Interview with the Mad scientist.


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【私は、ひとかどのもので有ると自負している】
【人より力が強いし、身体が大きい。知識を多く持ち、交友関係は広い】
【そして私はそれを自覚し誇らんとする己を認識し、抑えようと努めている】

【私は、悪が嫌いだ。世間一般に言われる、悪と呼ばれる行為が嫌いだ】
【己を誇る事は悪であり、私は己を抑えなければならない。他者を踏みつけにしてはならない】
【そして悪とは天下に晒されて裁かれるべきであり、悪を見つけだす行為とは正義である】
【そう信じた私がジャーナリストとなったのは、他者から見れば理解出来なくとも、私の内では矛盾無き事だった】


【とある会社の社長室に、私は案内されていた。ソファに身体が沈む感触が、緊張を幾らか和らげる】
【メモ帳とペン、懐に隠したテープレコーダー。これらを総動員して取材すべき相手は】
【新進気鋭の製薬会社〝カーペット・バイパー〟女社長、ゼノア・ハスクバーナ】
【いや、違う。それは飽く迄、世間に公表されている名でしか無い】
【彼女の本当の名前。決して顔写真を公開しないその訳は―――】


ああ、いらっしゃいいらっしゃい。良くもまあ、こんな所まではるばると来ましたねえ。
しかも、来た目的も目的、普通の人間なら考えもしませんってえのこんなアホな事。でしょ?
いや、いや、いや。感心してるんですってえ私。今まで貴方みたいに度胸の有る人間、見た事無い。
その度胸に免じて。免じて、で良いんですかねえこの場合?
………ま、お話しましょうか。

んで、どっから話します?血液型?スリーサイズ?今朝のご飯?
はあ………貴方、どうにもこうにもせっかちな人らしいですねえ………いきなり本題ってそりゃ……
あーはいはい分かってます分かってますはぐらかしません話しますー、だからちょいとお静かに。

私の出発点、ねえ………ちょいとばかし長くなりますよ?
コーヒーでも飲んで目ぇ覚まして、のーんびり構えなさい。砂糖は幾つ?


ありゃあ、ねえ―――





私の世界は、私が十六歳の頃に、完全な『停滞』をした。
同じ事を繰り返す日々だとか、人間関係が行き詰ったとか、そんな事じゃない。
比喩的な意味で言った訳じゃあないし、遠まわしな言葉を使っている訳でもない。

例えば、此処にコップが有るとする。
ガラスで出来たこのコップを落とせば、割れる。中に入れた水が床に飛び散り、掃除の手間が増える。
同居人にはあれこれと文句を言われるだろうし、代わりのコップを買いに行く必要も出る。
それが起こったのが夜だったら、次の日は少しだけ、マイナスのイベントが追加される訳だ。

『停滞』した世界に、その様な事は、ない。




燦々照り付ける日光は、周りより高い位置に頭を置く自分には、一段と酷薄。
こんな日は男子の影にでも潜り込んで、頭蓋の熱を冷ましながら歩きたい。
蝉が五月蠅いのも何時もの事とは言え、良い加減聞き飽きた。
頼むから貴方達、さっさと次の世代に引き継いで地面に転がって下さいな、と。

そんなこんな何時もの様に纏まらぬ思考を延々繰り広げながら、私は通学路を歩いていた。
回りを見れば、運動着姿の同級生やら先輩方やらが、同じコースをぐるぐるぐるぐる御苦労さま。
文化部の自分には縁の無い事と視線を落とせば、ようやく馴染んできた制服、気付けば少し袖が短くなっている。
背が伸びる分には別に構わないのだが、着る物が減るのはあまり嬉しくもない。
友人達と買い物に出た時のあの疎外感と言ったら、中々他に例えようも無く。
モデルみたいで良いじゃないとは言われるが、あそこまで凹凸極端な体をしていないのは自分が最も承知。
結局何が望みかと言えば、人間何事も丁度良く、が一番なのだろうとそれだけ。

友人達、と思考に乗せた所で思い起こされるのは、昨日の部活動での些細な喧嘩。
事の始まりが何だったかすらあやふやな、きっと傍から見ればどうでもいい事だったのだろうが、然し。
然し、どちらも謝らずにそのまま帰ってしまった為、どうにも顔を会わせ辛いというのは有る。
第一声、どうしようか。普通に挨拶?それともいきなり御免なさい?どうでも良い雑談を振ってみる?
半日の間だんまりを決め込むのは、どうにも自分の性には合わないだろうし。

「あー………暑い」

分かり切った事を思わず口から零し。
流れる汗を袖で拭いながら、コンクリートの上を歩いて行く。


昇降口から下駄箱へ。数百も靴が並ぶと流石に壮観壮観、とまた思考の脱線事故。
学年とクラスごとに綺麗に区分けされた下駄箱を、自分の出席番号求めて歩いて行く。
足の大きさは其処まで極端に変わる訳でも無し、それでもそろそろ靴を買おうか、そんな事を思っていた矢先。

