嘩で負けたことがなかった。
男は決して裕福とはいえない家庭に生まれた。
だがしかし、彼は成長と共に大きなたくましい身体を手に入れた。
男は決して裕福とはいえない家庭に生まれた。
だがしかし、持ち前のその腕っ節と巨躯が、とある「ボクシング・ジム」のスカウトの目に留まった。
男は決して裕福とはいえない家庭に生まれた。
だからこそ、そんな状態で自分をここまで育ててくれた家庭に、恩返しがしたかった。
男は、その拳で次々と戦士たちを打ち倒していった。
男の拳には、他の選手にはない、覇気のようなものがあった。
ファンの1人は、それを「鬼気迫る獣のような、畏れすら感じさせる拳」と評した。
男の拳には、≪信念≫が宿っていた。護るものがあった。
それは、自分をここまで育ててくれた、両親。
それは、こんな自分を愛してくれた、たったひとりの大切な人。
そして、その人との間に授かった。もっとも大切な未来への希望であった。
男の拳は、『護るための拳』であった。それが彼の≪信念≫であり、だからこそ、負けなかった。
やがて、男の拳は、ついに『頂点を決する戦い』の場にまで辿り付き――
たった一度の挑戦――男は、その拳で、世界の頂点に立った。
その凄まじい強さと、胸にあった狼の入れ墨。
それを讃えて、人々は彼をこう呼んだ。
『孤独なる狼牙』……『アルバレスト・ウェルダス』と。
だが、圧倒的な力を誇ったボクシング界の新チャンプは、その翌日に忽然と姿を消す。
残されたのは、ただチャンピオンベルトのみ。引退会見も、ファンへのメッセージも何も無かった。
この件に関して、彼の所属ジムは一切の発言を拒んだ。
人々は様々な憶測を交わした。だがしかし、真相はいつまでたっても明らかにならなかった。
だからこそ、人々は彼をこうも呼んだ。
『幻のチャンピオン』……『伝説の男』と。
『アルバレスト・ウェルダス』の名は、伝説という聞こえのよい砂の中に、まったく埋もれてしまった。
――過去:転落―― ~アルバレスト・ウェルダス~
世間には語られなかった事実がある。
それは、何よりも残酷な現実であった。
世間には語られなかった事実がある。
それは、何よりも喜劇で、何よりも悲劇であった。
アルバレスト・ウェルダスが、家族との約束通り、チャンピオンベルトを持ち帰ったその日。
男を迎え入れたのは、『カノッサ機関』のテロによって、完全に焼き払われた自らの『家』であった。
男は嘆いた。嘆き、哀しみ、叫び、泣いた。
男の拳は「護るための拳」であった。そのはずだった。
家族を、妻を、息子を護るために。ボクシングで得た富を、彼は一切娯楽のために使わなかった。
その「護るための拳」の究極形――頂点――へ辿り付いた瞬間、『理由』は消え去ってしまった。
それは、誰の責任でもないのだろう。だが、男にはこう思えてならなかった。
『自分が、テロのあった日に、家族を置いてリングへと向かっていたから――……』と。
護りたいものをいざという時に護れずして、何が護るための拳なのか。
男には、自分の≪信念≫というものが何かわからなくなった。もう、拳を振るうことはできなかった。
だからこそ、男は栄光の舞台から無言で去った。躊躇いなどなかった。もう意味など無い場所に見えた。
男は彷徨った。
一瞬感じた栄光の輝きから、真っ逆さまに転落し、暗黒の闇の中を。
絶望が男の心を覆い尽くし、もう、待っている家族の元に行ってしまおうかとさえ思った。
――現在:信念―― ~エルヴァレッタ・ウェリルドーシェ~
男の拳は、再び『意味』を得た。握り締める『理由』を得た。
その『意味』は、『理由』は、或いは褒められたものではないのかもしれない。
人によっては、真っ黒な、決して美しくなんかない、泥臭いものなのかもしれない。
それどころか、世間は彼の拳を『悪』と評するだろう。
だが、男の拳はひとつの真理にたどり着いていた。
男が幼きころから、幾重にも交わした拳は知っていた。
打ち合わせるたびに、隠しようもなく伝わってくる『信念』の波動。
その『大いなる輝き』には、決して『善悪』という『概念』など存在しない、ということを。
輝ける『信念』の拳。『護るための拳』は、息を吹き返した。
そして、
『護りたいと思えるもの』を、再び見つけることができた――……
――……過去との訣別、しかし、胸に秘める狼の眼は、決して死なず。
決意の焔は静かに揺らめき、その拳は決して朽ちず。
人は、男は、男自身を、こう呼んだ。
≪孤狼の牙弾≫――≪エルヴァレッタ・ウェリルドーシェ≫と。
これが、≪四刃≫の誇り高き闘士、
エルヴァレッタの物語の全てである。
r.i.p...
最終更新:2010年09月26日 02:19