蓬莱の少年


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〝ブレーティア〟という家――どこかの国の、一大貴族。大きな屋敷を構えていて、当たり前の事だが『使用人』を雇っていた。
その内の一人の、まだ小さな少年……ハイネル。
挙動や言動もまだ幼く、仕事も満足にこなす事は出来なかった。叱られ、暴力を振るわれる事も少なくなかった。
だが、彼はそれでも満足していた。〝ブレーティア〟という大きな家の、その一員として暮らせているのだから。

しかし。その充実した生活も、終わりを告げる事となる。
――新薬……夢の薬、〝蓬莱の薬〟の話がブレーティア家に回ってきた、その時を以て。

その話の内容は、『未完成の〝蓬莱の薬〟の実験台となってくれる人物を寄越してくれたら、完成品を無償で提供する』というもの。
無論断る理由は無い。人なら余っている――便利な、『使用人』が。
そして、その人物は、仕事ができない『使用人』から順に、男女や年齢に関係なく数人選ばれた。
……その中に、ハイネルも入っていた。

彼を含む数人は、ある建物の中へと送られた。
そしてその中で、全員に〝蓬莱の薬〟を投与され、経過を観察される事となる。

その様は凄惨だった。
薬を投与された瞬間拒否反応を起こして死んで行く者。
徐々に体を蝕まれ、皮膚が崩れ、内臓や骨が解けて無くなっていく者。
あるいは精神を冒され、半狂乱になって自らの不老不死となった体を傷付け、使い物にならなくなった者。
……ただその中で、ハイネルだけは『銀髪化』以外の目立った副作用を起こさなかった。
彼の場合は、正確には〝不死〟ではなく、〝寿命の凍結〟でしかなかったが……研究者はひとまずの成功と見做した。
ハイネルは〝成功作〟として研究された後、解放された。彼が脅威となる可能性は、現時点では低いと考えたからだ。

解放された彼は、自らが慣れ親しんだ家――捨てられた等とは、全く思っていない――へと向かう。
ブレーティア邸は大きいからすぐに分かる。すぐに帰れる。
帰ったら、まず勝手にいなくなった事を謝って、……もう一度、働かせてもらおう。
僕の大好きなクッキーも、きっとまた食べられる。
そんな思いを、胸に抱いて――――、


そして彼は、自らの帰る場所だと思っていた屋敷が無残にも炎上していく様を、目に焼き付ける事となる。


その後彼がどうしたかは、彼自身あまり覚えていない。
恐らくは逃げ出したのだろう。火から、恐怖から、現実から。
あの火事は〝能力者〟の襲撃によるものだと聞いた。……でも、自分にはどうしようも出来ない。
けど、どうにかしたい。奴等に、自分の帰る場所を壊した〝能力者〟に復讐したい。

――そうだ。自分には悠久の時間がある。
その時間を使って、奴等に復讐する力を身につければ良い――
この考えに至るまで、そう時間は要さなかった。
永遠に生きる自分が、昼の世界で人と関わる訳にはいかない。
彼の姿は、永遠の夜へと消えて行った……。


時が過ぎて。
ハイネルは強大な力を得て、【夜の統制者】と呼ばれるまでに至った。
……復讐すべき〝能力者〟が既にこの世に居ない事に気付いたのは、その後だった。
彼に残されたのは、数百年もの生命活動の中で得た知識と、【夜の統制者】としての力だけだった。


そして、それは現在へと続く。
彼の愚かで、空虚で、不運な物語――。