「………痛っ……石?」

中靴を履こうとした右足の裏に、地味なダメージが襲いかかった。
小さな石。尖っている訳でも無く、刺さる事などは決して無い様な。
それでも、体重を掛けて踏みつけたら当然痛い。自分は武道家では無く、足の裏の皮膚は薄いのだから。
悪戯にしては中途半端な配慮、だったらやるなよとも言いたくなる。
あーいやだいやだ、子供っぽい事をする人間はこれだから。
まあ誰だか知らないけどと脳内で最後に付け加え、理科室へ向かう。


校舎の作りの為、日陰の広い理科室。燃えにくい材質の机は、顔を張りつけるとひんやり気持ち良い。
どういう材質なのかは知らないけれど、これを貰って帰ったらきっと快適に過ごせるのだろう。
色が黒だから日に当てておけば温まり易い筈。これで冬も大丈夫だ。

脱線を繰り返す思考を引きずり戻して、首を起こして周囲にぐるり。
すると、丁度と言おうかタイミング悪くとでも言おうか、見事に友人と目が合った。
然しそれも一瞬の事。此方が口を開こうとした瞬間に首をひょいと逸らされる。
ありゃあ、どうにも向こうから折れるつもりが無いどころか、此方の言う事を聞くつもりも無さそうだ。
仕方が無い、部活の終わりにでも。もうちょっと時間経ってからでも良いだろう。

それより今は実験を。結晶が大きくなる様子を記録して、それを報告してで終わる。
至って単純な実験だが、見た目が面白い。中々テンションも上がるというものだ。
スケッチを終えて、数字を書き。さあ、後は先輩方の何方でも。

小柄なあの先輩は、右に左に忙しそう。あちらのパーマ男さんは顕微鏡に集中している。
後輩女子に人気なボーイッシュなあの人は、どうやら今から帰る御様子。
さて、残った人と言えば、何やら今日はふくれっ面してらっしゃる部長さん。

「あのー、こんな感じでどうでしょう?」

割と軽い感じで、持ちかけた。


結論から言う。私が帰宅出来たのは、それから数時間後の事だった。
理由は簡単で複雑怪奇。提出したデータの一つ一つ、部長さんが目を通したのが原因だ。
いや、その言い方もおかしい?それは仕事といえば仕事だから仕方がない。
それにしてもやたらと厳しかった。やれ、此処は何ケタまでだー、こっちの数字がぶれ過ぎだー。
挙句の果てには、此処の数字は明らかにおかしいから、下準備からやり直せと来たもんだ。
貴方そりゃあ無理ですって言いたいけれども、学生の部活動は上下関係が厳しいもの。

デスクワークと言ってもこれだけ続けば疲労する、くたくたになった帰り際。
あの友人の方に何気なく目を向けて、声をかけようとした。
彼女は、周囲と楽しげに笑い、私の方には目も向けなかった。

下駄箱に戻った時、外靴にまた小石が入っていた事を、此処に書き足しておく。


帰り路、一人で歩く私。道端にたむろする不良が『一緒に遊ぼうぜ』などと声を掛けて来る。
はいはいと手を振って流し、自宅への坂を上った。





翌日、朝。
何はともあれ日付は変わる、世の中は刻一刻と動いている。
昨日がどうあれ今日は今日、それが世界の真実よ、と。
頭の中で節を付けて歩く私の耳には、蝉の合唱が飛び込んで来ていた。
ああ、五月蠅い五月蠅い。全く五月蠅いにも程が有る。
五月でも無し蠅でも無し、貴方達本当に場を弁えなさいよ、と。

回りを見れば、運動着姿の同級生やら先輩方やらが、同じコースをぐるぐるぐるぐる御苦労さま。
文化部の自分には縁の無い事と視線を落とせば、ようやく馴染んできた制服、気付けば少し袖が短くなっている。
背が伸びる分には別に構わないのだが、着る物が減るのは――――――待った、少し待った。
手首の骨の形状を観察していた私の思考は、其処で急激にブレーキを掛けて地面にタイヤ痕を残した。

「………………ありゃ?」


昇降口から下駄箱へ。数百も靴が並ぶと、流石に鬱陶しい事この上ないとも思ったり思わなかったり。
学年とクラスごとに綺麗に区分けされた下駄箱を、自分の出席番号求めてうだうだ歩いて行く。
別に今から靴を買わなくても、最悪サンダルでどうにか成るだろう、そんな事を思っていた矢先。

「………痛っ……石?」

この地味で些細な痛みを、態々描写する必要は有るまい。
何せ、既に十分に語ったのだから。この痛みと、それに伴う感情を。
からーん、からん。小石を落として一回、蹴っ飛ばして一回。
二回程鳴った軽い音は、どうにも耳にしっくりとは来てくれなかった。

校舎の作りの為、日陰の広い理科室。燃えにくい材質の机は、額を冷やすのには最適だ。
確か特別な板を貼って有るんだったか。じゃあその板が有れば家庭でもこれを楽しめます、と?
こんなものを家に置いて有っても仕方がないじゃないかと、自分の案を自分で却下した。


