クソ親父とクソガキの会話


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よお、今日は月が綺麗だな。良い満月だ。
え?急にどうしたって?気にすんな。
ま、たまにはクソ親父の話に付き合っとけよ。

よし、今からする話は、あー、あれだ。ノンフィクションだ。
実話なんだよ実話。分かんだろ?
だからちゃんと聞いとけ、な?
イヤだから部屋に閉じこもろうとするな、聞けよ親の話ぐらい。

嗚呼分かった、オジサンよーく分かったよ。
こんな加齢臭たっぷりの親父の話なんか聞かねえってのか。
いいから聞いとけってんだ。じゃねえと俺拗ねるぞ。

‥‥‥ようし、前置きにだいぶ時間がかかったがよしとしよう。
『座った』ってことは『聞きます』ってことだからな。

じゃあ、始めっぞ。耳を澄ましてよーく聞け。
むかーしむかし‥‥イヤだから寝るな、聞け。
ああ畜生もう良い、下手に昔話風にするからいけねえんだ。
もう今から適当に話してくから聞いとけよ?

あれは俺がまだ会社員で上司にペコペコしてたころだ。
ピュアな俺は仕事で失敗してしまい、説教を受けただけで落ち込んでいた。
あ?嘘だって?ああそうだよ落ち込んでたんじゃなくてキレてたんですよ。

でだ、落ち込んだもといキレてた俺はとある川にかかってる橋の上で空を見ていた。
そしたらな、何かが川上から流れてきたんだよ。イヤ桃じゃねえよちゃんと聞け。


俺は目を凝らしてソイツを見たんだ。
けど夜だったからよく見えねえんだよ、その流れてるやつがよ。
だから俺は一旦橋から降りてソイツを見に行ったのさ。

それな、どうみても桶なんだよ。
あの昔風呂で使ってたようなアレな。
しかも中に何か白い布みてえなのが包まってるわけだよ。

流石に桃太郎ならぬ桶太郎はねえだろと思いながら俺はそれを取ろうとした。
もし誰かのだったら中に金目のものとか入ってそうだしな。
その時はそう思っちまうくらい貧乏だったんだ。だからそんな目で見るな。

取ろうとしたときに俺は川に落ちたんだ。
その川汚えからな。安物のスーツが酷いことになったよ。
まあ色々あって桶を持って上がったんだよ。

そしたらな、鞄がねえの。今頃川に流れていってるのよ。
笑ったよ。笑うことしかできなかったよ。流石のジョセフも苦笑いだよ。
後で母ちゃんにどやされるとか思いながら俺は桶の白い布を退けたわけだ。

案の定、赤ん坊だったよ。
本当に桶太郎かよとかツッコミながら俺は帰宅したわけだ。
母ちゃんにどやされたよ。桶太郎のことじゃなく鞄落としたことにな。


と言うわけでそのガキを育てることになったわけだ。展開が早い?気にすんな。
で、名前どうすんのよって話につながるわけだ。
そんなこと言われてもすぐには思いつかないわけだ。

だがそんとき俺の中には一つ案があったわけだ。
「桶太郎」っていう立派な名前がな。

案の定却下されたよ。即答だったよ。
なんであの人あんなツッコミのスピード速いんだろうな。
もう「速」いじゃなくて「迅」いだよアレ。
まあそういうところもまた可愛いんだけどな。

‥‥ああ、悪い、お前はあんま母さんと話せなかったんだな。
お前が物心ついた瞬間に逝っちまったからな‥‥。
何で、何でアイツが‥‥。

‥‥俺らしくねえな、こういうのは。
じゃあ話を戻すぜ、えーと、お前の名前の話だったな。
母さんが決めてくれたんだよ。
ちゃーんと理由があるんだぜ?


「赤」ってのはだな、ヒーローの色だ、そう思わねえか?
まさに正義の色だ。ってお前の母さんが言ってた。
俺は正直ヒーローじゃないし分かんなかったけどな、そういうのは。

別にお前如きに「ヒーローになりなさい」って強制してるわけじゃねえんだよ。
母さんの考えは分からねえ。が、俺の願いならいつだって言える。
「元気に陽気にカッコよく生きろ」、そんだけだ。

んでもって俺らの名前には代々「月」って字が入る。
なんで「月」なのかって?教えてやるよ。

太陽のように、皆を照らせるのはいいことだ。
だがその太陽さんも一日中空昇って光を届ける訳にゃいかねえのよ。
ヒーローだってせいぜい30分だろ?ウルトラ○ンなんざカップラーメン出来たら帰っちまうだろ?
だから、だ。「太陽がいないときに他の誰かが照らさなきゃならない」んだ。

それが「月」だ。
俺らが見えないところから、太陽の光を譲り受けて、俺らを見守ってる。
太陽のように強い光を持ってるわけじゃねえが、皆を照らしてくれる。

なあ息子よ。お前は「月」になれ。
お前のダチが暗闇の中さ迷ってたら、それを助ける光に成れ。
別に太陽みてえな強い光で闇を退けろなんて大層なことは言ってねえ。ハナから期待してねえからな。
闇が簡単に消えることはまずあり得ねえ。だが闇を耐え忍ぶ光にならなれるだろ?

「夜」が終わるまで、照らす。俺のついでの願いだ。
お前だけじゃあ照らせなくても、周りにゃ無数の「星」が、仲間がいる。
だから皆で照らしてやるんだ。分かったな?

ここに居る「月」にも「星」にもなれんクソ親父はもう直ぐでくたばる。
まだ小学生のお前にはちょいときついかもしれねえが、俺が今言ったことを心に留めとけ。
‥‥で、何でこんな話になったんだっけか。


あー思い出した思い出した、童話「桶太郎」の話だったな。
冗談だ。冗談だからそんな目で見るな桶太郎。
あースイマセンすいませんでした。

でだ、そのガキはすくすく育った。
今はもう小学生。時がたつのは早えもんだ。

鬼退治にも行かず平和な毎日だったが母さんは死去。
唯一育て親だったお前のクソ親父は病気で倒れ、今こんなへんぴな病室にいる。
残ったクソガキは近くの孤児院に引き取られるだろう。続く。

いいか、分かってるだろうがお前と俺は血が繋がってねえ。
今話したようにお前は川上からどんぶらこどんぶらこと流れてきた。

俺が知ってる情報はそんだけだ。
お前が何者であるか。何故川で流れてたのか。
それはお前が自分で探せ。気になるんだったらな。

だがそういう真実を求めるときの注意点だ。
お前が見た、聞いた、知った真実は、「真実」であっても「答え」ではねえ。
「答え」はお前が自分で考えろ、分かったな?
よし、良い返事だ。さすが俺の息子。

じゃあ、これで俺の遺言的な昔話は終了だ。
お前もそろそろ帰れ。仏壇の母さんが心配してる。
じゃ、またな。

――――さようなら、だ。




「‥‥ああ、夢かよ」

‥‥随分、久しぶりな声だ。
長ったらしい。二度と見たくない。

「‥‥くどいんだよ、そんなこと分かってる」

だから。

「心配すんなよ、母さんと一緒に楽しく暮らせ」

オレが死ぬまで、二度と声をかけるな。
二度と、二度とだ。

「答えなんざ、とうに見つけてる」


部屋の外から、友達の声が聞こえた。