数時間後、帰路。
何も、昨日と変わりはしない。何も、違う所がない。
先輩方の表情も、視線を外す友人も。そして、提出を求められるデータも。
提出した後に何を言われるかも予想が付いていたし、此方が言葉を返したらどうなるかも分かっていた。
首を傾げて歩く私に、声を掛けて来る不良。『一緒に遊ぼうぜ』とは、どうにも魅力に掛けるナンパの文句。
はいはいと手を振って流し、自宅への坂を上った。

居間でソファに腰掛けると、弟がこれまた珍妙な表情をして座っていた。
父親似(らしいけど見た事無いから知らない)の弟は、私とは余り顔が似ていない。
それでも浮かべる表情はそっくりらしく、ならば私もきっとこんな顔をしているのだろう。
口を開いたのは同時。互いに先を譲り合って、結局先に文章を口に出せたのは私。

「今日って、今日でしょ?」

『ええ、まあ、今日ですよねえ………』

会話になっていない、自分達でもそう思う。だが、これだけで通じた。
今日は、昨日ではない筈だ。それを確認したかったのだ、自分以外の脳髄と。

『……姉さん、街一つ使ったドッキリなんて事は有りませんよねえ………?』

「そりゃ幾らなんでも無理ってえもんでしょ?何処の馬鹿金持ちが実行出来るってんですか」

「『ですよねー』」

綺麗にオクターブずれてハモる嘆息。何が起こったかって?
今日が昨日だった、それだけの事だ。一日振り返れば分かる事だろう。
つまり、〝何も昨日と変わらない一日が過ぎていった〟のだ。
嗚呼、なんと魅力的な響きか。変わらない毎日に万歳。





次の日も、その次の日も。カレンダーの数字は動いているのに、何も変わらない。
変わる事と言えば、少しずつ日の出日の入りがずれて来た事か?
いや、もう一つ有る。蝉の声が消えて来た事だ。
どうにも、人間様以外は短命で仕方がない運命を持っている様で。
貴方の代わりに其処をグルグル走ってる脳みそ筋肉連中が死んじゃえば良いのにねえ本当に。

学校でやる事は決まっている。靴の中の石を捨てて、実験結果を纏めて、やり直しをさせられる。
計算式全て覚えてしまっているから、訂正自体は楽。ペンを持つ指がだるいばかり。
友人と口を聞こうと思ってタイミングを掴めず、帰路では不良に声を掛けられる。
大体、今回で5回目か?そろそろ、一日に聞く全ての台詞を暗記出来た気がする。

少しばかりマシなのは、自宅にいるその時。
今日なのか昨日なのか分からない一日で知った事を、弟と検証する時間だ。
何せこの時間ばかりは、何時も違う言葉を聞く事が出来る。
ゲームにランダム性を持たせる事がどれだけ重要か、良く分かった気がした。
そうそう、ゲームと言えば、

『姉さん、大事件です。今更気付いたんですが』

「ん、何ですか?」

『ゲームのセーブまで巻き戻ります』

「………うわーお」

流石に、三日目で気付いた。色々なものが〝巻き戻っている〟のだと。
日付だったり行動だったり、或いは物品だったり。巻き戻るものは様々だ。
これが、全て巻き戻るのだとしたら、把握するのは楽だっただろう。
だが、巻き戻る事を自覚している私達の存在が有る時点で、それは無い。

「しっかし困りましたねえ……これからは格ゲーだのアクションだのばかりですか」

『隠しキャラ出せても巻き戻し、って問題も有りますよ?』

自分自身の知識や記憶は巻き戻らない。手の動きの滑らかさはどうなのだろう?
電子部品に記録される信号は巻き戻る、紙に書いたパスワードもおそらくアウト。
こうなると、本当に選択肢が無い。ちょっとした息抜きの手段まで削られると知って、何だかやたらとがっくり来た。
別に自分の好むゲームはもっと単純なものばかり、其処まで影響も無いのだが。
それでも、まずクリアが出来ないと分かったゲームが増える。それは悲しいものだ。
何せ、何時までも何時までも、その世界はゴールを迎えられないのだから。


『ところで姉さん、こっちは会話もまるっきり同じでした』
『其方の会話、ここ五日で変わりました?』

「会話?えーと―――」


「――――――会話?」

最近数日、なんとなーく振りかえって。
部長のくどい話と帰路の不良、そして弟と。それ以外と会話していないと、今更気付いた。
他の先輩方とも、友人とも。流石に、我ながら呆れてしまった。
なんでまた、こんな事になってるのやらと。
いや、原因という程でも無いが原因は分かる。自分から口を開かないのと、タイミングだ。
たまたまそういう日だった、それだけの事。

明日の今日は、もう少しばかり口を動かそうか。
部屋の灯りを消す時は、僅かに楽しかったかも知れない。





とまあ、此処までが前フリ。割とふつーの学生生活でしょ?イレギュラー有りますけど。
そんな訳で私、結構良い子だったんですよあの時代は。成績優秀でしたし。
このままだったら私、ただの登場人物オア何処かの主人公の協力者になったと思うんですよ。
ほら、世界がおかしくなると、何処からかそれを打ち破る主人公出るでしょ?小説のお約束で。

此処までの私は、何を出来る訳でもない。ちょいと雑学が多く、ちょいと記憶力が良く、背の高い女子。
物語の中心に躍り出る事なんざ出来やしない、可能性が有るとしたら何処かの誰かの隣に立っての登場?
あの時の私を見て、何処の誰が今此処に居る大悪党になるなんて予測できたでしょうねえ………


あら、コーヒーが空ですか。おかわりどうぞどうぞ、結構美味しいでしょ?





そうだ、会話が出来なかった理由の一つ目が、一人で通学していたからだ。
ぐるぐる回る犬にも似た運動部の方々を観察するのは良いが、それも飽きて来た所。
此処は心機一転、何か話題を持って居そうな人間を探そう!と意気込んでスタート。
拭わねばならない汗も少しずつ減ってきた。過ごし易い季節が近いのだろうか。
快適な登校時間には快適な音楽も欲しい。適当に何か持って来ようか。

さて、此処で私の一つ目の目的は、百メートル10秒台の速度で壁に正面衝突してくれた。
そもそも通学途中に誰かに遭遇する事が有ればその時点で挨拶なりなんなりしていた訳で。
そしてそうなればそのまま学校まで会話が続いていたという事は非常に簡単に推測出来る。
今日まで通学時に誰にも遭遇しなかった以上、今日になって偶然という事は有り得ない。
どーでも良いけど私の思考って、サ行からスタートする事がやたらと多いですね。

家を出る時間をずらすべきだった、と。予期せぬ事態が起こり得る日々に培われた、几帳面さに後悔数秒。
その数秒程度の誤差しかなく、毎日到着する時間に正確に、校門をくぐる事になった。


中靴の石を放り出して、理由のその二。部活に直行という行動を見直してみる。
と言っても、此処を如何にかする方法が有るのは、授業が有る日に限定するお話。
教室に居るのは吹奏楽部の金管楽器部隊だろう。会話の前に耳が壊れる。
大体私の繊細な耳はあんな爆音の傍に居て耐えられるようには出来ていないのだ。
その前に吹奏楽部に友人は余り居ない。知人なら居るけれども。
友人と知人は別。これ、女子の関係に於いて結構重要な事である、メモをどうぞ。

となれば此処は素直に部活に行くべきか?それ以外に手段も無いですか。
然しながらあの空間はあの空間で私語が割と少なく会話目的では居心地が悪く。
そもそもループする基準になる日にこんな行動を取っていた自分自身が恨めしいったらありゃしないのだけれども。

さりとて他に手も無し、部室へゴー。サボるパターンは明日試せば良いや。
この辺り、私の思考回路が少しずつ、今の私に近づいてるの分かりますね。
後から思い返して初めて気付く事。回想に耽るのも悪い事ばかりじゃあない。


部室に入って最初のアクション、友人と目を合わせて逸らされる。
その後は静かに実験を進めて、部活動の全てが終わるのを待つばかり。
本来なら私は途中でデータを提出し、部長さんに何時までも何時までも訂正をさせられるのだが……
此処で、介入案として、〝データを提出せずにこっそり帰る〟を入れてみようと思う。
尤もこの理科室、そんな事が出来る程に広くも無い。抜けだそうとすれば見つかりそうなもの。
だが、私はこれまでの五回の今日で、部長の行動パターンをなんとなく把握していた。
友人が帰宅準備を整えて、理科室から出る。それから数分後、トイレなのか慌ただしく出ていく。
確かその後、暫くは戻って来ない。一時間くらいは空白が有った?
其処で抜けだして走れば、多分友人には追いつける。彼女は随分とゆっくり歩く人間だから。

さあ、耐えに耐えて愈々その瞬間、理科室の黒板側の戸がガラリ。
足音が聞こえてから1・2・3、速効で荷物をまとめます。
後片付け?しない。だってどうせ明日には元通りだから。
部長さんがどれだけ腹を立てようと、明日になれば忘れてくれる。
こうして考えると悪い事ばかりでもないじゃないか。

ぱたぱたと廊下を走り、かくんと直角に角を曲がり。おや?と首をひねらされる事に。
其処に居たのはとっくの昔に帰路についてておかしくない友人。
普段ならいざ知らず、この時期?このタイミングで学校に残っててどうするのやら。
他の友人、この時間にはもうとっくに帰ってしまっているだろうし。
其処まで考えた所で、少々いやな予感。物影に隠れると遅れて数瞬、彼女がぐりんと振り向いた。
気付かれた?いや、そういう訳ではなさそう。きょろきょろ周囲を見回して、向かう先は体育館。





私の通っていた高校、当然ながら屋内の運動部も有る。だけど丁度〝今日〟は、揃って何処かに遠征。
屋外の部活が無理に体育館を使う理由も無く、整った設備も今日ばかりは完全に沈黙していた筈だ。
そんな所にわざわざ向かって、彼女は何用だろう?

距離を保って見ていると、大扉の正面で彼女は立ち往生。
この距離じゃはっきりと分からないが、多分鍵が掛かっているのだろう。防犯上当然だ。
それに思い当たる事が無かったのか、今度は彼女は職員室の方へと向かって行った。
そういえばあの子、ちょっと抜けてる所も有ったっけ。
その間に、こっそりと侵入してしまおう。ごそごそと体育館の床下に潜り込む私。
正確に言うと、体育館に通じる通路から床下に潜り、其処から体育館へと移動する私。
何の為に作られた床下通路かは知らないけど、きっと水道管なんかを扱うのだろう。


照明も落ちて、外の日光だけが眩しい空間。傾き具合は日に日に大きくなって、暗くなるのも早く。
それでもまだこの時間帯は、子供が外で遊んでいても安心な程度の明るさ。
ステージ脇のピアノの影に隠れて、私は彼女がやってくるのを待つ。
視力に完全に合わせて作られた眼鏡、視界はクリアー。

待ったのは数十秒だろうか?隠れるタイミングが遅ければアウトだった。
鍵の掛かった体育館に一人、変なシチュエーションで顔を合わせる事になっていた。
尤も、そうなったらなったで会話の糸口にはなるのか?
明日の今日になったら試してみよう、そんな分かりにくい思考。
彼女は、ボールやら跳び箱やら置いて有る倉庫の方へと入って行った。

此処でこの体育館について、後だしの様に構造を説明すると。
通路から潜って体育館の内部に出られるのは書いた。だが、倉庫の中にも出られるのだ。
途中が入り組んでいて暗いから動き辛いが、そこは手の感覚に頼るしかない。
そして倉庫の中に出れば、丁度跳び箱が大量に置いて有る場所。
侵入目的でそこに出ても、其処から身動きが取れない。だが、観察目的なら?
どうせ動く必要はないのだ、檻に閉じ込められた形になっても構うものか。


煤だらけ埃だらけ、ついでに暗くてちょっと怖い。床下は本当に地獄だぜ、と。
それでも割と早めに辿りつけたのは、反響する彼女と誰かの声のお陰。
床にはめ込まれた蓋を下から押し上げ、身体を持ちあげなければならない、が。
これがまた、音を立てない様にするには難しい。
慎重に慎重に、数分掛けて。それでも最後の最後、キィと音がしてしまった。

気付かれた?そう思って身を硬直させるも、然し何も反応は無い。
彼女の声も、それに答える声も、一定間隔で聞こえるばかり。
やれ、一安心。身体全体引きずり出して、跳び箱の影に変なマネキンの様なポーズで待機。

跳び箱は、段を重ねたり減らしたりする為もしくは運ぶため、手の指を引っ掛ける所が有る。
そこから声の方を覗いてみた。


その時の私は、まだ知識は有っても経験は無く、雑学は有っても必要な事を知らず。
だから此処までお膳立てされた状況で次にどういう事が有るかも予想出来ず、と散々な状態。
跳び箱の隙間の向こうに見えた光景は、予想出来る事だろうに予想出来なかった。

そう、実に単純。うちの部長さんと彼女の密会の光景、である。
丸めたマットを椅子にして二人ならび、なんともなんとも楽しそうなお顔。
聞こえてくる話題は、平和そうな内容。やれあの子がウザい、あの店が不味い。
新しい携帯買ったんだー、俺の家のテレビ古くてさー、昨日メール送ったのに気付かなかった?

やれやれ、で済ませられれば良かった。徒労の割に、大した事の無いオチだと落胆出来れば良かった。
そうすれば普通に帰宅して、何か食事でもしながら弟と雑談して。
その雑談の内容は、あの二人がしているよりは幾らか前向きなものだと断言できる


あの子がウザい、この子が嫌い。こんな話題で盛り上がるのは、思春期には有りがちだ。
主に、自分は優れていて周りが自分に従わないのが悪い、内心でそう思っていると楽しい。これは私の経験談。
部長さんは人が良いのかそれとも思いきりが足りないのか、此処で話題を楽しんでいたのは彼女の方。
同じクラスのあれがウザい、あれは素直で可愛い。可愛いってアンタ、あのおまんじゅうに手足の子が?
隣のクラスのあれが煩い、あの教師は良い教師だ。あの先生、授業が進まないって評判なんですけど。

知りたくなかった彼女の本性、とでも言おうか。
その言葉の中に私の名前が飛びだしたのは、客観的には意外でも何でもない事だったろう。

昨日あんな事あってさー、超生意気ー、信じらんなーい。
友達面してウザいんだよねー、背ばかっり高いひょろひょろの癖に。
むかついたからさー、靴に石入れてみたりとかしちゃったー。
あ、そうだ。私、暫くあいつ無視する事にしたからさ、あんたも手伝ってよ。
え?うん、暫く。だってあいつ、宿題とか写させてくれるしー。

場所、男女二人。この後の事は、語るまでも無いでしょう?


友人と知人は別。これ、女子の関係に於いて結構重要な事。
メモが本当に必要だったのは、あの時の私だったのだろうけれど。
あっはっはと笑い飛ばすにも、そういう事に対する耐性が低すぎた。
今なら眼前の光景を録画でもしようと考えただろうに、あの頃は声を殺すのが精一杯だった。
きっと、友人づきあいというものを殆ど経験してこなかった、それまでの生き方も原因だったのだと思う。
何せ、私は〝変な奴〟で今まで通して来たから。彼女の前には、友人と呼べる者も居なかったから。

いや、彼女は〝知人〟だった。多分、周りの他の人間も。
気付かざるを得なかった帰路は暗く、制服は埃や煤で汚れていて、視界ははっきりしなくて。


自宅への坂にさしかかる手前、何時も不良が声をかけて来る場所。
この時間ならもう居ないかな、結局部活より遅くなってしまったし。
彼女達が去って数時間、底冷えした身体を抱きしめながら通りかかる。

一緒に遊ぼうぜ、第一声は全く同じだった。
この手の人種は決まった場所から動かないのだろうか?根でも生えてるのだろうか?
何時もの通り、五人。煙草をふかしていたり、酒を飲んで居たり。
それでも、他人にあまり迷惑を掛けていないだけ、良質の不良なのだろうかとも、普段は思う。
今回の今日は、そう思う余裕もない。声を振り切って行こうとした。


おーい、何泣いてんだよ。普段は掛けられない、二つ目の声。
囚人の足に付ける鎖の様に―――とすれば少々大仰か。空腹の鼻に届くバターの臭いの様に、私の足を止めた。
別に、彼等は私を心配している訳でないのは、その瞬間に理解出来ている。
どちらかと言えば、からかいの意図が強そうだ。表情から予想はつく。
もしくは、ただ声をかけるネタが無かったから、目に付いた事実を述べただけか。それも有るだろう。
彼等が興味を持ったのは私という人格では無く、そこを通った女学生に過ぎない。
そして、それは彼女と良く似ているのではないか、とも思った。

同じクラスに居て成績優秀、仲良くしているグループは無い。
自分で言うのも何だが見栄えはそれほど悪く無く、だが着飾らないから自分が霞む事も無い
少々甘くしてやれば、宿題が簡単に終わったり、授業中が楽な時間になったり。
そういう条件に合致したのが私で、〝そこを通った女学生〟に近い、〝そこに居た優等生〟。
成程、初対面で声を掛けて来る人間と、数カ月の付き合いでそれなりに近くに居たと思った人間。
その二つは面白い事に、私に同程度の評価を下しているという訳なのか。

そして、私はもう、彼女に対して好意的な評価を下す事は無い。
なら、私に直接の被害を及ぼさずたむろしている彼等は、彼女より高い評価を与えるべきでは無いのか?
追い詰められた人間の思考回路は、何処までも暴走する。


遊んでけよ、三つ目の声。招く手に、軽く鞄を放ってやる。
見事にキャッチした男の方が、むしろ意表を突かれたような顔をする。

「此処じゃ寒いでしょ?初めての子には優しくするもんです」

今回―――六回目の〝今日〟が終わるまで、私は家に帰らなかった。
あまり痛いとは感じなかったし、思っていたより疲れたが楽しかった。





目を覚ましたのは、何時もの様に自室。昨日意識が消えた、何処とも知らぬ廃屋では無い。
何時も通りにパジャマを纏って、皺一つ無いシーツの上。
頭の下に有る筈の枕が何故か胸の中に引っ越しているのは、自分の寝相がミステリーだとしか言えない。

右手の甲を見る。横になった時に、小石でちょっと引っ掻いてしまった部分。
傷の痕どころか、皮膚の変色すら見られない。完全に無傷だ。
戯れに穢された筈の制服は、ハンガーに新品の様な美しさで引っ掛かったまま。
自分自身も、身に着けていたものも、リセットの対象となるとこの時に知った。
変わらぬは己の記憶ばかりなり、と。

着替えを済ませて台所に向かうと、弟の力の抜ける様な声。

『おや姉さん、昨日は何処に?いやはや、一応あちこち探したんですよ?』
『外で食べるだけのお金は有る筈だし、其処まで心配はしませんでしたけど』

「そーいう時は、心配したと嘘でも言いなさいな。まあ心配の必要も有りませんでしたけど」

流し台に映った自分の顔は、なんとも言えず気分の良さそうな顔。
これなら確かに、心配する必要はないなと自分でも思えた。


今日が繰り返して一週間、私は部活動をサボる事にした。
それだけなら、制服を着る必要はない。これにはこれで理由が有る。
職員室の先生方に挨拶するには、こうでなくてはならない。

普段より数十分も早く学校に到着し、階段を上って職員室へ。
家庭科の先生は、生徒の大半に、好き嫌いで評価されないおばあちゃん先生。
やや悪い表現を使えば人畜無害、おちついて会話をするのには適した相手だろう。
だが、私が今欲しいのは、そんな時間の潰し方では無い。

「すいません、休みに入る前に家庭科室に忘れ物してたの思い出しまして」
「直ぐに取って来ますから、鍵だけ貸していただけませんか?」

学生鞄は意外と大きく頑丈、何かを隠そうと思えば簡単な事。
確か、家庭科室の辺りだけ、防犯装置が無いのだった。

次に向かうのは、図書室に隣接した司書室。あそこのパソコンは動作が軽く、プリンターも近くに有る。
そして私の記憶が正しければ、この学校の近くに出来たファーストフードは、ネットで割引券を配布していた筈。
携帯の画面を見せるか、印刷したものを持っていくか。それで割引という良く有るサービス。
ここで紙媒体の利用を選択したのは、それがなんなのか一目で分かりやすいからだ。
インパクトは大事、これも昨日なのか今日なのか良く分からない一日で覚えた事。


準備は整った。腕時計の針は順調に進む。
彼女の行動パターンからすると、そろそろ昇降口に現れる事だろう。
私の姿を見れば、きっと無視して行こうとする筈だ。だからこそ、その姿にインパクトが欲しかった。

全くもって呆れる程簡単に、計画は成功する。
一度目を逸らした彼女だが、視界に映った何かに反応して此方を向く。
私が並べた店の名前が、新メニューが、彼女の首の向きを固定する。
後はたった一言、「昨日はごめんなさい」。これだけで良いのだ。
どうせ彼女の約束は今から5か6時間後。これから街に繰り出すだけの時間は十分に有る、と考えるだろう。

「あ、そうだ。ちょっと手伝ってくれます?」

ちょちょいと手招き、家庭科室の方へ。
防犯装置が無い、先程表記した通りの場所だ。


手伝ってと言われれば、素直について来る。この辺りはまだ、捩じれ切っていない?
でも、それは表だけかも知れない。財布を逃がさない為の演技かも知れない。
おごるとは一言も言っていないが、きっと彼女はそのつもりで居る筈だ。

家庭科室に入り、エプロンを適当に取ってきて、制服の上に。
それから更に、別なエプロンをマフラーの様に、首の辺りに巻き付けた。
この珍妙な服装に、指をさし腹を抱えて笑う彼女。

髪を掴まれた瞬間の表情の変化は、録画して見返したい程だった。
蛇口に鼻を打ちつけられて泣きわめく様は、何とも言えず滑稽だった。
噴水の様に鼻血を出し、痛い痛いと大騒ぎする彼女。
でも、耳元で一言「黙れ」と言えば、引き攣りながらも口を両手で覆う。

「そうですよね、包丁で脅されれば怖いですよね」
「貴女の目の前で持ちだす訳にもいかないし、面倒な事をしましたよ」
「ですが、手間をかけた以上のリターンが有った様でなによりなにより」
「ねえ、助けは呼ばないんですか?叫ばないんですか?誰かが聞きつけるかも知れませんよ?」
「勿論、そんな事をしたら誰かが来る前に貴女死にますけど」

身長差20cm近く。両者とも文科系の部活動。体力で比べるなら、私の劣る部分は無い。
背後から首に包丁を突き付けられ、しゃがみ込まされ。彼女はなんとも弱っちい存在に見えた。



「何でだろうって顔してますよね、貴女。分からないのも仕方が無いでしょうけど」

「でも貴女、これまでに何度も何度も、あんな事言ってたんですから仕方が無い」

「それと同じだけの回数……結構地味な嫌がらせしてくれましたよね」

「それに、これからも何度も何度も。貴女は死ぬまで、あんな事を繰り返すんですよ」

「訳分からない?狂ってる?いやまあ、私もそう思いますよ?うん」

「でもね、仕方が無いんです。貴女が分からない事も、分かってましたし」

「じゃ、また明日会いましょう」



骨が固い事は知っていたが、思った以上に苦労する。結局切断は諦めた。
喉に突き刺し、上に跳ね上げ、下に振り降ろし。魚を捌くのと似た感覚かも知れない。
切り開いた腹の中身は赤黒く、図鑑に載っているのは見やすい工夫が有るのだなと理解させてくれる。
二重に巻きつけたエプロンは、帰り血を防ぐのに良く役に立ってくれた。
床に広がる致死量の血液に、白い靴が台無しになったが、もうそんな事はどうでも良く。
裸足に制服という奇妙な姿で昇降口に向かう私を、誰かが見とがめる事も無かった。




それからは、毎日楽しかったですよ?
色んな殺し方を考えて、毎日実行して。その足でまあ、彼等と色々して遊んで、と。
次の日には彼女、無傷で生き帰ってましたし、私は私で普通に自宅にワープです。
それでまあ馬鹿馬鹿しい事に、何回同じ手段やっても同じ様に引っ掛かるんですよ。
彼等の方は彼等の方で、交友関係が広いのか結構色んな友人呼んできましたね。
こっちの行くタイミングで呼ばれる友人が変わりますから、結構色々試してみました。
その友人がまた別の友人呼んだりで、そうですねえ………えーと、あの彼があれ読んであっちの子呼んで……
最終的には男女合わせて3桁以上と遊んだんじゃないですかねえいやはや若気の至りでアッハッハッハ。

人間の腹の中身引っ掻き廻して、その構造もよーく分かった。どう言葉を掛ければどう答えるかも色々試した。
次の日に全てリセットされると分かってれば、何をしても怖くない。
知識だけは引き継げる。だから、私は全てを知識にしました。
何か研究が完了しても、紙やデータに残せない。全て、記憶に放り込む。
私の専攻―――魔法生物と人体の融合―――の基礎は、この頃に完成させてます。
で、色々有って今の主君に拾われるまで……4年くらいでしたっけ?



………その世界が、なんなのか?それに関しちゃ永久に、正確な答えは出ないでしょうが………
ゲームの乱数、分かります?あれってフレーム単位で同じ行動取ると、同じ数字返すんですって。
まるでそれと同じ様に、こっちの台詞が同じなら向こうの台詞も同じ。
こっちが何処でどういう行動を取ると、どう変化するかも同じ。
なんだか、似てませんか?

あれはきっと、何処かの誰かがやってたゲームなんです。
とあるステージのハイスコアを更新する為に、色んな数値を弄って。
クリア、つまり日付の変わる瞬間にリセットボタンを押し、開始時刻に巻き戻す。
その過程の中で〝スコア更新に必要と確定した〟行動はループから外れる………蝉の声や、近所の老衰で死ぬ人間なんかがね。
弄る側としちゃ、不確定要素は少ない方が良いんだから。

そして私と弟は……それからご主君や、他の面々もですが。
それが、スコア更新の為に操作すべきと判断されたキャラクターでありフラグだったのだ、と。
あれ以来ゲームが嫌いになった私は、そう判断してます。
科学者が神の存在を信じるなんて?おーやおや、私は神なんて一言も言ってませんって。


――――――ところで


【ぐらり】
【私の世界が、大きく揺れた】
【床が顔に叩きつけられる錯覚、頬に冷たい建材の感触】
【瞬きは出来る、呼吸は出来る。思考すらこうして回転しているというのに】
【何故だろう。私の手足は、私を完全に裏切っていた】


この物語の主人公の少女………いやまあ私ですけど、どう思います?
友人に裏切られておかしくなった不幸な少女だと、貴方は思いますか?

私が第三者としてこの話を聞けば、Noと答えますよ。
だってそうでしょ?たった一週間ですよ一週間。状況がおかしくなってから。
それに、実害がそこまで大きかった訳でもない。友人と思い込んでた子、そこまで酷い事しました?
陰口なんざ日常茶飯事なのが学生、それで人殺しなんてあんた有り得ないでしょう。

しかも。これ以降この少女は、元友人を様々な方法で殺し続けました。
刺殺絞殺薬殺毒殺、何処で手に入れたか爆殺銃殺。車に轢かせたのも何度か。
止血を完全に正しく行って、麻酔無しで手足を切り取った事も有りますねえ。
上手く騙して不良の所に連れて行って、輪姦させた挙句自分で殴り殺した事も有りました。
眼窩から指で直接脳を掻き回して、ギリギリ生きているレベルで留めた時はなーかなか愉快でした。
さて、同じ状況に置かれて貴方、此処まで出来ます?


【軽率だった、と言わざるを得ない】


人間にはねえ、生まれつき善人と悪人と居るんだと思いますよ。
んで、何らかの条件が満たされた時、悪人はようやく自分自身になれるんです。
それまで、きっとその悪人は、あまり恵まれた状況に居ない。自分で居られなかったんですから。
だから世間は、「人が悪人になるのには理由が有る」なんて言うんです。
いやはや全く愚かな事、そう思いません?だって―――


【私の正義の心は、私の人生を終わらせる事になった】
【彼の女悪党に取り入って、やがて正体を暴き、公正なる捌きを与える】
【理想に燃える熱き心は、右肩上がりに増して行く心音に掻き消される】


―――だって、私は生まれつきの悪人なんですから。


【私程度の正義の味方が、如何にか出来る相手では無かった】
【私程度が欺いて、日の下に引きずり出せる相手では無かった】
【最後の希望は、私の死体が何処かで発見され、テープレコーダーが見つかって………】


心配しないでも大丈夫ですよ?貴方を殺したりしません。
貴方に飲ませたのは毒薬じゃあなく麻酔薬ですもん。ね?もう痛くないでしょ?


【彼女が振り下ろした金槌が、私の手の指を砕いて行く】
【言葉の通り、痛みは感じない。もう、手がそこに有る事さえ分からない】

【テープレコーダーが最後に拾ったのは、其れ自体がぐしゃと踏みつぶされた音】
【そして、私の耳にも同様に届いた、粘りつく様な甘ったるい彼女の声】



じゃあ、また明日遊びましょう?




【Interview with the Mad scientist.】
【Route:interviewer / Normal End.】